表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/185

長男の出産3

『呼吸法とか、練習しておいたほうがええんかなあ?』

『本番になったら、パニックになるから全部忘れちゃう、て私のおねえちゃん言ってたよ。助産師さんがリードして呼吸法とか教えてくれるからそのとおりにすればいいって言ってたよ』

『そうやんな。本番、てそんなもんやんな。助産師さんのいうとおりにしてればいいんやな』

『うん、大丈夫、大丈夫。練習しなくても』

『せやな。あはは』


 出産を控えた妊娠後期の私とママ友の会話です。

 ……間違い、でございました。


 うわーん、勉強してればよかった! ヒ、ヒ、フーとか。練習しておくべきでした!


 無事、分娩室にたどりつき、分娩台に上った私。

 陣痛はさらに強く、間隔は狭く、いきみたい感じ全開!

 あ、あれ? 呼吸法は? どうしたらええんですか?

 頼みの綱の助産師さんに視線を送りますが。

 助産師さん、超、忙しそうに動き回ってらっしゃいます! 

 猛烈に焦ってらっしゃる感じ!

 機械等をセットしていらっしゃるようですが、ガチャーン、と何やら落としたり、あわてて拾われたり。

 大丈夫ですか!?


 陣痛が来ました。私は体をつっぱらせました。

 助産師さんが気づいて、

『おなかに力入れないで! 息吐いて! 息、吐いてください!』

 は、はい!

 でも体はいきみたくてしかたがないのに、おなかに力を入れるな、なんて。

 どないしたらええんですか!?

 おなかに力を入れられない代わりに、私は混乱して手足に力を入れ、再びつっぱりました。

 そのとき、私の両脚に紙のカバーを装着させようとしていた助産師さん。

『暴れないでください!』

 悲鳴のような怒鳴り声。

 怒られちゃった! うわーん、すみません! でも、どうすればいいかわかんないんです!

 とりあえず、ふー、ふーと息を吐く私。

 全身ガタガタ震え、蒼白です。いきみたい、いきみたい、いきませてください! お願いだから!


 そこで、先生がご登場されました。

 超、眠そう。今まさに眠りから覚めた感じのご様子です。本当に大変なお仕事。

 手袋をつけながら、

『あれ? 君、これ間違ってるよ』

 なにやら助産師さんに指摘。機械の接続等が間違っていたようです。

 大丈夫ですか!?


『はい。じゃあ、次の陣痛来たらいきみますよ』

 出た! 出ました! やっと、お許しの言葉! とうとういきませてくださるんですね!

 陣痛が来て私はいきみました。

 母親学級で教わったことを思い出し。

 いきみかたは最初が肝心。体力切れしないように最初のいきみが勝負どころ。短期決戦で決めるのです!

 最初に、できるだけ強く長くいきむこと!

 背中を分娩台に押し付け、顎を引き、ひらがなののイメージで赤ちゃんを上へ押し出す感じ!


 いきむと。

 陣痛の苦しさというのは消えます。

 そうなんです。いきんじゃえばラクなんです!


 思わず目を閉じようとした私に。

『目は閉じちゃダメ!開けて!』

 すかさず助産師さん。

 は、そうやった。

 反対に思いっきり目を見開く、私。

 目を閉じると気を失う場合があると、母親学級で教わりました。


『そうそう、うまいうまい』

 そうおっしゃってくださる先生と助産師さん。

『はい、力抜いて』

『上手ですよ。次もそんな感じで』

 一回目のいきみが終わりました。脱力する私。


 陣痛が来ました。

 私は思いっきり目を見開いていきみました。

『はい、ストップ』

 先程の半分ぐらいの時間でストップがかかりました。

 股間になにか巨大なモノがある違和感を感じます。

『赤ちゃんの頭、見えてますからね』

 先生がそうおっしゃった言葉に思わず、力を入れそうになる私。

『あ! 力入れないで! 脱力して!』

 あ、そ、そうでした。

 発露、という時期ですね。

 このときは、脱力して犬みたいに呼吸するんやったな。

 母親学級で言われたことを思い出し、ハ、ハ、ハ、と小刻みに息を吐く私。

 ここで結構時間がかかりました。会陰切開もこのときにしてくださったんだと思いますが。

 痛みなんかまったく感じず。

 しばらくして何かぬるりと足の間から出た感触があり。

 それでも産声は聞こえず。少し不安になった直後。

 なにか、バキュームで水のようなものを吸い込んだ音がして。

 いきなり元気な泣き声が聞こえました。


 う、産まれたんや……。

 ほっとしました。


 ぎゃあああ。ぎゃああああ。

 ハリのある、元気な声です。

『へその緒、4周半首に巻き付いてた。だから、なかなか下がってこなかったんだな』

 助産師さんに赤ちゃんを渡しながら、先生がおっしゃいました。

 4周半!? 

 びっくりしました。

 私のへその緒、長めだったようで。

 よく無事に産まれてきたな! だから臨月になっても下がってこなかったのか!

 苦しくなかったんやろうか? 

 あとで考えるとちょっと怖くなりました。


 後日、クラスメイトの助産師さんに聞くと、そういう子は将来、タートルネックやマフラーが嫌いになる傾向があるようです。(でもウチの子はそんなことはなかった)

 助産師さんがタオルでくるんだ赤ちゃんを私の胸の上にのせて見せてくれました。


 印象。

 い、意外に。

 か、かわいいな。

 産まれたてなんですけど。

 産まれたてはみんなサルみたいにぶちゃいく、だと思っていたんですが。

 少し青い色をしていますが、ウチの子は顔がもう出来上がっていて、普通にかわいい顔をしておりました。

 小さい小さい手は。

 羊水でふやけて、しわしわです。

『あはは、シワシワ』

『そんなことないわよ、かわいい赤ちゃんよ。さわってあげて』

 おっかなびっくりで触れると、ぎゃあぎゃあ泣きながら、赤ちゃんは手足を動かしています。

 陰嚢が真っ赤というかヘンな色をしているのが少し、気になりました。(でも生まれたての男の子の赤ちゃんてみんなそうなんですね)

 助産師さんは赤ちゃんをベッドに戻します。

 ぎゃあぎゃあ泣く赤ちゃんの声を聞きながら私は脱力しました。

 お、終わった。よかった。

 そのとき、先生は私の身体から胎盤の残り等を掻き出してらっしゃいました。

 普通ならめちゃめちゃ痛いところなんでしょうが。

 出産を終えた今、痛みなんてまったく感じません。

 そして会陰を縫ってくださいましたが。これも全く痛みを感じず。


 出産後はしばらく安静にしていなければならないので。分娩台でじっと横になっておりました。

 私はふと、思い出して助産師さんに言いました。

『すみません、胎盤を見せていただけますか?』

 いつ、出たか知らんけど。どんなものか見たい、と思っていたのです。

 助産師さんは快く胎盤を持ってきて私に見せてくださいました。


 印象。

 ぬらぬらと、両手からあふれ出すほどの巨大なレバー、そのものでした。

 滋養のために産後の妊婦さんに食べさせる風習のある地域もあるそうですが。

 専門学校の先生が出産後、刺身醤油で食べたよ(もちろん生です)割と美味しかったよ、とおっしゃっていたことを思い出し。

 プラセンタたっぷりでお肌にええんやろなあ、とか。牛レバーみたいな感じかなあ、とぼんやり思いました。(今じゃ、食べられない幻のレバ刺しですね)


 つづく




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ