婚約破棄されました
学校の中にある大広間には、私を含めた複数の人がいた。
私以外の人は壇上におり、ひどく冷たい目で私を見ていた。
私の名は、ディアナ・オルソー。
オルソー伯爵家の次女だ。
壇上にいる人の1人であるオーディン・レスターの婚約者だ。
私とオーディンは幼い頃から一緒におり、こんな冷めた目を向けられたのは初めてで、わたしは怖くなった。
私はオーディンのことが好きだ。
オーディンと婚約を結んだと知ったとき、喜びのあまり寝付けなかったくらいだ。
それからは必死だった。
オーディンは公爵令息で能力も高く、顔立ちも整っていたからオーディンにふさわしくなるために寝る間もおしまず努力した。
政治も、魔法も作法も必死になって勉強した。
そのため、オーディンとの交流が疎かになってしまったのはわかっていた。
でも、オーディンならわかってくれると何もいわずにいたのが悪かったのだろうか?
だから、こんな結果になってしまったのは仕方のないことだったのだろうか?
だから、私はオーディンに婚約破棄されてしまったのだろうか?
婚約破棄された理由は私がレイラ・ダルトン男爵令嬢をイジメていたかららしい。
もちろん、そんなことはしていない。
そんなことする暇があるならオーディンにふさわしくなるために努力する。
私はやっていないと必死に主張した。
でも、信じてはもらえなかった。
壇上にいた人達はオーディンも含めて皆レイラ嬢を信じたからだ。
そのことがひたすらに悲しかった。
壇上にいた人は皆私の友人だった。
少なくとも私はそう思っていた。
何年も一緒にいたのに彼らは私よりもレイラ嬢を信じた。
レイラ嬢は半年前に学園に編入してきた。
そのころからレイラ嬢はその可愛らしい外見から注目を集めていた。
最初は好意的な噂だったものがあるときを境に悪意のあるものが増えてきた。
なぜならレイラ嬢は身分の高い、それも婚約者のいるような方と親しくしていたからだ。
それだけならまだしもレイラ嬢は密会するかのように人気のない場所で、2人きりで会うことが多かった。
そのため、婚約者の方々はレイラ嬢に対してよい感情を抱いていなかった。
そのころからだっただろうか、レイラ嬢に対する嫌がらせが起きはじめたのは。
物の紛失や破壊、陰口など嫌がらせは多岐にわたった。
そしてその嫌がらせはすべて私がやったものとオーディン達に断罪された。
私は何もやっていないといくら言っても無駄だった。
その結果がオーディンとの婚約破棄だった。
「自らの罪を認めようともしないとは、恥を知りなさい。この汚らわしい罪人が」
そう言ったのはオーディンだった。
その言葉からオーディンは私を軽蔑していることがよくわかった。
わたしはもう何も聞きたくなかった。
涙を流しながら耳をふさぐ。
それでもなおオーディンの言葉は私の耳に入ってきた。
「あなたみたいな汚らわしい人間と婚約していたことは私の汚点です」
もう、やめて。
なにも聞きたくない。
それ以上、私を否定する言葉をいわないでーーーーーーーーーー!!
「あなたなど、存在しなければよかったのにーーーーー!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが壊れたような気がした。
たがを失った魔力が内側から暴れ出す感覚がして、私の意識は遠ざかり、やがて失った。
目が覚めたとき目の前には知らない人達がいた。
その人達は口々に目覚めてよかったと、私にいってくる。
むこうは私を知っているようなのに私がむこうを知らないのは不公平のように感じたので、私は質問した。
「あなた方は誰ですか?」
そうしたらむこうは目を見開き、無言になった。
先程まで私が目覚めたことを喜んでいたのに、ショックを受けたかのようにシンッと静まり返っている。
しばらくしてから私の質問の意味を理解したのか、私より10歳ほど年上に見える女性が震える声できいた。
「わたくし達が誰かわからないのですか?」
「ええ、そもそも初対面ではありませんか?」
そう言い切るときいてきた女性は手で顔を覆い、その場に泣き崩れた。
その女性を慰めながら女性と同じぐらいの年齢の男性が質問してきた。
「君は、自分の名前がわかるかい?」
何を当然のことを聞いているのだろう?
私はその質問に答えようと口を開いて、驚いた。
答が出てこなかったからだ。
わからなかった。
記憶を探ろうにもなにも思い出せない。
名前も家族も友人も自分のこともなにもかも。
私は、誰だーーー?