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第十四章 襲い来る脅威


 王都ライゼンの婚礼の日。


 ミサーラとフジャーロ王の結婚式が執り行われていた。

 鐘は黄金の音を響かせ、民は白薔薇の花びらを空へと放つ。

 式は王都の中心にそびえ立つ大聖堂で行われた。

 祭壇の前でフジャーロ王とミサーラは永遠の愛を誓い、誓いのキスを交わす。

 晴れてミサーラは、ライゼン王国の王妃に即位した。

 国中の誰もがフジャーロ王とミサーラ妃を祝福し、その平和を信じて疑わない。


 しかし。

 ときは満ちる。


 婚礼の鐘が三度鳴り響いた瞬間──大地が黒く裂けた。

 大聖堂の屋根から黒い霧が湧き上がり、その中から咆哮が一斉に放たれる。


 ゴブリン。

 オーク。

 コボルト。

 トロール。

 オーガ。

 スケルトン・ウォリアー。

 ドラゴン。

 ワイバーン。

 グリフォン。

 オオカミ。


 ライゼン領にいるすべての魔物が、一気に王都へと押し寄せた。


 それは、ただの暴走ではない。

 それは、叫びの渦だった。


 ライゼンの騎士団は即座に動き、冒険者ギルドの精鋭たちも街の各所で魔物と戦い始める。

 しかし、彼らの剣は魔物の皮膚を切り裂けなかった。

 魔物たちはもはやただの獣ではなく、怒りを纏った意思を持つ存在。

 その怒りは彼らの体を鋼のように硬くし、炎のように熱くしていたのだ。

 フジャーロ王はミサーラ妃と共に尻尾を巻いて逃げ出すように王宮の塔へ駆け上った。


「お待ちください!」

「お助けください!」

「国王陛下!!」

「王妃陛下!!」


 助けを求める民たちの言葉を無視し、すがりつく従者たちを蹴り飛ばして。

 塔の最上階から、魔物に襲われる民たちをただ見下ろし続けていた。


「なぜ、こんなことに……」


 その声は恐怖で震える。


 フジャーロ王は『静音の結界』が魔物の叫びを『吸収』し、『増幅』していたことに気づいていなかった。


 私とマスラ様はライゼン王国の東門から、土煙を巻き上げて門内へ駆け込む。

 民は私とマスラ様の姿を見て、声を失って驚いていた。


「あの方々は……!?」

「クリムゾンレッド公爵令嬢!? 悪女として裁かれ、国外に追放されたのではなかったのか!?」

「あの黒い鎧の男は……第二王子……マスラ・フォン・ライゼン殿下!? 生きておられたのか!?」


 騎士団の指揮官は私たちの姿を確認するや否や、剣を抜き構える。


「追放者どもが王都に何の用だ!? 立ち退け!!」

「聞け! 我々はこの国の民を救いに来た!!」


 高らかに宣言したマスラ様は、ユニから降りると空に向かって手を掲げた。

 手首にある『制御の刻印』が黄金の光を放ち、魔物たちの瞳と連動するように光りだす。

 私もエルから降りると、マスラ様の隣に立って手を翳した。

 手首にある『共鳴の刻印』が青白く光りだし、私は静かに口を開く。


「あなたたちはもう独りじゃあない。あなたたちの声は私たちがちゃんと聞ききます。だから怒りを沈めてください」


 私の声は風に乗って、王都にいるすべての魔物の耳へと届いた。

 瞬間──。

 魔物たちの体から黒い霧がゆっくりと抜け、空へと昇っていく。

 空が晴れると、グリフォンやワイバーンは空の彼方へ飛んでいき、オオカミやオークたちは王都の門をくぐって国を出ていった。

 スケルトン・ウォリアーなどのアンデッドたちは土の中へと戻っていき、王都にいたすべての魔物たちは王都の外へと静かに静かに帰っていく。

 まるで、故郷へと帰っていくかのように。


 瞬く間に王都は静まり返った。


 私たちを黙って見ていた騎士団は剣を収め、冒険者たちは膝をつく。

 そして、民たちは静かに手を叩き始めた。

 最初は小さな音だった。

 けれどもその音は王都の鐘よりも、聖堂の聖歌よりも深く重く大きくなっていき、やがては私たちの心の奥へと響く。


「……英雄だ」


 誰かがそう呟いた。

 その呟きが波のように広がり、やがて王都全体がその声で満たされる。


「英雄だ! 英雄だ! 英雄様だ!!」


 その声は王宮の塔へと届き、フジャーロ国の耳を打ち、ミサーラ妃の顔を青ざめさせた。

 手には結婚の誓いの指輪が光っていたが、その輝きはもう、誰の目にも祝福には映らない。


 魔物の脅威に晒された国民は、その怒りを国王フジャーロと王妃ミサーラに向け。

 フジャーロ王とミサーラ妃は騎士団に、民を見捨てた罪で捕らえられる。


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