サウナ
元プロ野球選手がサウナに入っていた。
現役を引退したとはいえ、筋トレを中心とした運動を続けている。その体は引きしまっていた。
で、大事なところはタオルで隠している。
サウナの中には今、元選手が一人だけだ。
なぜか野球帽をかぶっている。片手には野球のグローブだ。
そして、元選手を撮影するためのカメラが、サウナの中に設置されていた。このカメラは遠隔操作されている。
しばらくして、サウナの外から、
「いい映像が撮れました。ありがとうございます」
それを聞いて、元選手は立ち上がった。
さわやかスマイルになると、
「あんな感じで良かったかな?」
「もちろんですよ」
サウナの外からは、カメラマンの声だ。
それから数日後、ある会議室で映像が流れていた。「元プロ野球選手が一人で、サウナに入っている映像」だ。
この会議の司会者が、途中で映像を止める。
「次は、こちらをご覧ください」
会議室には二つのモニターがある。
片方のモニターでは、元選手が「一時停止」の状態になっていた。
で、その隣のモニターが明るくなったかと思ったら、別の映像が流れ始める。
こちらも同じサウナの中だ。
若手力士たちがいる。たくさんいる。サウナの中はぎゅうぎゅう詰めだ。
苦しそうな表情の力士たち。
なぜか力士たちの中には、麦わら帽子をかぶっている者や、学ランを着ている者、トランペットを口に当てている者などが混ざっていた。
「このサウナの中に、三〇人います」
司会者の説明に、会議の参加者たちは眉をひそめた。
会議の司会者が、映像を止める。
「えー、先にご説明した通り、この二つの映像は『ある状況』を表現しています」
夏の高校野球、その大会における、「選手」の状況と「観客たち」の状況だ。
これほどの違いがある。「グラウンド」と「観客席」には。
「それで本日、有識者の皆さまにお集まりいただきました。この二つの映像を参考に、『観客が熱中症になるのを予防する方法』について、活発な議論をお願いします」
次回は「暑さ対策」のお話です。