ミシェル
国王の言葉に、ミシェルは身を震わせた。
「───教えてやるがいい、ミシェルとやら。お前はオルコット公爵の娘などではなく母親の前夫である伯爵の娘。前公爵夫人亡き後、急遽夫人の座に座る事になった母親の連れ子であるだけで相続権は無いのだとな」
「───ッ!!
いえでも、お義姉様は私を虐めその罪を裁かれるのです! ですから唯一残された私が公爵家の後継なのです……!」
ミシェルは国王がその事実を知っている事に驚き言い淀んだが、エドワルド達の視線に気付き慌てて言い訳をした。
……国王や宰相の冷たい視線、そしてエドワルド達からの疑惑の視線を感じると、ミシェルは幼い頃の生まれ育った伯爵家で感じた劣等感閉塞感を否が応でも思い出していた。
───ミシェルが生まれ育ったのはとある伯爵家。そこには前妻の子である姉と兄が居た。父はミシェルを可愛がってくれたが、後妻である母や自分と姉兄達の仲は幼い自分から見てもぎこちなく、歳の離れた姉や兄と話す事さえ余りなかった。
父が病気で亡くなった時、姉は既に他家に嫁ぎ家督を継いだ兄にも妻子がいた。父の葬儀が済むと母とミシェルは小さな離れに追いやられた。裕福といえなかった伯爵家にとって、後妻とその娘は邪魔にしかならなかったのだ。
そんな扱いを受けていた数年後、兄が行けなかった公爵夫人の葬儀に母が代理で参列した。そこで母は古い知人だったオルコット公爵と再会した。そしてあっという間に再婚が決まりミシェルは公爵家で暮らす事になった。
そうしてミシェルの生活は一変した。この3年、『公爵令嬢』として何不自由なく暮らして来た。伯爵令嬢時代と比べるべくもない、裕福で煌びやかな世界。元々愛らしい顔立ちのミシェルは更にその美しさを開花させた。
周囲も電撃結婚した母の子であるミシェルは実は公爵の子ではないかと思われているようだし自分でもそうではないかと思う。
そんなある時、母から義姉であるシャーロットの婚約をなんとかして無くしたいとの話を聞いた。生粋の公爵令嬢である義姉シャーロットとの違いを嫌というほど感じて密かに嫉妬していたミシェルは母から求められた事もあり、婚約者である王子様を奪う為に動いた。
エドワルド王子が公爵家に来れば最初は陰から彼を熱く見つめ徐々に距離を詰めていく。話すようになれば、『自分は本当は公爵の子だが姉はそれを認めず虐げられている』。そう言って愛らしい顔で涙を流して見つめれば、元々婚約者と仲が良くないようだったエドワルドは簡単に自分に堕ちた。
そしてそんなミシェルを義父である公爵は咎める事はなかった。だから自分とエドワルドが結婚することを認められたのだと思い今まで動いて来たのだ。
そうする内に、エドワルドやその側近達からシャーロットの罪を明らかにして公爵家の後継から外し、正式にミシェルを後継にしようと言われたのだ。流石にそれは少し義姉に悪いかな、とは思ったが、王子様がそう言うのだからこれが正しい事なのだと思った。
───不遇な伯爵令嬢時代から公爵令嬢となり、今はなんでも面白い程上手く事が運んでいく───。
ミシェルは今の自分はシャーロットという公爵家の実の娘を排除し、エドワルド王子と結婚して自分がオルコット公爵家を継ぐのは当然来るべき未来だと考えるようになっていた。
母には断罪予定の建国記念パーティーの前日にそれを告げた。最初は戸惑っていたようだったが、エドワルド王子がミシェルの全面的な味方になっていると言えば最後には協力すると言ってくれた。
裕福でない伯爵家で厄介者扱いされて来た夫人も約3年恵まれた公爵夫人という立場に立ち、このまま自分の娘ミシェルが公爵家の後継になる事も可能なのではないかと、そう思い違いをしていた。
そうして建国記念パーティー当日を迎え、計画通りエドワルドは公爵令嬢シャーロットに婚約破棄を告げた。……ここでシャーロットに瑕疵があると皆の前で断罪して公爵家の後継から外し、ミシェルとエドワルド王子がオルコット公爵家を継ぐと発表する、そのはずだったのに……。
断罪をする前に、シャーロットは居なくなった。婚約破棄の直後に姿を消した為に、エドワルドやミシェルは人々から非難されこんな事態に陥っている。
更にミシェルに公爵家の相続権は無いと国王から断言された。……エドワルド 王子の視線が怖い。
……遠い昔のあの頃の、兄や姉に追いやられ怯えて暮らした伯爵令嬢時代の頃のようにミシェルは震えた。




