打倒、除夜の鐘(その十一)
バッティングセンターは複雑な雰囲気に包まれていた。
まただ。また、「魔の時間帯」だ。ホームランが出ない。凡退が続いている。
とはいえ、ここまで積み上げたホームランは百七本だ。
あと一本で勝利できる。
しかし、その一本が出ないのだ。
除夜の鐘が聞こえてくる。あっちはこれで百五回。残り三回だ。
焦る気持ちが凡退を生む。
その直後に聞こえてくる鐘の音。これで百六回。次で追いつかれてしまう。
ここでバッティングセンターの店主は決断した。
「志願者を募ります。必ずホームランを打つ、という人は挙手をお願いします」
この場面だ。先に決めた順番など無視する。少しでも可能性の高い者に賭けるのだ。今必要なのは、プレッシャーに打ち勝つ精神力。
順番待ちの者からも文句は出なかった。ここでホームランを打てば「ヒーロー」だが、打てなければ「戦犯代表」にもなりかねない。
そんな中、高々と挙手したのは、
「ぼくが打つ!」
一人の野球少年だ。
練習の「タイムアタック」で、最初のホームランを放った男子小学生である。
この子なら、大役を任せるのに十分だろう。
「よし、頼むぞ!」
野球少年が打席に入ると、鐘の音が聞こえてきた。
これで、あっちは百七回。ついに並ばれてしまった。
とうとう土俵際だ。バッティングセンターが勝つためには、次の一球で仕留めなければならない。
ヒットでは駄目。ホームランが絶対に必要な場面だ。
野球少年に注目が集まる。
海外のテレビクルーや動画配信者たちがカメラを向けた。この場面、解説もナレーションもいらない。この雰囲気すべてを映像に収める。
機械からボールが飛び出してきた。
それ目がけて、少年がバットをふる。
まずは快音。
しかし、ヒットでは駄目なのだ。ホームランでなければ。
はたして、その打球の行方は――。
わずかな時間、バッティングセンターを静寂が包み込む。
そして、除夜の鐘が鳴った。最後の一回。百八回めである。
しかし、それよりも先に、少年の打球がホームランの的に直撃していた!
紙一重の差だ。が、除夜の鐘より先だったのは間違いない!
バッティングセンターが歓声にわく。ついに勝った。除夜の鐘に勝利したのだ。
初年度から参加していた常連客たち、その何人かが大泣きしている。
他の者たちはみんな笑顔だ。この場をすぐに離れようという者はいない。勝利の余韻を、それぞれに楽しんでいる。
決着の瞬間から十五分ほどして、
「ちわー、あけましておめでとうございます。お届けものです」
大量の「お餅」が届いた。
お寺の和尚さんが手配したものらしい。勝者が食べるための「お餅」。ここにいる全員で食べるには多い、そんな量の「お餅」が届いたのだ。
常連客の一人が言う。
「俺、お餅は『あんこ派』なんだよな」
バッティングセンターでふるまっているのは『コーンスープ』だ。
でも、お寺でふるまっているのは、たしか・・・・・・。
他の常連客が言う。
「じゃあ、お餅を持っていって、あっちで食べよう」
ついでに、好敵手の健闘をたたえる、というのも悪くはない。
大みそかの戦い、それをくぐり抜けた者たちは列になって、お寺へと向かった。新年を一緒に祝うために。
次回は「商品の企画会議」のお話です。




