目撃者は猫
「ッ痛た……、ロッティ、よしよし爪立てちゃダメだ。
……いや、先程公爵からロッティの事を『どなたか高貴な方の飼い猫かもしれないから大事にせよ』と仰っていただいたから……! それに公爵令嬢は誰が見ても素晴らしいお方、だから私が特別という訳では……!」
クラレンスは爪を立てたシャーロット猫を宥めるように撫でてから赤い顔でダミアンに言い訳をした。
「フンス……ッ(なんだか照れるんですけど……ッ)」
シャーロット猫は照れ臭い余りに収めようとしても爪が収まらない。
2人のその様子を見ながらダニエルは苦笑した。
「はいはい、分かったよ。
……それで? 公爵はなんと仰ってた? ……やはり相当お怒りだったんだろう」
途中からダニエルは真面目な顔になりクラレンスを見た。それを見たクラレンスもスッと表情を変える。
急に雰囲気が変わり、シャーロット猫はおやとクラレンスを見る。
「───それはそうだろう。あのような形でご令嬢が行方知れずなのだから。
……あの時、最初にベランダの下に行った者達は騒ぎが聞こえてすぐ現場に行ったが令嬢の姿はなかったと口を揃えて言っている。
そして令嬢が何者かに攫われたとするならば、犯人は王宮の周りでどこから出てくるとも知れない令嬢を待ち構え誰に見咎められる事なく人1人を連れ去った事になる」
「───あり得ないよね。国中の貴族の集まる夜会だからあちこちに衛兵が配置されてたのに『誰にも見咎められず人1人を連れ去る』なんて事は……」
「ニャアー(猫に変身しちゃったからね……)」
2人の話に答えるようにシャーロット猫が鳴くと、2人の視線がこちらに向けられた。
少し考えてからダニエルが口を開く。
「……そういえば俺が話を聞いた衛兵は、ちょうどそのベランダ下付近を警戒中で騒ぎを聞いてすぐに現場を捜索したそうだ。……その時そこで白い猫を見かけた、と言っていたな」
「白い猫……」
2人は改めてシャーロット猫をじっと見た。
「ニャニャア……?(もしかしてバレた……?)」
シャーロットが猫に変身したと分かってしまったのかと冷や汗をかきつつ彼らを見返した。
……が、次の瞬間2人は同時に大きくため息を吐いた。
「───ロッティの言葉が分かればなぁ」
「ううむ……。ロッティはお利口さんだが流石に言葉はな……」
「クラレンス、お前親バ……いや飼い主バカだな」
「……ウニャー(うーんさすがに分からないわよね)」
ただの目撃者(猫)だと思われたようで、シャーロットはホッとした。……まあ人間が猫に変身したなんて思う筈がないわよね。
そしてクラレンスは優しくシャーロット猫を撫でながら語りかける。
「ロッティ、何かあれば教えてくれよ」
「うーん、ロッティが人の言葉で証言してくれるならね……。
───それはそうと、陛下はこの度のことをどのようになさるつもりだろう。他国の大使もいるようなパーティーでの騒動を、今までのようにエドワルド王子に甘い判断では許されない」
エドワルドはこれまでも小さな騒ぎを起こして来た。そしてそのどれもを父である国王が揉み消して来たのだ。
「それはそうだ。……今回のことで最低でもシャーロット嬢との婚約は破棄されるだろうな。
そうすると今後殿下は別の婚約をしようとしても他の貴族達は今回の件をもってして断固として断るだろう。そもそも義妹ミシェル嬢は公爵家の血筋ではないし、オルコット公爵閣下は今後夫人と別れる事も視野に入れておられるようだった」
「───そうなのか? 夫人は元々公爵の愛人だったのではないのか?」
ダニエルは意外そうに尋ねた。
多くの人々はオルコット公爵の事をそう考えている。
「いや、自分の娘の婚約者を義理の娘が奪ったから流石に夫人とその娘が許せなかったのか……いや違うな。
閣下はこの殿下との婚約を『王命で無理やり』と仰っていた。シャーロット嬢がこのように消えてしまった原因を彼女達が作った事をお怒りなのだと思う。
そして公爵は今も愛しているのは前公爵夫人とシャーロット嬢だけだと言い切っておられた」
「ふーん……? それなのにその愛する前夫人の喪もあけぬ内に現夫人と再婚を? ……身分の高い方の考える事はよく分からないな。せめてもう少し時間が経ってからなら余計な噂もたたなかっただろうに」
ダニエルは肩をすくめて言った。公爵の突然の再婚は当時随分と騒がれたのだ。
「お前の家も伯爵家だろうが……。
閣下も何か深い事情があったという事なんだろう。今回の件でその婚姻も解消するという事だな」
「……ニャアーン(……お父様の事情ってなんだったのかしら)」
シャーロット猫の鳴き声にクラレンスは微笑み、その喉を撫でた。思わずゴロゴロと喉を鳴らすシャーロットだった。




