親友と王子様と友達
あれから私は頭痛も忘れて教室に駆け込んだ。案の定気持ち悪くなった。
幸い、次は移動教室じゃないけど、もしかしたら、保健室に逆戻りかも。
でも、そんなの気にしてられなかった。
「林檎、あんた、息切らしてどうしたの!? まさか、高城、あの野郎……! よりによって、あたしの林檎に手を出すなんて、淫行で訴えてやる!」
目当ての親友を見付けた途端、これだった。
保健室のおっさんと言うと怒る自称お兄さんな養護教諭高城俊也を一方的に敵視してるんだから。
「ち、違う、違うから!」
否定するのも大変。まずいものが出ちゃうんじゃないかって感じ。
「バンリ、お願い! 放課後付き合って!」
妄想が暴走して止められなくなる前に私は早口に言い切った。
篠原万里、私の親友はクールビューティーで姉御肌で周囲からは私の保護者と思われてる。
紛れもない女性でありながらバンリと呼ばれたがって、少し暴力的というかそこらの男子には負けないと言うか、男性的な面もある。
私が厄介な頼み事をできるとしたらバンリしかいない。
「あんたがお願いなんて珍しいわね」
「わけは聞かないでお願い! 私を助けて!」
今は落ち着いて話せそうにない。
でも、私はバンリに用事がないことを願うしかなかった。
「わかった」
「いいの?」
「何も用ないから」
バンリははっきり物を言うタイプだから用があったら、きっぱりお断りされる。
ほっとしたら、なんか力が抜けた。
「それより、あんた大丈夫なの? 保健室戻ったら?」
それは、さっきのことを思い出して嫌だった。とにかく今の私は混乱してる。
「あんた、やっぱり高城に……」
バンリからゴゴゴゴゴ……って効果音が聞こえそうなほどだった。
黒いオーラが出てる。やばい。
「違う、本当に違うって言うか、先生全然関係ないから!」
濡れ衣なんかかけたら、それこそあのおっさ……お兄さんは何するかわからないけど。
でも、それ以上話すことはできなかった。チャイムが鳴ったから。
「やばくなったら、ちゃんと保健室行きなさいよ。いいわね?」
私は頷く。バンリに頼んだら良くなっちゃったみたい。
ごめん、バンリ。今の内に心の中で謝罪しておく。多分、かなり厄介なことに巻き込むから。
*
結局、私の体調はお昼を食べたら完全に回復して、バンリは昼休みでさえ追及しないでくれた。
知らない王子様系イケメンにキスされて、私の王子様発言されたなんて言えなかった。
そして、問題の放課後、ホームルームが終わって、急に教室が騒がしくなった。女子がキャーキャー言ってる。
その視線の先にいるのは、やっぱり、あの王子様野郎(仮)で。
目が合うなり真っ直ぐ私のところに来たりして。
「迎えにきたよ、林檎ちゃん」
ニッコリ微笑まれた瞬間、私は殺意を感じた。
そして、隣からの視線も痛い。
「林檎、あんたの頼みって、こいつが関係あるわけ?」
「う、うん……」
バンリは今にもキレそうだった。
「何で、天城流星が……」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、この通り超有名人だけど、あんた、まさか、知らないで関わったわけ?」
バンリの目がちょっと怖くて泣きたくなった。
私だって、関わりたくて関わったわけじゃないもん!
「流星、とりあえず出ろ」
そんな男子の声が聞こえたと思って、そっちを見てちょっとビックリした。
連れてくる親友って……
「相馬君?」
よっ、と彼は笑う。
相馬駈君、一年の時、委員会が一緒で意気投合した男子。
「あ、俺の親友の駈ね」
それを聞いたら、何かほっとした。バンリがいて、相馬君もいる。凄く心強くなった気分。
「いいから行くぞ。どうせ、お前がついてくるんだろ? 篠原」
「相馬、あんたでいいから説明しなさいよ」
バンリが厳しい眼差しを送るけど、相馬君は肩を竦めて背中を向けた。
周りの状況がまずかった。みんな、注目してる。相馬君は早く脱出しようって言うんだろう。
それからはちょっと早足で約束のカフェに向かった。道中、すれ違う女性の視線がずっとアマギ君とやらに注がれていたから。




