たんざく
七月七日、七夕だ。
願い事を書いた短冊を笹に吊るす。
そんな光景を、全国各地で見ることができる日。
あるプロ野球選手が、球場に設置された笹の前に立っていた。
(たしか、この短冊だったな)
さっき妻と娘が、ここに来ていた。そして、短冊に願い事を書いていったのだ。
どんな願い事かはわからない。
が、娘の短冊が何色で、どのあたりに吊るしていったのかを、さりげなくチェックしておいた。
妻と娘は今夜の試合を見ていくらしい。今は球場内のお店を回っているので、しばらくは戻ってこないと思う。
確認するなら今の内だ。娘はどんな願い事を短冊に書いたのか。
まず目に飛び込んできたのは、『さんかんおう』の文字だった。
少し驚く。まだ娘は幼い。『三冠王』という言葉をよく知っていたものだ。
そのあとで、にんまりする。
(「パパが『さんかんおう』をとれますように」かな?)
できた娘をもって幸せだ。
しかし、そうではなかった。
娘の短冊に書いてあるのは、
――おおきくなったら、めざせ『さんかんおう』。
(・・・・・・)
この文章の意味を、娘はわかって書いているのだろうか。
『三冠王』とは、一シーズンで「首位打者・打点王・本塁打王」の三つのタイトルをとること。それを達成するのは非常に難しく、毎年該当者が出るというものではない。
そこで気づく。
去年、その『三冠王』が久しぶりに出たのだ。
ライバル球団の選手で、今夜の試合にも出場する。
(『三冠王』という言葉を知っているのは、もしかして・・・・・・)
あの選手はかなりのイケメンで、女性人気が高いのだ。
――おおきくなったら、めざせ『さんかんおう』。
この文章に、さっきとは違う意味を感じる。父親として複雑な気分になった。
ならば、やることは決まっている。
(今夜の試合、パパのかっこいい姿を見せなければ!)
あんなチャラ男に娘はやらん。娘の目を覚ましてやる。
次も「七夕」のお話です。