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運命プリンス  作者:
10/11

保健室の王子様

 そっと保健室の扉をノックして入ったけど、先生はいないみたいで。


「流星君、いる?」


 声をかけてみたけど、返事はなくて、カーテンの閉まってるベッドが一つ。そっと近付いてみる。

 カーテンを開けて……やっぱり流星君だった。眠ってる。

 あの時と逆なのかな、って思う。

 起こしちゃいけないなぁって思うけど、このまますごすご帰って相馬君に「流星君、寝てた」っていうのもあれだし……

 どれくらい私の寝顔見られてたんだろう、よだれ垂らしてなかったかな、大丈夫な顔してたかなってベッドの横で流星君の顔をちょっと覗き込むようにして……

 やっぱり王子様だなぁ、って思った。眠り姫じゃなくて眠り王子?

 睫毛長いし、唇も形いいなぁって。雑誌で結構アップになってるのも見たけど、実物は違うなぁ。

 この唇で私に……って、私、変態みたいだ。どうしよう。


「やっぱり林檎ちゃんだ」


 ぱっちり目が開いて、流星君が笑った。


「起きてたの……?」


 いつから? 起こしちゃってた?


「林檎ちゃんが起こしてくれるの待ってた」

「起こしちゃ悪いと思ってたのに……」

「今度は林檎ちゃんからキスしてくれないかなと思って」


 流星君もわかってるんだ、あの時の逆だって。

 あの時、流星君は見ず知らずの私にキスして……私にはできないなぁって。

 したくないってことじゃなくて……そうだ。ちゃんと話さないと。


「あのね、流星君」


 言わなきゃ、ちゃんと聞かなきゃ、決意したのに、なんて言ったらいいかわからない。


「俺がモデルだから、林檎ちゃんの王子様になれないの?」


 潤んだ目で流星君が見上げてきて、ますます何も言えなくなる。


「林檎ちゃんの王子様になるのに障害になるなら、俺、モデルなんかやめる」

「だ、ダメだよ、そんなの!」


 急に何を言い出すんだろう、流星君は。


「だって、林檎ちゃんは俺がモデルだから嫌なんじゃないの?」


 そうじゃない。そうじゃないのに……

 そこで流星君が体を起こした。


「大丈夫なの?」

「うん、林檎ちゃんが来てくれたから元気になった」


 そうやって笑うからまた苦しくなる。

 私が流星君の何になれるの?


「林檎ちゃん、ここに座って」


 流星君がベッドを叩いて示して、私はちょこんと座ってみる。


「なんで、私なの?」


 ぽつりと零れた。

 変な寝言言ってたからからかったなんて、そういう人じゃないと思う。


「なんでって林檎ちゃんだから」


 流星君は答えてくれるけど、理由になってない。


「私、流星君の周りにいる女の子みたいに可愛くないよ?」


 可愛い子はいくらでもいるのに、なんで私なのかどうしてもわからない。


「性格だってこんなに卑屈だし、全然いいところないよ?」

「林檎ちゃん、俺に遠慮してるよね」


 そりゃあ、遠慮もするよ。


「ここで初めて話した時は、そんなのなかったのに。冗談じゃないって怒られたっけ」

「だって、あの時はパニックで、流星君が有名な人だった知らなかったから」


 流星君は笑ってるけど、見ず知らずの人にいきなりあんなことされて怒らないでいられるの?

 いくらイケメンだからって。


「そんなの関係ないよ。俺は俺。ただの天城流星」

「そうだろうけど……」

「やっぱり、俺がモデルだから、林檎ちゃんの王子様になれないんだ」


 流星君がシュンと俯く。

 モデルだからっていうか、イケメンってだけで引け目を感じるのに、みんなが認めるイケメンだから余計に……


「だって、流星君は私と住んでる世界が違うって思わないの?」

「全然。同じ世界だよ」


 流星君にはきっとわからないよね。


「世界が違うって言うなら、俺は俺の世界を捨てて君の世界に行く」

「そ、そんなのダメだよ!」

「だったら、林檎ちゃんがいう世界の壁を壊してよ」


 私にとってはそんなに簡単なことじゃないんだよ。壊せるものなら、とっくに壊してる。


「なんで、あんなことしたの? だって、私の寝顔不細工だったでしょ? よだれ垂らしてたかもしれないし、第一変な寝言言ってたんだし……」


 一気に言って自分で泣きたくなってきた。


「うーん? 最高に可愛かったからキスしたくなって、名前まで確認して、結局我慢できなかったんだけど」


 そうだ。あの時、流星君は私の名前を知ってた。


「武瑠風に言うとムラムラした、かな?」


 流星君がさらっと笑顔でとんでもないことを言った。

 誰だ、流星君に変な言葉教えたの!


「そうだ! 今度は武瑠と彼女さんとトリプルデートにしよ?」


 なんか凄くいいことを思い付いたみたいな顔してるけど……たけるって誰だろう?


「でも、林檎ちゃんは俺といると辛いのかな?」


 笑顔になったと思ったら、流星君はまたしょんぼりした。

 世界が違うと思ってるのに、嫌われたくなくて、離れたくないなんて思って、そんな自分が嫌で辛い。


「俺はね、もっと林檎ちゃんと一緒にいたいんだよ。ここに林檎ちゃんがいてくれるだけで嬉しくて、やっぱり俺の運命の赤い糸は林檎ちゃんに繋がってると思う。でも、俺の思い込みかな?」


 涙が出そうで、流星君は慰めるように優しく髪を撫でてくれる。

 相馬君とは違うなぁ、って……


「俺もどう表現していいかわからないけど、林檎ちゃんの何もかもが可愛くて、これからももっと知りたいって思うんだよ」

「流星君、仕事で凄く疲れてるんじゃないかな?」

「そういう可愛くないこと言うと……」


 髪を撫でてた手が肩に回って、引き寄せられた。


「キスしたくなるけど、いいの?」


 クスクスと笑う流星君はセクシーで男の子だって実感する。

 純粋な王子様に思えて、あの時のキスはディープだったし……何か大人の世界を覗き見た気がする。


「嫌ならこの手を振り払って、俺にトドメを刺していいよ」


 私の頬に触れて、流星君は切なそうな表情を見せる。

 そんなことできるはずがないのに。


「嫌、じゃない……嫌じゃないんだよ」


 凄くドキドキしてる。

 流星君が近くて、でも、この距離は嫌じゃない。


「本当に私でいいの?」


 流星君を見上げれば、笑ってくれる。


「俺は林檎ちゃんがいいの」


 そう言って、頬にキスをくれる。


「私の王子様になってくれるの? 私なんかの王子様でいいの?」

「なんか、って言わないで。俺の可愛いお姫様」


 引き寄せられるようにキスをして、もう自分の気持ちから目を背けないって思った。

 私の王子様は本当にいた。迎えに来てくれた。

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