教官1
学生時代の話が続きます。
学生時代の記憶で、今でも私の頭の中に残ってる人が何人かいます。
そのうちのお一人のお話を今回したいと思います。
学校の教官で、その当時一番若かった教官です。
私が学生だった頃、『この教官、実はアレっぽいんじゃないの?』 という噂がありました。
まあ、根も葉もない噂だったんでしょうが。
この教官、がですね。
よく、大浴場でなぜか主人(その時は彼氏)と遭遇するのです。
――いつもお風呂に入ると、居るんだよな。
と主人が私に教えてくれました。
――この前さあ……。
いつものように、大浴場で身体を洗う主人。
教官が湯船につかりながらそれを見ています。視線を感じる主人。
『〇〇ァ(主人の名前)!』
教官が主人に呼びかけます。
『……おまえ、自衛隊みたいにいいケツしてんなァ!』
――――――――――
『……そりゃあ、困ります』
と、とりあえず笑って返した主人だったそうですが。
――え、それ、狙われてるんちゃうの?
その話を聞いた私は心配になりました。
その当時は、私は主人にメロメロだったんで(← 今は?)ええ、身を案じましたよ。
彼氏が、噂のある教官にケツを褒められちまったぜ!
(というか、教官は自衛隊のケツを知ってるんですね?)
――気ィつけてや。
と、警戒するように私は主人に言いわたしました。
まあその後は、特に何もなかったんですけどね。
さて、この教官。
別の理由でも私の記憶に残っています。
私が学んでおりましたこの学校の付近に天女伝説がある某浜辺があります。
この浜辺は、ある噂が昔から後を絶ちませんでした。
ここ、松原は……丑の刻参りの名所、だと。
ええ、有名でした。何十年前に卒業した先輩も同じようなことをおっしゃってましたからね。
松原の松の木にわら人形が五寸釘で打ち付けられているのをよく発見するとか、しないとか。
そういう話を聞いて、少しぞっとしました。
昼間は富士山が見えて、とても美しい浜辺なのに。怖くなりますよね。
私の通った学校の教官に一人、丑の刻参りを目撃しちゃったかも、と告白した教官がいました。
ええ、先程の話の教官です。彼はよく浜辺をランニングするのだそうです。
ある日の明け方、浜辺をランニングしてた教官。
前に位置する松原から白い姿をした人が歩いてきます。
そのまま、走り続ける教官。
近づくにつれ、相手の服装がはっきりしてきました。
――白装束。頭にアレ。まさに、丑の刻ファッション。
目が合いました。
……そして、微妙な空気を感じながら、そのまますれ違う二人。
そうでしょうね。
見ず知らずの人にツッコむわけにもいかないし、私だってそんな行動をとるしかないと思います。
『いやあ、本当に、あんな恰好してたんだよ』
と、私たち生徒に語ってくれた教官ですが。
……あれ?
丑の刻参り、てたしか他人に見られるとまずいんちゃうかった?
他人に見られると呪いが自分に返ってくるので、
『み~た~な~……』
て、その相手を追いかけてくるんちゃうかった?
ねえ?
小学校の図書室に置いてある『怖い話』にそうのってましたよねえ。
大丈夫なんですか!? 教官!?
実は今、狙われてるんじゃないですか!?
教官に何か起こるのかとドキドキしていた私たちですが、その後何事もなく、今ではご結婚されたそうで良かったです。
やはり、ネもハもない噂だったようですね。良かった、良かった。