王太子の怒りと王妃の猫
「───そもそも、肝心のシャーロット嬢は見つかってもいない」
レイモンドは国王夫妻とエドワルドを冷たく見ながら言った。3人はグッと言葉に詰まる。
「それなのに、誰に何をさせようと言うのだ? ───あなた方は正気なのか……!? エドワルドがシャーロット嬢にあれだけの事をしておいて、更に彼女に罪を被れというのか!? これでは王家の信頼は地に落ちる……いや、こんなものは外道以下だ! 下手をすれば反乱が起きる程の酷い話だ、何よりオルコット公爵が黙っているはずがない!」
愚かな事を引き起こしたエドワルド本人だけでなく、国王夫妻までもが愚かな事を言い出したのでレイモンドは我慢ならずに彼らを睨め付けて責めた。
「───ぐっ」
「……う……」
国王夫妻はそれを聞いて口惜しげに押し黙る。
エドワルドを擁護する発言をしながらも彼らは心のどこかではこれはおかしい事とは分かっていたのだ。ただ可愛い我が息子を庇いたい一心で。そうでないとエドワルドが罰せられてしまう。
……しかし国王夫妻はやっと自らの立場を思い出し、深く反省し俯いた。
……しかしエドワルド本人はまったく理解出来なかった。
「───何故ですか! 私はただ騙されて婚約者と揉めただけですよ!? いわばただの痴話喧嘩と一緒でありましょう? そのような大袈裟な……彼女が罪を被って事が丸く収まるならば、それで良いではありませんか!」
国王夫妻はその無責任さ愚かしさに改めてエドワルドを見た。
そしてレイモンドは王家としてエドワルドの考えは看過できなかった。
「大袈裟ではない……! 王家の信頼は大きく失墜している。これは王家の存続の危機だ。しかもそれを引き起こした張本人のお前がそのような事を言える権利はない! 全ての責任は事を起こしたお前が取るべきなのだから!」
レイモンドは将来の王太子として幼い頃から厳しい教育を受けてきた。その中でポーカーフェイスは得意な方だと思ってきたが……。
こんな言葉の通じない珍獣相手に物事の道理を伝えるのはこれまでで一番難しいと心のどこかで考えた。
レイモンドは心を落ち着かせる為目を閉じ大きく息を吐く。
そうして改めて前を見ると、エドワルドはレイモンドの勢いに怯えたのか『そんな……』『でも……』などと言い訳を考えつつ助けを求めて国王夫妻をチラチラと見ている。
そしてチラ見された国王夫妻はこちらもレイモンドに怯えたように、自分達に怒りの矛先が向かないようにか視線を彷徨わせ誰とも目が合わないようにしている。
───これが、我が国の国王一家とは。
彼らをこれまで諌められなかった自分も勿論その一員なのだが、かなり情けない気持ちだ。
「いいですか。……明日、緊急に重鎮達を招集し此度の件の責任の所在と裁かれるべき者への速やかなる裁きの決定を。
……父上達が決められぬならば、貴族達の率直な意見を聞き相応しい罰をエドワルドに与えるべきでしょう」
「───そんなッ!! そんな事をしたら私は……! 私は悪くないのに、罪を被せられてしまう……!
だって、……こ、公爵は怒っていたではないですか!」
「公爵は怒っていて当然だ。お前が公爵の大切な娘に冤罪をかけ、しかもその後行方不明になっているのだからな。
お前は自分のした事の罰を受けるのだ」
「そ、そんな……!
ち、父上ぇ! 父上のお力で私は悪くないと皆の前で証明してくださいッ!」
「───無理だ……」
「父上ッ!?」
「お前の行いは、あの国中の貴族が集まるパーティーで皆に見られている。誤魔化す事など出来ぬ……」
「ッ! 嫌だ、私のせいではない! あの女のせいだ、私を騙したミシェルを裁くべきだ、私は……」
エドワルドが悪足掻きをしているその横を、グレーの美しい猫が尻尾を立てて通り過ぎる。
「ニャー……」
「おお、モリー。……おいで」
失意の中にいる王妃の元に、彼女の飼い猫モリーが寄って来た。
王妃はそれ以上何も言えず、モリーを抱き締めた。
「ニャーオン……」
モリーは涙を溢す王妃の側で、ただじっと彼らを見ていた……。
◇
「……ニャッ(……はッ)」
シャーロット猫は目が覚めた。ついウトウトと昼寝をしていたようだった。
そうして、妙に生々しい夢を見ていた。レイモンド王太子がエドモンドや国王夫妻と話をしている場面を王妃の飼い猫モリーの視点で、部屋の片隅から眺めていたのだ。
……いや、今のは昨日ブレンダに見せられた映像の感覚に似ている。もしかするとこれも彼女が私に視せてくれたのだろうか?
シャーロット猫は丸まって考える。
さっきの夢が、ブレンダの見せてくれた本当の事だとしたら。……レイモンド殿下は国の……そして私の為にあんなに国王夫妻やエドワルドを説得してくれていたのね。
陛下は昨日お父様と話をしていた時は、エドワルド殿下に責任を取らすのは当然みたいな言い方をしていたけれど……やはりエドワルド殿下が可愛いのね。王妃様と一緒になって、私にあれ以上の罪を被せようとしていた。
だけど私もそんな事は決してしないし、国中の貴族の前で起こった出来事を無かった事には出来ないわ。
明日、重鎮を招集……。きっとお父様もいらっしゃるわよね。
いったい、どうなってしまうのかしら……。




