打倒、除夜の鐘(その十)
バッティングセンターのホームラン、九十九本。
除夜の鐘、八十八回。
「いよいよか」
バッティングセンターの店主は顔がこわばっていた。
ここからが「魔の時間帯」だ。ホームランのペースが急に伸びなくなる。
残り一桁。あと九本。
そのことがプレッシャーになっているのか、打ち損ないが目立つようになっていた。
誰かが失敗すれば、それが伝染する。
この一分間、九十九本からホームランの数が動いていない。
その間も、除夜の鐘は確実に迫ってくる。
九十二回めの音が聞こえてきた。
バッティングセンターでは、仲間たちを応援する声を張り上げているが、挑戦者たちの「凡退」は続く。
九十九本。ここが毎年「鬼門」だ。百の大台に乗せるのを、徹底的に邪魔してくる。
九十三回めの鐘の音。
並ばれたら負けると思っていい。
ただ鐘をつけばいいのと違って、こっちは飛んでくるボールにバットを当てるだけでは駄目なのだ。ホームランでなくてはならない。
次の挑戦者たちが打席に入っていく。
その一人は意外な人物だった。
この女性って、たしか・・・・・・。
服装こそ違うが、やはりそうだ。数時間前に「お寺の使い」で来ていた、あの「巫女さん」だ。
ここにきて、「あっちのお寺の関係者」とは。
まさか、わざと凡退しに来たのか。
ところが、そんな負の感情は一瞬で消し飛んだ。
快音が響く。
巫女さんのバットから、百本めのホームランが飛び出した。
歓声にわくバッティングセンター。
さすが巫女さん。鬼門を越えた。百の大台に到達だ。まだ除夜の鐘に先行している。
続け、続け。
さらに、別の女性が打席に入る。
女子プロ野球の捕手だ。黒いプロテクターではなく、今日は晴れ着姿である。
そのバットからも快音が飛び出した。
百一本めのホームランだ。
続け、続け。今年は勝てるぞ。
残り七本。
このまま除夜の鐘の追撃をふり切ることができれば・・・・・・。




