エドワルドと国王
───シャーロットが消えた建国パーティーの日の夕刻。
王の間には非常に厳しい顔をして座る国王がいた。
そしてその前に並び立たされているのはエドワルド王子とその側近達。そしてシャーロットの義妹ミシェル。
「───それで? 私が席を外していた間にお前はいったい何をした?」
もうとっくに周囲から全てを報告されているに違いないのに、敢えて国王は彼らに問いかけた。
「───父上、私は何もしておりませんッ! シャーロットの罪を問うたら彼女はその罪を認め逃げ出し、自らベランダから飛び降りたのです!」
エドワルドは胸を張ってそう答えた。国王の眉間がピクリと動く。
「いえ、お義姉様は魔法が使えるのです! だからきっと落ちたと見せかけて何処かへ逃げたのですわ!」
「きっとそうです! 何故ならこんなに探しても彼女は見つからないではありませんか!」
「死んだと見せかけ逃げるとは、罪を認めたも同然です!」
エドワルドとミシェル、そして2人の側近達は口々にそう言った。
「───この、愚か者共めがッ! この世に人間1人が姿を消すような魔法があるものか!」
国王は王子たちの愚かな言い訳にブチ切れた。
───罪を認めて身を投げた? そして何が魔法か。これほど我が息子が愚かだとは思わなかったと腹の虫が治らない。
国王は尚も苛々しながら前で全く納得していない表情をする王子たちを睨み付けた。
そして国王の側にはこの国の宰相も呆れと苛立ちを隠せずに口を開いた。……あの側近の内の1人は宰相の息子。王の御前でこの愚かな者達の一員と化している我が息子とそれに巻き込んだ者達に怒りが収まらない。
「許可も得ていない者達が王の御前で発言し、しかも言うに事欠いて魔法だなどと……! この世間知らずの不敬者どもめが!」
王子の側近である宰相の息子は今まで見たことのない父のその怒りに一瞬ビクリと震えたが、気丈にもその父に反論した。
「……この世のどこかには『魔女』がいると、そう言われているではありませんか!」
しかし宰相はバカバカしいと鼻息荒く言い捨てた。
「そんなものは御伽話だろう! いい年をして何を言っているんだ! お前をそんな風に育てた覚えはないぞ!」
───この世界には、伝説の魔女が何処かにいると言われている。しかし普通の人間に魔法などはなく、この王国では御伽話だとされている。
それなのにもう社交界デビューしている成人が、『魔法』などという言葉を使う事自体が愚かしくも腹立たしい。そう国王と宰相は更に苛立ちを募らせた。
国王達は必死で怒りを抑えつつ彼らを睨む。しかし彼らはどの顔にも『何故自分がこんな目にあっているのか』という不満が透けて見えた。……つまりは全く反省していない。
国王が聞いた報告によれば、シャーロット オルコット公爵令嬢はエドワルド王子の婚約破棄宣言の後何故かすぐに扉に向かった。その先を衛兵に塞がれた為急遽ベランダに向かい転落したようだ。彼女が最初から何かをベランダに仕込み逃走したとは考えられない。
そしてあの高さから落ちて怪我がない筈もなく、考えられるのは誰かによって拐われたという事。
「───分かるか? ベランダから落ちたにも関わらずシャーロット嬢の姿は無かった。勿論、あの高さから落ちれば怪我をしていたはず。という事は彼女はこの王宮で拐われたのだ。この国王が座す王宮で、だ!」
国王はこの深刻な事態を引き起こした王子を叱り付けた。
しかしエドワルドは尚も自分の言い分のみを言い募る。
「父上ッ! お聞きください!
そもそもシャーロットは妹を虐げるなどして筆頭公爵家の後継として全く相応しくないのです! だから私は婚約を破棄しその妹ミシェルと婚約を結び直し公爵家を立て直し……」
「───お前は本当に何も分かっておらんのだな……!
そもそもは公爵家はこの国1番の財力と権力を持つ家。お前が『立て直す』など烏滸がましい。それに自分がどれほどの才覚を持っていると思っているのだ?
……そんな愚かなお前にこの父がその家の後継となる権利をくれてやったというのに……!」
長年公爵に婚約の打診をしても断られ続け、随分と苦労して卑怯な手まで使って『公爵家の婿』の座を掴んだのだ。それなのに、この愚かな息子は自らその地位を手放した。
国王はそのままギリリと歯噛みし悔しげに愚かな息子を見た。
「───は? 私が何を分かっていないというのですか! 父上。
それにシャーロットが居なくなったのなら却って好都合ではありませんか。このままミシェルが公爵家の後継となり私が継げば良いだけの話です」
エドワルドとその側近、そしてミシェルは国王達が何を言っているか理解出来ないという顔をした。
その様子を哀れな者を見るようにしてから、国王を手を振る。
「もうよい。───この後お前達は謹慎させる。その前に公爵にその愚かな申し開きをしてみるが良い」
「───な! 父上!! なぜ我々が謹慎などさせられるのですか!?」
あり得ない! とばかりにエドワルドは反論した。王は怒りを通り越して呆れた目で息子を見ながら言った。
「……このような事になったのだ。心配せずともお前とシャーロット嬢との婚約は破棄される」
王のその言葉にパッと表情を明るくした4人だったが。
「───エドワルド。……お前の有責でな。そして王家は公爵家に多大な慰謝料を払わねばならなくなるだろう。お前の資産だけでとても足るまい」
「ッ!? どうして私の有責なのですか! これはシャーロットがミシェルを虐めたから起きた事。悪いのは全てシャーロットです! そしてミシェルが公爵家を継ぎ私と結婚するのですから公爵家への慰謝料などは発生しない!!」
エドワルドと側近達がそう騒ぐ横で、ミシェルだけはハッと顔が青褪め俯いた。
「───そこな娘だけは事情が分かっているようではないか」
「は? どうしたのだミシェル! お前が公爵にとりなせばいいだけだろう? お前は公爵が前夫人が亡くなってすぐに結婚する程愛された現夫人のただ一人の娘、公爵の実の娘なのだから!」
「ッ……、それは……」
国王とエドワルド王子からそう言われたミシェルは答えを言い淀み、顔を逸らした。




