考える人
オーギュスト・ロダンがつくったブロンズ像、『考える人』は世界中にある。
その一つが野球場の前に置いてあった。
ある日、像の周囲に人だかりができていた。
像の視線の先、地面の上には「野球のボール」が落ちている。
ボールの落ちている位置が、実に絶妙だった。野球のボールを見ながら、像が何やら考えごとをしているかのようだ。
その日の内に世界中でニュースが流れる。
――ロダンの『考える人』、野球のボールを見ながら考え中。
一方で、その野球場の関係者たちも考えごとをしていた。
こういう形で話題になるのはほほ笑ましいが、あのボールをそのまま放置するわけにもいかない。誰かがボールを踏んづけて、転ぶかもしれないのだ。危険である。
それで数日後、野球のボールは取り除かれた。
ただし、その場所に「ボールの絵」を描くことが決まった。
こうして像は、ボールの絵を見続ける。
しばらくして、像に異変が起きた。
誰かが野球帽をかぶせていったのだ。そして、これも話題になる。
この流れに便乗しようと、野球場の関係者たちは考えた。
で、野球のユニフォームを着せようとするものの、この試みは失敗する。
像がマッチョすぎたのだ。もっと大きなユニフォームを用意しなければ、像に着せるのは無理っぽい。
とはいえ、野球帽をかぶった『考える人』は今や、人気の撮影スポットだ。
これを目当てにやって来るお客さんが、ついでに野球の試合を見ていったりもする。
それから一年後だ。
世界中で模倣犯が現れている。世界各地の『考える人』、その視線の先にこっそり、さまざまな物を置いていくのだ。
これはイタズラ? それとも芸術?
そんな行為が、像に個性を与えている。像が何を見ているのかで、その印象ががらりと変わるのだ。
日本各地にある『考える人』も同様だった。
それぞれの視線の先に、色んな物が置いてある。
さて、あなたなら何を置きますか?
お金? トイレットペーパー? それとも・・・・・・。
次が最終回です。




