オルコット公爵
相変わらずの鉄壁の無表情のままオルコット公爵は問いかけた。
「ッ! それは……」
早速に痛い所を突かれた国王は言葉に詰まる。
「公爵ッ! 不敬だぞ!」
エドワルド王子はそう叫ぶが、スッと凍るような視線を公爵から自分に向けられ息を呑み黙り込む。
「───殿下もシャーロットとの婚約が不服なのでしたら私に言ってくださればすぐにでも破棄といたしましたのに。そこな娘と一緒になりたいのであればさっさとそうなされればすぐに願いは叶いました」
公爵は一見優しく諭すように言ってはいるが、視線の冷たさがそうではないと全てを語っている。
「公爵は前妻の娘だけを可愛がり、後継としていたではないか! だから私はミシェルが公爵家を継げるようにと……!」
「それで騒ぎを起こし、我が娘に冤罪をかけそこな他家の娘を我が公爵家の後継とし乗っ取りを計られたと」
今度はエドワルド達を断罪するかのように言って捨てた。
「───な! 乗っ取りとは! 無礼であろう! そもそも2人とも貴公の娘なのだからどちらが後を継いでも構わないだろう! 私は可愛げのあるミシェルが良いのだ!」
「───貴方様の好みを私に言われましても。……そもそもと申されましたがまずその前提が間違っております。
その娘は伯爵家の人間です。しかし既に歳の離れた兄がその家を継ぎその後継もおります。貴方様が継ぐべきものは何もございませんが」
「なんと酷いことを……! ミシェルは本当は公爵の娘だろう!? だから前公爵夫人亡き後すぐに再婚をしたのだろう!? その愛する娘をそのような扱いをするとは!」
公爵は眉間に皺を寄せ更に冷たい視線をエドワルドに向けた。
「───いいえ。そこな娘は私とは全くの赤の他人。そしてその母と私は『契約結婚』です。愛などカケラ程もございません。
前妻の嫡男に追いやられ困窮していた古い知人であった彼女と契約をしたのみ。私の願いが叶えば十分な慰謝料を渡して別れる事もその契約に入っております」
「な……! なんだと!?」
エドワルドは驚愕してオルコット公爵を見据え、ミシェルは青ざめて唇を噛み俯いた。手は強く拳を握り震えている。
「そして『王命』で我が娘と婚約しておきながら不貞をししかも冤罪をかけ陥れようとした貴方様の行いはこの国中……、いいえ隣国まで知れ渡っている事でしょう。
───そうですね? 陛下」
息子と公爵のやり取りを手に汗握って聞いていた国王は急に話を振られ唾を飲んだ。……国王の喉は緊張でカラカラだった。
建国記念パーティーに集まった国中の貴族、近隣の国々の大使……。その前でエドワルドは堂々と騒ぎを起こしたのだ。今更誤魔化しようがない。
そして何よりも王のお膝元であるこの王宮で王子の婚約者が忽然と姿を消したという事実。
この国の、国王の威信は地に落ちたも同然だ。
国王はゴクリと唾を飲み、今最善と思われる言葉を告げた。
「……公爵の言う通りだ。エドワルド。お前は公爵家の正当な後継に冤罪をかけ乗っ取ろうとする恐ろしい事態を国中の貴族の前で引き起こした。誰であろうと決して許される事では無い。
───エドワルドをひとまず部屋で謹慎させよ。その他の者はいったん家の者との話合いが済むまでは貴族牢へ。
……公爵。その娘はいかがする」
国王はオルコット公爵の表情でその機嫌を窺いながら愚か者達の処遇を述べ、そして今戸籍上娘となっているミシェルをどうするかと尋ねた。
……公爵は淡々と答える。
「我が愛する娘を貶めんとした罪人であり、我が家には一切無関係の者。どうぞ貴族牢へ」
「ッそんな……!! 酷いわ、お義父様!」
余りにもアッサリと切り捨てられミシェルは義理の父に縋りつこうとした。しかし公爵は素早くそれを躱し彼女は近くにいた衛兵に捕らえられた。
「お義父様ぁ! 私はお義父様の娘です! 公爵家の娘なのです!!」
「───愚かなことを。つい3年前までは伯爵家の令嬢として暮らしていたにも関わらず、我が家に来てからの傍若無人ぶりには呆れ果てる。そしてお前の母も最初の契約を忘れ欲に走ったようだ。
契約は破棄され、お前達は最早私や公爵家とは一切無縁の人間だ」
氷の如く冷たく言い放たれたミシェルは思わずしゃがみ込む。
「ッ……! そんなぁ……!」
「公爵! それはひどいではないか! 義理だったのだとしてもそのような言い草は!」
「私は家の乗っ取りを考える者を家族として認める程お人好しではございません。
そして、それは国王陛下とて同じでしょう」
そう言ってチラリと国王を見ると苦々しく顔を逸らした。
可愛い息子だったが、今ここで彼の肩を持てば王家が危うい。公爵の言う事は何一つ間違ってはいない。
そしてそもそもはエドワルド自身が引き起こした事態だ。むしろ王家も愚かな息子の被害者だ。
「───無論だ。……連れてゆけ」
国王が命じると、衛兵は王子とその2人の側近そしてミシェルを捕らえた。
4人は愕然としていたが、本当に連れて行かれると知って暴れ出した。
「ッそんな……! 父上、ちちうえぇッ! 私はその女に騙されたのですよ!?」
「私は殿下の言うことを聞いていただけです……!」
「ああ、私も殿下とミシェルを信じただけで……!」
「お義父様ぁ! ごめんなさい、謝るからぁ! 私を公爵家の娘でいさせて! 助けてくださいぃッ!」
4人は叫びながらも連れて行かれた。




