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Aの悲劇

 タイトルのAは、A先輩のAです。


 以前にも登場させていただきましたA先輩。

 彼女は、数々の武勇伝をお持ちです。

 そのうちの二つのお話をさせていただきたいと思います。

 上司であるシェフをクビ寸前まで追い込んだお話を……。



 ある下船日のA先輩。

 下船準備(部屋の掃除、ベッドメイキング)を終え、さあ下船するぞ、と気分は揚々でしたが、フェリーターミナルにバスがやって来るのはあと一時間後でした。

 手持無沙汰な先輩。

 先輩はふと思いました。

 昼寝でもするか、と。


 バスの時間まで一眠りするつもりで、A先輩は部屋のソファーに横になりました。--



 ボーーーーー……。


 汽笛の音がして、先輩は飛び起きました。


 辺りは真っ暗。

 あわてて、部屋の窓から外をみました。

 もう、夜でした。船は離岸するところでした。


 出航しちゃってる……!


 やばいです。

 下船したはずの乗組員が船に乗っている。

 これは無賃乗車と同じ、犯罪行為です。


 どうしよう……。


 先輩は考えました。

 よし、明日の夕方、船が次の港につくまでバレないように息をひそめて隠れていよう、と。

 なるほど、入港のドサクサと、お客様にまぎれて下船すればなんとかいけそうです。

 A先輩はそう決めて、その夜はこっそりとその部屋で寝ました。


 次の日。

 入港は夕方ですから、時間はたっぷりあります。

 A先輩は思いました。

 ヒマだなあ、と。


 A先輩はそのまま夕方まで、その部屋で静かに潜んでいればよかったのです。

 しかし、A先輩は別の部署の同期の部屋に遊びに行ったりしました。(お腹もすくのでお菓子をもらいに)

 お昼のイベント、船長トークショーをお客様に紛れて楽しみました。(こらこら)


 夕方になり、A先輩は揚々と下船しました。

 ああ、よかった、と。


 ……そうではなかったのです。

 その夜、船では大変なことになっていました。


 まず、船長が

「あいつ、昼間トークショー見に来てたけど、なんで?」

 に始まり、

「今日の昼間、廊下ですれちがったけど」

 と、証言する乗組員続出。

「あいつ、下船したはずじゃないのか?!」


 大騒ぎの大問題になっておりました。--


 後日、その時に乗り合わせた上司のシェフが始末書を書かされました。




 もうひとつの話をします。


 A先輩は元気です。

 よくとおる声の持ち主で、話す声も大きいです。

 タフなので、夜遅くまで同期の部屋で飲んで騒いでいたりします。


 あいつ、うるせえなあ。


 そう、思った乗組員が何人かいました。

 軽い冗談のつもりで、その中の一人の先輩が友人のドクターからもらった睡眠導入剤をA先輩にこっそり飲ませました。


 次の日の早朝。

 A先輩と同部屋の先輩が、青くなって隣の上司の部屋に飛び込んできました。


「Aが死んでます!」


 びっくりした上司は、あわててその部屋にむかいました。

 部屋に入ると、A先輩はゴキブリがひっくりかえったような姿で横になっていました。

 本当に肘を垂直に折り曲げて、指先は開き、口はぽかりと開いたまま。目は半開き。


「息してないんです! 心臓の音が聞こえないんです!」


 報告に来た同部屋の先輩は取り乱して叫びました。

 上司の方は、冷静でした。

 思わず、A先輩の胸に手を当てそうになり、

 --いやいや、おっぱい触っちゃうから、セクハラになっちゃうな。

 と思い直し、手首の脈をとりました。

 脈はありました。

 鼻先に手をやりました。

 呼吸をしていました。


 生きていた、と二人は安心しましたが、A先輩は起きようとしません。

 朝の出勤時間が迫ってきました。


 まあいいや、ほっとけ、と二人はA先輩をそのままにして出勤しました。



 --A先輩は、気分爽快で目覚めました。


 時計を見ると、出勤時間まで余裕があります。

 いつも、寝起きの悪いA先輩。

 目覚まし時計が鳴りつづけても目が覚めず、その音に辟易した隣の部屋の上司が「バッキャロー!うるせー!」と、ドアを叩いて怒鳴っても目覚めないA先輩です。

 こんなにすっきり早く目覚めたのは久しぶりです。

 清々しい気分で余裕を持って、調理場に出勤しました。


「おはようございまーす」


 元気いっぱいみんなに挨拶しますが、みんなは返事をしてくれません。

 あれ?

 なんか、みんなムスっとした表情です。


 それもそのはず。

 朝の6:30だと思って出勤したA先輩でしたが、実際は夕方の18:30だったのです。


 後日、そのときに乗り合わせた上司のシェフが……(あっ、この間と同じシェフだ!)始末書を書かされました。




 ……始末書を三回書くと、クビです。


「もう、あいつ(A)とは同じ船に乗りたくねえ」


 あいつは俺の鬼門だ、と、そのシェフは嘆いておりました。

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