執務室への来訪者
誤字報告、ありがとうございます!
エドワルド王子達の婚約破棄騒動から始まった、公爵家の簒奪未遂事件の審議が終わった。
───その結果、正式にシャーロットとエドワルドの婚約は解消された。
そしてエドワルドは王位継承権剥奪、暫く離宮に幽閉になった後辺境の地に一兵卒として行く事が決まった。ただし一生結婚は出来ないそうだ。
万一王家の血を悪用されエドワルドを担ぎ上げ反乱を起こされては困るからだろう。
そしてミシェルはエドワルドとは全く別の北にある王国一厳しいと言われる修道院で生涯神に仕える事になったらしい。
「ニャアオニャア……(それにお父様もお義母様と離縁されたそうなのよね……)」
最初はシャーロットにとって義母と義妹はお互いに歩み寄ろうとする関係だった。しかしいつの頃からだったろうか、2人が妙に余所余所しくなり距離が離れて行ったのは……。そして気が付けばシャーロットの婚約者であるはずのエドワルドはミシェルの元に通うようになっていた。
……最後は互いに話をする事もないまま別れてしまったわね……。
約3年家族として過ごしたのに、なんともあっけない別れに切なくなった。
これらの話はクラレンスの執務室で話されているのを聞いた。彼とここにいると色んな情報が入ってくるが、流石に成立したばかりのはずの公爵家の離縁の情報をここで聞く事になったのには驚いたけれど。
「ロッティ、おいで」
そして今は近衛師団長であるクラレンスの執務室でシャーロット猫は彼の癒し係として可愛がられている。
「ニャーニャオ……(人間の私を探してくれてるのに申し訳ないわ……)」
シャーロット猫はたんっと飛び上がり椅子に座るクラレンスの伸ばされた腕に掴まり、そのまま抱かれてモフられる。
───今王国では国をあげてシャーロット オルコット公爵令嬢を捜索中である。
そんな中、猫の姿でゆるゆると暮らしているのは本当は非常に心苦しい。
けれども、パーティー前に魔女ブレンダとした『パーティーで婚約破棄されたら猫になる』の解呪条件である『シャーロットを愛する者からのキス』なんて事が猫姿のシャーロットに達成出来るはずもなく。
『まだ時期尚早』と頑ななブレンダの気持ちが変わり、元の人間に戻してくれるのを待つしかないシャーロット猫なのである。
「よしよし、ロッティは本当に可愛いなぁ」
そんな申し訳なさから、シャーロットの捜索の指揮を取って疲れているはずのクラレンスの癒しとなるべく、思う存分モフられるシャーロット猫。
……まあ自分もモフモフされるのは心地よい……いえ、これはあくまでもクラレンス様への詫びの気持ちからよ。……多分。
「団長。面会の方がお見えです」
その時、扉前の衛兵から声が掛かる。
近衛師団長室にはたくさん人が訪ねて来る。特に今は通常業務に加えて令嬢捜索があるのでいつもより色んな関係者が来ているらしい。
「───どなただ?」
「アマリア ベッツ侯爵令嬢と名乗られています」
「ベッツ侯爵家のご令嬢……?」
クラレンスは彼女がここに来る事に心当たりのない反応をしていたが、中継ぎの衛兵の脇からすり抜けるように鮮やかなオレンジ色の髪の美しい令嬢が入って来た。
「ニャ!?(アマリア!?)」
シャーロット猫は友人アマリアの登場に驚き、ストンとクラレンスの腕から降りて姿を隠す。
「突然失礼いたします。私ベッツ侯爵家のアマリアと申します。
……お忙しい所を申し訳ございません。どうしてもお話ししたい事がございましたの」
いつもは華やかな姿のアマリアは、今日はかなり控えめな紺色のドレス。そして表情も硬かった。
「ベッツ侯爵令嬢。お会い出来て光栄です。よろしければそちらへどうぞ」
クラレンスは紳士的に彼女にソファを勧め自身もその向かいに座った。
シャーロット猫はつい執務机の椅子に隠れながらそっと覗く。
「あの……。セリエ近衛師団長様がオルコット公爵令嬢捜索の指揮を取っているとお聞きしましたの。……あの、彼女は……?」
「……申し訳ございませんが部外者の方にお伝えは出来ないのです。ご容赦ください」
「……! 私、シャーロットとは無二の親友ですの。彼女があんな事になって……。でも、シャーロットは自分から姿を消すなんて事をするような方ではないのです!」
「───そうですか。我々もご令嬢が自ら姿を消したとは考えておりません。あのような状況でしたし、何かしらの事情があるものと考えております」
「───ですが! ……最初同情的だった周りの方々の中には殿下の罪が決まった辺りから彼女がまだ姿を現さない事をとやかく言う方、そしてもう儚くなっているのではとまで言う方もいらして……! 私、悔しくって……!」
アマリアはその青い瞳に涙を浮かべ、手はギュッとドレスを握り締めている。
……アマリア。ずっと、心配してくれていたのね。御免なさい。貴女にも何も伝える事が出来なくて……。
シャーロットはアマリアに対して申し訳なく、それでいて自分を想っていてくれた事に感謝する気持ちで彼女を見た。
それと同時に、世間では未だ行方不明のシャーロットに対して不穏な噂も出だしている事に不安も感じる。
「落ち着いてください、ご令嬢。
……私共も全力で彼女をお探ししていますし、そのような不穏な噂は王家も我らも許しはしません。早速王太子殿下に報告し、然るべき措置を取るとお約束します」
アマリアに対してクラレンスも真摯な態度で答えてくれた。
シャーロットも心配していたので、少しだけホッとした。……人の噂に対してそれがどれだけ有効なのかは分からないけれど。
「───ありがとうございます。セリエ様。……貴方は思っていた通り、ご立派な方ですのね」
アマリアはほんのり嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見て彼女の友人であるシャーロットはある事に気付く。
「ニャアニャー!(アマリアはクラレンス様が好みのタイプだったわ!)」
クラレンスのように鍛え上げた筋肉質な逞しい男性が好みだとずっと聞かされていたのだ。
そして思わず声を出してしまったシャーロット猫を、アマリアとクラレンスは同時に見た。
そしてシャーロット猫はアマリアとバッチリと目が合った。




