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田中先生

 二年前のある時です。

 主人の下船中、私と息子の三人で近所のファミレスに夕食を食べに行きました。

 食べ終わって、息子を間にはさんで手をつなぎ、マンションへの帰路を歩いておりました。

 そのとき、主人とはどうでもいいような会話をしていたと思います。その会話は息子には入れない内容でした。

 ですので、主人と話す間、何回も私の気を引こうと話しかけてきました。


「ママ、前の仮面ライダーフォー〇のメテオ、かっこよかったね」

「ママ、布団からゴキブリでてきて怖かったね」(冬布団を押し入れから出したところ、間に死体が挟まってました)

「ママ、さっきのハンバーグ美味しかったね」


 私は適当に相槌を息子に返しながら、主人との会話を続けておりました。


「ママ、田中先生かっこいいね」


 ん?

 次に息子が言った言葉に私は立ち止りました。

 田中先生? 誰や、それ。


「田中先生? 保育所の先生?」

「ちがう、ママが好きな先生」


 保育所の先生じゃない。私が好きな先生?

 息子は私の気が引けたのが嬉しいのかニコニコしています。


 誰やろう。

 専門学校行ってたときに、憧れてた少し年上のクールなバツイチ先生?

 いや、でもその先生は田中先生じゃないし。

 田中、田中……女の先生ならいるけど。


「女のひと?」

「ちがう。ママの好きな田中先生じゃん」(息子は今でさえ関西のジャリですが、このときはハマっ子で、じゃん言葉を使っていました)


 ええ?

 私の好きな田中先生? だれ……?


「ああ!」


 やっと思い当たりました。


「田中先生か!なんで〇鑑定団の!」


 そう。息子とよく見るTV番組、なんで〇鑑定団の先生、田中先生のことだったのです。

 絵画、書を専門に鑑定する先生は、ハンカチで口を覆いながら鑑定する「鑑定界のハンカチ王子」と呼ばれています。

 いかにも京都のボン、という優しげな容貌と柔らかな話口調。(でも、内容は辛辣だったりします)

 あの声質が好みでうっとりとニマニマしながら、いつも私は先生の解説に聞き入っておりました。

(あんなに上品そうな京都の男性なのに、子供は五人! そのギャップもツボ!)

 なんで〇鑑定団のオープニングを、TV前を陣取り、今日は田中先生出てくるかな、とどきどき、ハアハア(?)しながら見つめているのは日本全国でも私ぐらいではないでしょうか?


 ちなみに全くの独断と偏見でありますが、地域性としてみると、私は京都の男性が一番かっこいいのではないのかと思っています。(付き合った経験もないくせに)

 大阪弁とは違う京都弁が心地よく感じるのと、京都では男女ともファッションが洗練されているような気がして。(神戸までいくと、またファッションが違う)

 二番目は、広島の男性です。

 これは、今までの人生で出会った広島出身の男性が、皆かっこよくて、面白くて、頭もよくて、仕事ができる人だったから。

 三番目は九州男児。(範囲広いですね)

 なんか、フンドシをはいて神輿かついで威勢のいい漢の中の漢! というイメージがするから。(失礼でしたら、ごめんなさい。でもそういう感じに、う、とくるので)


 話がそれてしまいました。すみません。


 息子の言っている先生とは、その田中先生だったのかと納得しました。

 でも、なぜ、突然、いきなり? 田中先生が出てきたのか。


 傍らにいた主人が苦笑しました。


「☆☆(息子の名前)、俺に嫉妬してんのかなあ。〇〇(私の名前)の気を引こうと必死だね」


 ああ、と私は息子が愛しくなりました。


 ――仮面ライダーを観てるとき、私のひいきのライダーが登場すると大声で教えてくれる息子!


 ――Eテレで私が好きな「ドコ〇コノキノコ」という歌が流れると、私がトイレに入っていても呼びに来てくれる息子!


 ――スーパーに買い物に行くと、真っ先に酒のコーナーに走って「はい、ママの好きなビールとってきてあげたよ。」と、キリン一番搾り500ml缶を持ってきてくれる息子!


 息子は私の好きなものを全部覚えてくれているのです。

 その記憶を総動員させて、私の気を主人からそらそうとしているのです。


 なんてかわいい、私の若すぎるツバメ!


 もう、あんたが私の一番の男やわ。

 旦那とか、田中先生も、どうでもいいわ。

 神話だか昔の話で、息子と結婚する母親の話があったけど、気持ちわかるわ。


 息子のジェラシーの様子にくらくらするほどの幸福感、愛されているという満足感に私は浸りました。

 ああもう、本当に男の子はたまりませんね。

 可愛すぎます。

 そこまで私のことが好きなのか、と。


 大きくなったら、将来はママと結婚する、とそれが叶うものとして信じ、真顔で私に言ってくれる息子。

 悪いことをして私が怒るときに、「大きなっても、あんたと結婚したらへんで!」というと、泣いて謝る息子。

 にやにやと、その優越感をとっぷりと味わってきたのですが。

 実は最近、それが変化したようでして。――


 この間、息子に聞いたんです。


「大きくなったら誰と結婚するの?」


 すると、息子は


「△△!(長女の名前。息子の妹)あとは、みいなちゃん!(保育所の女の子の名前)」


 と、ニコニコと答えました。


 はあ? 私と結婚するんちゃうんかったんかい!!


 かすかに長女に嫉妬した私でございました。


 さみしーい……。












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