西と東
横浜にいたとき、長男が通っている保育所では年に二回程、クラスの保護者会、というのがありました。
一人ずつ、みんなの前で自己紹介と自分の子供の紹介をして、そのあとはクラスのみんなの様子を先生がお話して、お開き、という会です。
まあ、一人話す時間は一分ぐらいだったと思います。自分と子供の名前と、子供の特徴、悩んでいること、そして自分の子供は手が出やすくご迷惑をおかけすることがあると思いますがよろしくお願いし……etc(←お互い様ですけど、やはり言っておくべき)などと言って終わるのがパターンでした。
先生方は、もっと私たちが語って盛り上がるのを期待しておられるようでしたが、そうはなかなかいきません。みんな、保育所の送迎時に挨拶する程度の仲です。忙しいので、立ち話する余裕もない。
横浜での保護者会というのは、非常にあっさりとしたものでありました。
その後、私の実家へと引っ越しし、息子が地元の保育所に通い始めたとき。
早速、その保育所の保護者会に参加しました。
横浜のときと同様でした。
ママさんたちが丸く輪になって、先生が進行をして。
「では、お母さんがた、自己紹介をしていただきます。お一人、持ち時間は五分程度でお願いします」
司会の先生の言葉に一瞬、耳を疑いました。
五分、とな?
そんなに長くですか?
そんなに話すことがあるかしらん、と私が話のネタを考え始めたとき、一番手のママさんが話し始めました。
「こんにちは、◯◯です。◯◯の母です。よろしくお願いします。ウチの子は将来、石田純一のような男になるように育てよう思て……」
いきなりそのレベル!?
私は冷や水を浴びせられたようになりました。
……私は忘れていました。
そうでした、ここは、西であったということを。
必ず話にオチを求められる世界であったということを……!
五年間、東のぬるい世界に浸っていた私はすっかり忘れていたのです。
ヤバし!
どうしよう? この五年のブランクは大きいぜ!
途端に猛烈に私はプレッシャーを感じ始めました。
そのママさんは当然のように五分以上語って笑いをとり、順番は次のママさんへ。
私はじりじりと焦りはじめました。
ど、どうしよう?
ネタ、ネタ、ネタ……。
頭を必死でぐるぐる回転させます。
五年間、使ってなかった頭の分野です。
なんとかひねり出すんや、私!
そうこうしてる間に順番は近づいてきます。
次は九州出身のママさんでした。大人しそうな可愛らしいお顔で、はにかみながら話し始めたママさんを見て、私は安心しました。
大丈夫、このママさんよりはきっと私の方が……。
……数分後、なんと今までで一番の笑いが起きました。
な、なんやて?
私は愕然としました。
博多女子、侮りがたし!
もうすぐ私の番です。
あ、あかん、思いつかん……。
……私は逃げました。
すみません。
皆さん軽蔑されるでしょうが。
情けなくも私はこの舞台から逃げたのです。
私が地元出身だと知らないママさんばかりなのをいいことに。
私は逃げました。
「こんにちは。横浜から越してきました……」
習得した標準語を駆使し。
私はおめおめと逃げてしまったのです……!
(それでも、軽い笑いは起こりました。覚えてませんが、長男の失敗談という微笑ましい系で攻めたと思います)
なんとかその場はおさまりましたが。
それからも、残りのママさんたちが語り終え、先生方が語り終え、みんなで歓談すること……。
約一時間。
東の世界では信じられない盛り上がりっぷりです。
あらためて、西と東の違いを見せつけられた経験でありました。