第十一章 ユニコーン
マスラ様の体力もすっかり戻り、看病の必要がなくなって暇を持て余した私は。
散歩するついでにギルド支部の周りを散策することにした。
厩舎の近くを歩いていると、馬たちの中に混じってマスラ様を助けた時に居た黒いユニコーンを見つける。
「こんにちは。あなた、マスラ様と一緒に居たユニコーンね?」
そっと近づいて話しかければ、黒いユニコーンも私に向かって言葉を返してくれた。
『そうだよ。あなたしってる。ましゅらを助けてくれたヒトでしょ』
ましゅらとはマスラ様のことだろう。
舌っ足らずな喋り方には、つい愛着を覚えてしまう。
「ええ、そうよ」
『ましゅらだい好き。いつもおいしいタベモノくれるから』
天真爛漫に喋るその姿が本当に可愛らしく思えて、私は思わず微笑ましくなった。
『あなたのこともだい好き。ましゅらのこと助けてくれたから』
「え」
私はちょっと面食らってしまう。
人に懐かないユニコーンが、マスラ様だけではなく私にまで懐くなんて。
「……ありがとう。これからもマスラ様を助けてあげてね」
『おーけー』
黒いユニコーンが私の頬に鼻筋を擦り付ける。
ホントに可愛い。
「そう言えば、あなたの名前はなんて言うの?」
「そのユニコーンは『ユニ』って言うんだ」
私は驚いて声の方へ身体を向けると、そこにはマスラ様が居た。
「マスラ様。お体はもうよろしいのですか?」
「ケルダの看病のお陰ですっかりよくなったよ」
マスラ様は私の隣に来ると、ユニの頭を優しく撫でる。
本来ユニコーンの角はクリスタルのはずなのだが、ユニの額にはダイアモンドの角が生えていた。
「ユニ。元気か?」
『うん。げんきー』
マスラ様の問いかけにユニは元気そうに頷いて、お互いに心が通じ合っているんだと感じる。
「マスラ様とユニはどうやって出会ったんですか?」
「砂漠の向こうに『精霊の森』と言うユニコーンの住処がある。ユニはユニコーンには珍しい黒い毛をしているせいで仲間外れにされてしまってね、森を追い出されて砂漠をさ迷っていたところを私が保護したんだ」
「そうだったんですね……」
それはさぞ悔しかっただろう。
王宮に居た頃も、私の事を部外者扱いして仲間外れにする貴族令嬢が居た。
公爵家でも継母やミサーラに爪弾きされていたし、ユニのように私も国を追い出されてしまった。
そんな自分とユニを重ねてしまい、胸がきゅっと締め付けられる。
マスラ様は慈愛に満ちた瞳でユニを見詰め、その黒い毛を手の平で整えてあげた。
「最初の頃はかなり荒れていたんだよ。私にも攻撃してきて。でも、長い時間過ごしていくうちにどんどん懐いてくれて。今じゃあ大事な家族みたいなもんだ」
「マスラ様に会えたユニは、幸せ者ですね」
私も撫でてあげたくて恐る恐る手を伸ばすと、ユニの方から私の手のひらに頭を擦りつけてくる。
撫でてみると、思っていたよりもその黒い毛は柔らかかった。
『ましゅらね、おいしいものいっぱいくれるんだ』
「どんなものをくれるの?」
『おいしいフルーツ。砂漠のみんな、かちかちなニクしかくれない』
「フフ。そうなの?」
三人で笑い合っていると。
不意に──何処かから声が聞こえてくる。
『……誰か……助けて……』
その声はユニのものではなかった。
驚いて撫でる手を止めると、隣にあるマスラ様の手も止まり、私達は顔を見合わせる。
「ケルダ、今の聞こえたか?」
「はい。あちらの方角から、『誰か助けて』と言っているように聞こえました」
私が鳴き声が聞こえた方向を指し示すと、マスラ様が目を細めた。
「あっちには……『精霊の森』だ」
「『精霊の森』……とは、先程おっしゃっていたユニコーンの……」
「ああ。なんだか不穏な気を感じる……急いで向かったほうがいいもしれない。ユニ、すぐ出られそうか?」
『まかせて!』
ユニが元気よく頷くが、私は咄嗟にマスラ様の手を掴み止める。
「待ってくださいマスラ様、今から砂漠を超えるのは無茶です。ユニの体力も持つかどうか……」
「大丈夫だ。空を飛べばすぐにつく」
「え……空……ですか?」
「ユニ」
マスラ様が手を掲げると、手首の内側にある『制御の刻印』が光り出した。
その光と連動するようにユニのダイアモンドの角も光りだし、ユニの背から黒い翼が生える。
「え……羽……? ペガサス……?」
「ユニコーンは成長になると、ペガサスになれるようになるんだ。ユニはもう成獣だからな」
驚いた。
ユニコーンがペガサスになれるなんて……どんな文献にも書いてはいなかった。
乗りやすいように地面に座ったユニに跨ったマスラ様は、私に手を差し伸べてくる。
「行こう、ケルダ」
「……はい!」
私はマスラ様の手を取り、ユニの背に乗った。
ユニは私たちが乗ったのを確認すると、すくっと立ち上がる。
『しっかりつかまっててねぇ! いっくよー!』
ユニの翼がばさりと羽ばたくと、ふわりと空へと舞い上がった。
青空を背にユニコーンが黒い翼を広げて飛んでいるその光景は美しく幻想的で、まるでおとぎ話みたいだ。
「すごい……! 私空を飛ぶなんて初めてです!」
「風を切る感覚が気持ちいいだろ?」
「はい!」
ユニは砂漠の空を旋回しながら『精霊の森』を目指し、風に乗って一直線に進んでいく。
その途中、ふと思い出したようにユニが話しかけてきた。
『ましゅら! ちっちゃいタマゴいっぱいある!』
「卵? ああ……あれはサンドスネイクの卵だな」
『あれはたべちゃダメなんだよね?』
「ああ。あいつらは毒を持っているからな」
私はユニの首にしがみ付いたまま、マスラ様の方へ顔を向ける。
「マスラ様は博識なのですね」
「生きる術として覚えたまでだ」
褒められたことで少し照れたマスラ様は、どこか愛らしく見えて胸がキュンとした。
しばらく遊覧飛行を楽しんでいると、『精霊の森』が見えてくる。
森は砂丘の向こうに位置しており、一見するとただの緑の点のように見えた。
しかし、近づくにつれ森の規模がどれほど巨大なのかが分かってくる。
砂の海の中に浮かぶオアシスのような存在であり、空から見ると緑色の宝石のように美しい。
「一面が緑に包まれているわ……すごい」
「降りよう。ユニ、着地準備を」
『はーい!』
ユニが高度を下げていくと、森の全貌がよりはっきりしてきた。
木々は高くそびえ立っていて、どれも生命力に満ちている。
森の中央には大きな湖があり、水面が太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。
湖畔の辺りに降り立った私とマスラ様は、他のユニコーンにユニが攻撃される恐れがあるため、ユニを置いて森に入ることにする。
精霊の森には魔物を遠ざける結界が張られているから、魔物がユニコーンを襲う事はないだろう。
奥へと進んでいくと、先程よりもはっきりと声が聞こえてきた。
『助けて……痛いの……誰か……』
「……マスラ様、聞こえましたか?」
「ああ。なんて言っているかは私には分からなかったが、何かの鳴き声は聞こえた」
マスラ様は魔物や動物の言葉を、目の動きや挙動で理解している。
私のように直接声が聞こえる訳ではないので、声が聞こえても、何を言っているかまでは分からないのだろう。
「おそらくユニコーンの声だと思われます。ユニの声に非常によく似ていますので。ただ……私では正確な場所を特定できないかも知れません……」
「なら、道案内は私に任せろ。私ならこの森に詳しいから、声の場所へ最短距離を導けるはずだ」
「いいのですか……? ありがとうございます」
私とマスラ様はそれぞれの能力を駆使し、森の中にいるであろう声の主を探し始めた。
森は意外と広く、奥へ行けば行くほど樹木が密集している。
結界のお陰で魔物は見当たらなかったが、代わりに見たこともない植物が繁茂していた。
そう言えば──お父様が生きていた頃は、よく一緒に森に入って魔物や動物の観察をしにきたわね。
懐かしい。
あの頃は幸せだった。
ふと私は森の奥深くで立ち止まり、私は木漏れ日の作る光の斑点を見上げる。
突然足を止めた私に気づき、マスラ様が振り返った。
「どうした?」
その穏やかな声が、私の中で燻っていた不安に火をつける。
「少し……思い出してしまって……」
寒くもないのに、唇が震えだした。
「私……昔からずっと、出来の悪い子だったのです……」
熱くなる喉の奥を精一杯開いて、私は幼い頃のことを話す。
私は、小さい頃から引っ込み思案で、亡くなった父のいうことに従うしか能のない子供だった。
母が病に倒れてからはさらに臆病になってしまって。
継母が来てからは『躾』と称して叱責され続ける毎日が続いた。
「出来の悪い子だ」と何度も叱られたことは、今でも鮮明に覚えている。
フジャーロ殿下との婚約を決める日、継母は私に「置物のように黙って殿下に従え」と言った。
フジャーロ殿下がミサーラを婚約者として選んだ時も、「不出来な私よりふさわしい」と本気で思った。
私の話を聞いたマスラ様は目を悔しそうに揺らし、握った拳を震わせる。
「ライゼンを追放されることになったときも……全て自分が招いた結果なのだと思いました。今だってそうです。私には……何もできない……」
そのとき、マスラ様の手が私の両頬を挟むように添えられた。
その黒曜石の瞳が私の青色の瞳を真っ直ぐとらえて、心まで捉えられたような気がして、鼓動が高鳴る。
「ケルダ」
その声は静かで、けれど強い意志が込められているように低かった。
けれどその優しい声色は耳心地がいい。
「そんな自分を卑下するもんじゃあない」
マスラ様の指が震える私の唇をなぞった。
優しくて、暖かい。
「ケルダは私とユニを助けてくれた。そして今も、私が見つけられない声を見つけ、助けようと頑張っている。それは尊いことだと私は思うよ」
その言葉ひとつひとつが、私の中に積もった氷を少しずつ溶かしていくようだった。
「私一人じゃあ声を聞きつけることは出来ても、なんと言っているかまでは聞き取れなかった」
「でも……」
「『でも』は無しだ。それに、ケルダが自分自身のことを信じてあげなくて、他の誰がケルダの事を信じてあげられるんだ?」
その言葉に、私はハッとした。
私は無意識に、自分自身を否定していた。
私なんか何も出来ないと。
私は、自分の事さえも信じていなかったのだ。
自分自身が認めていなかったのだ。
震える唇で、口を開く。
「マスラ様……私は……自分を信じても良いのでしょうか?」
「信じればいい。私が保証するよ。ケルダは充分に強い」
「……ありがとう……ございます……」
涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
私は今、誰に頼らずとも歩いていける道を見つけた気がする。
マスラ様のお陰で。
「さぁ行こう。声の主を助けるんだろう?」
マスラ様は私の手を優しく引いた。
もう、怖くない。
マスラ様の言う通り、自分を信じて進もう。
マスラ様と一緒なら、きっと大丈夫だわ。
「はい。行きましょう、マスラ様」
私たちは声の主を探すために、再び森の中を歩き出す。
それは、私が自分の価値に気づいた瞬間だった──。
『助けて』と縋る声を頼りに森を進んでいると、マスラ様がある場所で立ち止まる。
「ここだ」
そこは森の奥にある大きな岩場の裏側だった。
草木を掻き分け中に入ってみると、罠にかかったユニコーンの姿がをみつける。
トラバサミに挟まれたか細い足からは、真っ赤な血が流れていて見るからに痛々しい。
「大変っ……今助けるわ……!!」
「あ、待て、ケルダ!!」
私はユニコーンのもとへ駆け寄って、罠を外そうとしたが、非力な私にはどうする事も出来なかった。
罠を外すのに苦戦していると、後からやって来たマスラ様が、持っていた短刀を駆使してユニコーンの足から罠を外してくれる。
「マスラ様……ありがとうございます」
「野生のユニコーンは気性が荒いことがある。無暗に近づくと危険だ」
「そうなのですね……軽率でした。すみません……」
「それだけこのユニコーンを助けたかったのだろ? ケルダは優しいんだな」
「い、いえ……そんな事は……」
顔が熱い。
なんだが恥ずかしいわ。
私が照れていると、マスラ様が外した罠を見て顔を顰めた。
「マスラ様……? どうしました?」
「私が見た限り、これは密漁者の罠だ」
「密猟者の……!?」
「ここ最近、この精霊の森に密猟者が増えているらしい。奴らの狙いはユニコーンのクリスタルの角だ。角さえ取れれば奴らはそれでいいらしい」
私はマスラ様が語る言葉に背筋が凍った。
このユニコーンも、密猟者に狙われたせいで罠にかかったのね……。
苦しそうに呻くユニコーンを見て、私の中で怒りが沸々と湧き上がってくる。
「許せない……一体、誰がこんな酷いことを……」
「この森の結界は、魔物を遠ざけれても人間を弾く効果はない。だからこの森に生息する生き物たちは、簡単に狩られてしまうんだ」
「なんとか出来ないのでしょうか?」
「ザルカス王国の騎士たちが定期的に見回りをしているが、抜け目があるのは否めない。森に入る場合には許可を得る必要があるが……」
マスラ様が森に入る事が出来たのは、ザルカス王国専属のテイマーだからだ。
「森の生き物を狩猟することは硬く禁じられている。しかし、どうやらライゼン王国にはそいった法はないようだ。その証拠に──」
マスラ様はトラバサミの側面を私に見せる。
「この紋章は……!」
「そう。この罠はライゼン王国製のものだ」
そこには確かに、ライゼン王国の王族の紋章が刻まれていた。
あの国は……まったく救いようがないようね。
まぁ、その方が復讐のし甲斐があるけど。
沸き上がった怒りを今は収めると、私はユニコーンの方へそっと近づく。
額にはクリスタルの角が生えており、そのユニコーンは透き通るような純白の毛色をしているが、今は土と自分の血で汚れてしまっていた。
ユニコーンは私たちの気配に気がつくと、ゆっくりと顔を上げる。
『誰……?』
どうやらこの子は、気性の荒い性格ではないらしい。
うるうるとした瞳が、こちらをじっと見つめてきた。
「私はケルダ。彼はマスラ様よ。あなたは?」
『わたしは……エル』
「そう、エル。いい名前ね」
『ケルダはわたしをイジメない?』
「大丈夫。私達はエルをいじめないわ。ちょっと傷を見せてね」
私はエルに優しく話しかけながら、傷の容態を確認する。
傷は深そうだが腱は切れていないなので少し安心した。
よく見たらエルの鬣は黄金色をしていて、見惚れるほど美しい。
『良かった……この前きた女のヒトはケルダに似てるけど……わたしのこと捕まえようとして……すっごく怖かったから……』
「私に似た……女の人?」
自分の中に思い当たる人物が一人浮かんで、私はマスラ様の方へ顔を向ける。
その表情を見て察するに、マスラ様もエルの言う『女の人』に心当たりがあるようだった。
私は心の中で推測をたてながら、鞄から鎮痛作用のある傷薬を取り出す。
幸いにもエルの怪我はそこまで重症ではないから、これで充分治療できるだろう。
『いたた……!』
「ごめんなさい。でもこれを塗ればこれ以上は痛くならないわ。だから、もう少しだけ我慢してちょうだい」
『うー……』
薬を塗っている間ずっと唸っていたエルだったが、治療が終わるとホッとしたように溜め息を吐いた。
まだ痛みはありそうだが、ひとまず大事には至らなくて良かったと、私もひと安心する。
「エル、大丈夫?」
『うん。ありがとうケルダ』
「フフ、よかった」
私はエルの足に包帯を巻いて、薬を鞄の中にしまった。
ふと視線を感じて顔を上げると、マスラ様が微笑みながら私を見ている。
「な、なんでしょうか……?」
「ケルダは笑っていた方が可愛いと思って」
「は……!?」
それだけいうと、マスラ様は立ち上がった。
私の心臓は、ドクンドクンと跳ね上がったままだ。
頬が熱いのは、きっと……そう、夕陽が眩しいせいよね。
「エルの傷はギルドに戻ってから詳しく調べよう。一旦、ユニの所に戻るぞ」
「そ、そうですね。わかりました……!」
道の安全を確保しながらマスラ様はエルを連れて、元来た道へと歩いていく。
少し遅れて歩き出した私は、赤く染まった頬を隠すために俯きながら着いていった。
最近、心の中が妙に忙しい。
ユニと合流し、ギルドと連絡をとって迎えに来てもらうと、私たちはギルドへと戻る。
ギルドに帰って来てすぐ、エルは獣医に診てもらうことになった。
治療が終わりエルが休んでいる間に、私はマスラ様と共にギルド内にある食堂へ向かう。
マスラ様とテーブルを挟んで向かい合って座ると、パンやチーズ、サラダやドライフルーツなどが運ばれてくる。
「ここの食事は、どれもとても美味しいですね」
「そうか。それは良かった」
マスラ様はカトラリーで、サラダのトマトやニンジンを避けていた。
どうやらマスラ様は、食べ物の好き嫌いがあるようだ。
そんなところが、少しだけ可愛らしく思える。
フォークに突かれるニンジンを見て、ふとエルの話を思い出した。
「マスラ様。エルを捕まえようとしていた『私に似ている女の人』はやはり……ミサーラのことでしょうか?」
マスラ様はカトラリーを机に置く。
「私もそう思う。ユニコーンの角はその希少性が故に宝飾品としての価値が非常に高い。そのうえ高い治癒力があって、どんな傷も病も治す効果がある」
マスラ様が言うにはミサーラは本当に欲深く、婚約者であるマスラ様に、ことあるごとに高価な宝飾品やドレスを強請ってきていたらしい。
「ミサーラはユニコーンの角を欲しがっても、不思議はないだろう」
「確かに……ミサーラは一度欲しいと思ったものは、必ず手に入れないと気が済まない性格です。欲しい物を得るためならば……決して手段を選びませんでした」
ライゼンにいた頃のことを思い出して、私は拳を握りしめる。
そんな私の様子に気が付いたマスラ様は、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「何か……あったのか?」
私は持ちかけたカトラリーから手を離すと、ミサーラとの記憶を思い起こす。
それは──ある日のことだった。
ミサーラが私の着けていたアクセサリーを欲しがったのだ。
それは当時婚約者だったフジャーロ殿下から貰ったものだったので、譲る訳にもいかず。
私は苦肉の策で似たようなものを腕利きの技師に作ってもらい、それをミサーラにプレゼントした──のだが。
『私が欲しいのはこんなニセモノではありませんわ!』
ミサーラは金切声を上げながら私からもらったアクセサリーを床に投げつけ、代わりにフジャーロからもらったアクセサリーを奪っていった。
その後、私がフジャーロからアクセサリーをもらうたび、ミサーラはそれを奪うようになった。
今思えば、ミサーラは私のアクセサリーが欲しかったんじゃなく、フジャーロがプレセントしたものが欲しかったのかも知れない。
私の話に、マスラ様は眉間に皺をよせて怪訝な顔をする。
「誰もミサーラを止めようとはしなかったのか?」
私は首を横に振った。
「継母はそのことを知りながらも、なにもしませんでした。それどころか『あなたは姉なのだから妹に譲るのは当然だ』と言って私を責め立て、罵り……逆らうと罰を与えてきました」
「なんて事を……」
マスラ様は私の話を聞いて、憤りを露わにするように拳を強く握りしめる。
「あ、あの……マスラ様? ユニコーンの角が市場に出回ることはあるのですか?」
少し落ち着いてきたマスラ様は、首を横に振った。
「大昔は売られていたこともあったそうだけど、ユニコーンの乱獲が問題になって、今はユニコーンを捕獲すること自体が国際的な法で禁止されている。もし取引されるとしたら、闇市くらいだろうな」
「ミサーラが角を欲していることを密猟者がどこかで知って、エルの角を闇市に出品しようとした、という可能性もあるのでしょうか?」
「大いにありえるだろうな」
後日調べてみると、ミサーラが密猟者に金を払い、ユニコーンの角を手に入れようとしている証拠が見つかる。
私とマスラ様は食事を済ませ、食堂を後にしようとすると、オカディオさんが話しかけてきた。
「よぅ、お二人さん。相変わらず仲いいな?」
「オカディオさん、こんにちは。エルは大丈夫ですか?」
「怪我の具合も治ってきてるし、多分もう少し休んだら問題ないだろう」
「良かった」
私がほっと胸を撫で下ろすと、オカディオさんは話題を変えてくる。
「嬢ちゃん、ギルドの新しいメンバーに加わらねぇか?」
「え、私がですか?」
「マスラもギルドメンバーになってることだし、マスラと嬢ちゃんは魔物とか動物だけじゃなくユニコーンとも意思疎通ができるだろ? 俺たちにゃあそんなこと出来ねぇから、ギルドにいてくれると助かんだよ」
私はマスラ様の方を見ると、マスラ様は笑顔で頷き返してくれた。
「……分かりました。よろしくお願いします」
すると、オカディオさんは私の両肩をぽんぽんと叩く。
「おお、助かるぜ嬢ちゃ……じゃあなくて、ケルダ。よろしくな」
こうして私は、ザルカス王国のギルドの一員となる事になった。
数日後、エルの傷も癒えてきたので精霊の森までエルを送っていくこととなる。
しかし、エルに事情を話すと──
『ヤダ! わたしケルダと一緒がいい!』
「エル……でも、精霊の森はあなたのお家なのよ?」
『もう怖いのはイヤ! ひとりもイヤ! ケルダとも別れたくない!』
「もうエルったら……困ったわ……どうしましょう? マスラ様」
エルを撫でながら振り返ると、マスラ様は優しく微笑んだ。
「なら、エルもここに居ればいいんじゃあないか? ここにはユニも居ることだし」
「いいの……ですか?」
「オカディオに相談したら、構わないと言っていたが?」
正直な話をすると、エルと離れるのは寂しいと感じていた。
だから、エルと一緒に暮らせるのならば、そんな嬉しい事はない。
「ありがとうごさいます、マスラ様」
「礼ならギルドマスターに言うんだな」
「はい」
私は嬉しい気持ちでエルの方へ顔を向ける。
「これから一緒に暮らしましょう、エル」
『いいの!? やったぁ! ケルダ大好きぃ!』
エルは私に鼻先を摺り寄せた。
なんだか家族がまた増えたみたいで、嬉しくて。
その喜びように、思わず笑みが溢れるのだった。




