誓約書
息子が仮面ライダーや戦隊モノに少し前までハマっていたことはお話しましたが。
バンダイ様が売り出すおもちゃにはホトホト困っておりました。
次から次へと新商品、新しいアイテムが出てくるんですもん。
主人公のキャラクターの武器は一つではなく、番組の話数が進むたびに新しい武器が出てくる。
サブキャラクターも同じ。
戦隊モノに限っては、必ず合体するのがお約束。何が何でも合体。とりあえず合体。
(あれは、なんですかね。男の子は合体するということに心が揺さぶられるのでしょうか?)
えー、とこっちが戸惑ってしまうくらいのレベルでも合体。そして、更に進化したバージョンの合体もあったりして。
子供としては全部欲しくなりますよね。
横浜に住んでおりました時は極力、オモチャ売り場の近くを通らないようにと心がけておりました。
買い物に行く時も、息子が保育所にいる時をねらって済ませておりました。(平日の休みの時とか。お迎えの直前)
しかし、コンビニエンスストアという存在が都会には点在しております。
あそこのお菓子コーナーの一角には、必ずバンダイ様の商品が置いてあるわけです。
コンビニに入るたびに、息子はそれを見つけて持ってくる。
仮面ライダーウィ〇ードの指輪を何個買わされたことか。
まあひとつくらい、そんなに高くないし。と、いうのが何回も繰り返された結果、いつのまにかバンダイ様の商品は自宅で膨大な量になっていたりします。
横浜から引っ越して実家に帰ったとき、ほ、としました。
なぜなら、一番近くのコンビニまでは車でしか行けないようなところだから!
これで、おもちゃを買う機会はなくなったも同然だ、と私は安心しました。
でも、ちがったのです。
実家に帰ったならば、そこにはおじいちゃん、おばあちゃんという大甘の存在が……。
おじいちゃん、おばあちゃんがお出かけするのについて行くたび、おもちゃを買ってもらいニコニコ顔で帰宅する息子。
変身ベルトが何種類も増えていきました。
歴代過去のライダーのベルトもまだ、おもちゃ売り場に売ってるんですもん。
変身ベルト、あれ、一個あれば十分でしょう?
そのベルトのライダーのアイテムではなくても、かざせば、そのアイテムに応じた音とかセリフが鳴るようになっているじゃないですか。
なのに、重たい大層なベルトが何本もごろごろ……。
もう、いい加減にしいや! と、おもちゃを買わないと息子に約束させました。
それから幾日も経たない頃、おじいちゃんと散髪に行った息子がでかい箱をぶらさげて帰ってきました。
なんと、それはキョ〇リュウジャーのカミツキ合体、ブラギオー!
でかっ! あきらかに邪魔! そしてでかい割に、音のレパートリーはない!
中にキョウリュウでんちをはめこむのを楽しむだけの、どう考えてももっと小さい二歳~三歳の子向け!
もう買わないと言ったのに……! と、口をパクパクさせてどう怒ろうかと思っていた私に、息子はこうのたまったのです。
「ほんとは違うの欲しかってんけど、売り切れやったからこれで我慢してん」
ブチッ!
と、私の堪忍袋の緒が切れました。
はあ? なんやて?!
私は息子を引っ張って、机に座らせました。白い紙と朱肉、ボールペンを用意しました。
息子の手にボールペンを持たせて、息子の手を持ちこう書かせました。
『僕、☆☆ ☆☆(息子の名前)は、仮面ライダーや戦隊もののおもちゃを一生買いません。段ボールで作ります。平成二十六年 〇月 〇日』
息子の親指をひっつかみ、拇印を五個も押してやりました。
息子は何が起こったかわからないようで、ニコニコしていました。
あほが。笑っていられるのも今のうちや。
契約することの恐ろしさをわからせてやる……。
せやせや。ウチが保育所におったころ、男子は段ボールでベルトを作って遊んでたやないか。
バンダイさんには悪いけど、段ボールで十分やろ? 創造力もアップや。
もっと、想像力を働かせろや! 想像の翼を広げて……!
私は冷蔵庫に誓約書を貼り、息子に言いわたしました。
「ええな。もう、紙に書いてんから約束やで! 絶対、二度と、もうおもちゃは買ったらあかんで!」
息子はニコニコしながら頷きました。
よし。
私は、神妙に頷き返しました。
……これ。
絶対、意味がない。そんなことで子供がきくわけがない、と皆さん思われますでしょう?
ところが、どっこい。
効いたんです!
本当に、それから一切、息子は仮面ライダーや戦隊モノのおもちゃを欲しいと言いませんでした。
欲しそうにしていたときもありましたが、ぐ、と我慢して、『プリキュアのガシャポン、一個だけやっていい?』などと、代替案を出して私の顔色を窺うようになりました。
まさかの大成功!?
誓約書は偉大やな!!
これで息子は将来、連帯保証人のサインをすることはないでしょう!
というわけで、私の息子には効果がありました。
他のおかあさま方もぜひ、お試しを!
ちなみに、誓約書は最近まで冷蔵庫に貼りっぱなしでした。
法事で来た親戚のおばちゃんたちが見て大ウケした後、私の母がゴミ箱に捨てました。