第八章 第二王子マスラ
マスラ・フォン・ライゼン。
ライゼン王国の第二王子。
王家の血を引くが、マスラ殿下の母はかつての魔導師の家系だった。
その血を引いているからか、マスラ殿下は幼い頃から魔物の鳴き声やその動きを理解し、コミュニケーションを築いていた。
でもそれは、王宮では『異常』と見なされていて。
「王は魔物を支配する者でなければならない。王は魔物の理解者ではないのだ」
それがマスラ殿下の父である、国王の信条だった。
そして、マスラ殿下もまた、フジャーロ殿下やミサーラの罠に嵌められて国を追放された被害車のひとりだった。
追放される前、マスラ殿下はミサーラと婚約していたが。
ミサーラに惚れ始めていたフジャーロ殿下が、マスラ殿下とミサーラの婚約を白紙にするため、ミサーラと結託して策略を巡られたのだ。
まずフジャーロ殿下は、ミサーラがマスラ殿下に虐げられているという嘘の噂を流し、周囲にマスラ殿下とミサーラが不仲だという印象を植え付けた。
次に、ミサーラが金で雇った男に、マスラ殿下と一緒に居るときにミサーラを襲わせるように手配する。
そして、捕えられたその男に第二王子であるマスラ殿下の差し金だと証言させたのだ。
マスラ殿下は冤罪を主張したが、私の時と同じように誰にも聞いてもらえなかったそうだ。
後日、フジャーロ殿下は、ミサーラの命を狙っている証拠を探すという名目で、マスラ殿下の部屋を調べるように仕向ける。
そこで、予めミサーラがフジャーロ殿下にも内緒で用意しておいた、私の肖像画と偽造された恋文が発見された。
フジャーロ殿下は、私がマスラ殿下の事が好きなんだと思い、激怒する。
最後に、ミサーラがマスラ殿下の筆跡をも真似て『第一王子殺害計画の魔導陣の設計図』を作り、それをマスラ殿下の自室に置いて、フジャーロ殿下暗殺計画の犯人に仕立てあげたのだ。
もちろん全てが偽装であり捏造だ。
こうしてフジャーロ殿下は、マスラ殿下を追放する事となった。
マスラ殿下は国を追放されたとき、一度も叫ばなかった。
ただ、王宮の門を出るとき。
ミサーラの顔をじっと見つめ、こう言い残す。
「君は人間を操る魔物──いや、魔女だ」
その言葉を、ミサーラは笑って受け流していた。
隣でそんなマスラ殿下を見ていた私は、その瞬間。
黒曜石の瞳に、自分と同じ『凍った冬』を見た気がした。
マスラ殿下の追放の地は『砂塵の国ザルカス』と言う所だった。




