父と娘
この間主人が下船した時の話。
私はジャイ子(1歳7か月)が主人を泣いて拒否すると思っておりました。誰? 何者? この見知らぬ男? と。
私の家族も、保育園の先生も、みんながみんなそうに違いないと思っておりました。
半年も船に乗っていましたし、赤の他人にしか思えないだろうと。あらあら、慣れるまで大変でしょうねえ、と。
長男のときがそうでしたから。
長男は主人の存在を全否定して私に主人を近寄らせず。
主人が下船して数日間は泣きすぎて長男の声は枯れたほど。
しかし、なんと予想に反してジャイ子は。
主人を見て泣かなかったのです!
半年ぶりに再会した主人を見るなり、ジャイ子はとてとてと近寄り、抱っこを許しました。
……なぜ?!
私は混乱しました。
長男のときとはまるで違う。なぜこんな奇跡が起こりうるのか?
(長男のときに感じたうへへ、ざまあみろ、という優越感が感じられないではないか! いつも世話してもらってないくせになぜ奴に気を許すジャイ子!……と面白くない私)
その日はされるがままに抱っこされ、お風呂にも主人に入れてもらったジャイ子。ドライヤーからいつも逃げ回るくせに、その日だけは大人しく主人のひざにちょこんと座り、髪を乾かしてもらうジャイ子。
長男よりジャイ子は賢いのでしょうか? 長男は主人の乗船中に父親のことを頭からすっかり消去しましたが、ジャイ子は記憶力が良く主人のことを覚えていたということでしょうか?
いえ、これがアレですね。
エディプス・コンプレックス、というやつですね!
子供は異性の親をより愛し、同性の親にライバル心をもつとかいう。
うぬう、やはり女の子はパパ大好きっ子になるのが普通なのか。なんだか悔しいのう。
(いつも奴はいないくせに……! いつも世話してないくせに! ←繰り返しますがここが悔しい)
と、思っておりましたが。
主人を受け入れたのは下船した当日で。
二日目からは拒否し始めました。理由は分かりませんが。
抱っこしようとすると、泣く。一緒にお風呂なんて論外。着替えの手伝いも拒否。
一番抵抗を示したのはオムツの取り換え。ぎゃあぎゃあ泣いて、暴れ回ります。
『と、殿方にされるなんてク、クツジョクでちゅわ!』
という感じ。
なぜでしょうね? 初日はあんなに受け入れていたのに、ねえ? (←内心、嬉しい私)
――父と娘。
海の世界におりましたとき。
乗組員のパパさんとその娘さんはディープな関係を築かれてる親子が多かったように思います。
やっぱり、普段いないぶん淋しさからパパへの愛しさが普通の家庭の子よりも倍増しちゃうのでしょうか? パパの方も普段会えない分、普通の父親より娘への対応が甘々になってしまうのでしょうか?
『一緒にお風呂入ってるよ、もう娘、高校生だけど』
……と告白する乗組員パパさんの多かったこと!
『娘なんか、平気で俺の前バスタオル一枚で出てくるよ』
『裸になって俺の前でブラジャーつけてるよ』
なんて言葉もちらほら。
小学校高学年ともなれば、たいして発育もしていない身体にも関わらず(今もですけど)、祖父や父が脱衣所の前を通っただけでぎゃあぎゃあ言っていた私からすれば信じられない!(でも、そうですよねえ? 胸がふくらみ始めたらそういうものでしたでしょ? 女性の皆さん)
家族とはいえ、異性なのに!――――
『この間、高校の担任の先生に注意されちゃったよ』
娘さんとお風呂に入っていた乗組員のパパさんはある日、しょげたように言ってました。
『男性に対する警戒心がなくなってしまうので、そういうことはやめてください、だって』
うん、賛成です。やめたほうがいいと私も思いました。
……こういう思い出話を主人と話していましたら。
――うん、船の人そういうの多いよね。今乗ってる船の人も、娘さん高校生だけど一緒にお風呂入るときある、て言ってた。
やっぱり! 海の人間にはそういうのが多いのか! そこが陸の人間とはちがうのか!
――ええー……。大丈夫なんやろうか? お父さん、娘が相手やったらヘンな気は起きへんのやろか?
――いや……。俺もそう聞いてみたんだけど。
聞く私に、主人は答えました。
――『いやあ、正直言って高校生となりゃ、娘といえどやっぱりムラムラくるでえ! だって、かあちゃんとはハリが違うもん、ハリが! あはは!』……て、言ってたよ。
うぬう、やっぱり、そうか! よくぞ、正直に答えてくれました。お父さん。
いいですか。わかりましたか。全国に何人かおられるかもしれないパパ大好きっ子の女子のみなさん。
小学校高学年を過ぎれば、お風呂は一人で入りましょうね!……
――――――――――
主人にクギをさしておきました。
――ジャイ子が大きくなってから『お父さんとお風呂入りたい』て言われても断ってや。
――ええー……発育具合を確認したい……。
アカンわ!!