表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛慕の卵  作者: Hoichi
PR
1/1

愛慕の卵

 夢の中で皆んな踊っている。

 母熊が僕に食べ物を渡してくれる。

 あぁ美味しい、あぁ楽しい。

 あぁ、夢なんだ。そう、夢なんだ。

 

 男が鼾を搔きながらコンテナの中で横たわっている。

 寝ている男とは別の誰かが白手袋を着けたまま、ナイフを投げ入れる。

 投げ入れられても男は眠ったままだ。

 男は体重50kg台と小柄ではあるが、筋肉質である。

 アウター越しのシャツの首元から覗く胸元には刺青が見え隠れする。

 そのコンテナの扉がゆっくりと閉められていく。

 男が徐々にコンテナの影の中に堕ちていき、金属を引っ搔く高音と共に重たい扉は締めきられた。


 3か月後、春になり、

 「【腹に刃物】コンテナ内の遺体には「防御痕」なく 第三者の関与を疑わせる痕跡みられず 死亡の経緯を調査」

 スマートフォンのネットニュースを確認しながら、警視庁 捜査共助課 手配係 主任 上岡美知子は食堂で昼食をとっていた。

 「上岡主任、どうされたんですか?」

 後輩の同係 主事 田口成実に少しだけ怪訝な顔をしていたのを悟られたのか、美知子は何気ない素振りを見せつつ気になっていることを打ち明けた。

 「最近、この手の事故多くない?」

 美知子は先程閲覧していたネットニュースをスマートフォン越しに成美に見せた。

 「そうですか?それでは、失礼します。」

 成美はスマートフォンを両手で受け取ると、少し考えこんで頭の中で整理しているようだ。

 「幾つか類似点がある事故はありますが、考えすぎでは?」

 スマートフォンを手元に戻しつつ、美知子は考え事が止まらない。

 この数カ月、同様に「防御痕がない刺殺体」が出ている。死亡者はいずれも反社会的勢力の人間であり、このコンテナで3件目だ。

 

 「ただいまー。」美知子は自宅マンションの一室に帰ると、誰もいない部屋に声を掛けた。

 低いヒールを脱ぐと直ぐに冷蔵庫に向かっていき、缶ビール500mlを取り出した。

 ビールを飲みながらスマートフォンにSNSメッセージ通知が送られてきたことを確認すると、美知子は「防御痕がない刺殺体」についてインターネットでの情報がどうなっているのかが気になった。

 「しっかり捜査して欲しい…」

 「この死に方で伝えたい何かや誰かに対しての恐ろしく強い思いがあったのか」

 「薬物か何かだろ」

 「昨月のコピペ?」

 回転椅子に片膝を立てながら、パソコンの前でネットニュースのコメントを見ながら缶ビール2本目を空ける。

 普段吸わないタバコに火を点けながら、スマートフォンで時間を確認する。

 すっかり忘れられていたSNSメッセージ通知の相手は、恋人である城島公博であった。

 「あ、公博に返すの忘れてた。日曜日のデートか、「いつものコースで」と。」返し終わると、即時返事が来る。「了解!11時に御徒町駅北口で」

 即時返信が来る恋人に「暇なんか、こいつは」と苦笑いをしながら、心が嬉しがっているのが分かる。

 付き合って1年半、婚期も近づいてきている31歳の美知子は、29歳の年下彼氏にこの瞬間だけ浮かれていた。

 「いかんいかん、もう23時か。」

 ベッドに寝転がりここ数カ月の「防御痕がない」事故について考えながら眠りに落ちる直前、胸に引っ掛かる何かを感じたがそれを確認する術はなかった。

 

 公博とは同期の警察官と参加した街コンで知り合った。

 仕事はフリーランスのSEであり、年収は安定しないが貯金は将来を考えられる程度にはある。

 顔は甘いマスクとは言わないまでも整っており、180cm越えの細身で長身だ。

 短髪~ミディアムの間の耳が出た髪型、服装は明るめのセットアップが多く清潔感もしっかりある。

 公博と一緒に参加していた友達は高校時代からの付き合いで、こちらは公務員だということだった。

 ネックは大きいが、余りある魅力で20代前半~中盤の若い女の子たちから街コン内のアプローチが殺到していた。

 そんな中、相手がなかなか見つからない私は苛立ちから酒を煽り続け、酔いつぶれそうになった。

 そこに公博が介抱をしてくれたことから私たちの話は急転する。酔い散らかした私は公博に事もあろうに水をぶっかけたのである。

 それでも尚、笑顔で対応してくれた公博には今では感謝しかない。

 その後、謝罪のために名刺を貰い、連絡を始めたのがきっかけである。

 お互い酒飲みであり、直接謝るために呼び出した時も笑顔で「次は飲みに行きましょう」と言われた私は救われていた。

 そして、2人で飲み続けていても冷静な彼に惹かれた部分は否定できない。

 

 美知子は予定していた時刻の数分前に到着したが、公博は先に到着していた。

 こちらを笑顔で振り向くと、軽く腰かけていたガードレールから立ち上がり「あ、みっちゃん。」と手を振ってくる。

 「じゃあ、行こうか。」笑顔で手を繋ぐ。いつも手を繋いでいるが、今日は何故か昔のことを思い出したからだろうか、不思議な気持ちになる。「呑むぞー!」30代には少し恥ずかしいノリだが、それも時にはまた良いだろう。


 美知子は身長160cmを少し超える程度には長身で筋肉質、スタイルは良い。

 顔は素朴で化粧気は薄いが、小動物のような可愛らしい眼をしている。

 顔は若干丸めでショートカットのボブ。大酒呑みで、自分の身体に過信しすぎなところが玉に瑕である。

 初対面の時には驚いたが、2度目からは可愛らしい一面が見えて年上には思えなかった。


 夕方、3軒目の「ワインバル八十郎」で美知子と公博はペアの隣り合わせの席に座りながら、前妻盛り合わせをつまんで、美知子はグラスのスパークリングワインを、公博はグラスビールを飲んでいた。

 美知子は公博に近況について聞いた。

 「最近、仕事どう?私ばっかり話しちゃってるし」

 「ん?そうだな、N社の中型案件がなかなか上手くいかなくて。頼まれてる案件だけど自前のCorderの進捗が悪くて…。土曜日も活動してるぐらいだし」と苦笑いしながらグラスビールを傾ける。「SEって大変なんだね。私も部長からこの間、怒られてさ…。主任はもうちょっと丁寧さよりスピードを持って職務を遂行してください。って…。あ、ごめん、公博の話だったよね。」二人で笑いあいながら呑んでいたが、思い出したように公博に最近の事故について話してみた。

 

 [第1話完]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ