打倒、除夜の鐘(その八)
時計の針が午後十一時を回った。
今年も残すところ、あと一時間をきった。「大みそか」のクライマックス。
バッティングセンターでは『コーンスープ』が、お寺では『おしるこ』がふるまわれている。
インターネット上では現在、ルール説明の動画が流れていた。
お寺側が除夜の鐘を「百八回」つき終わるまでに、バッティングセンター側は「百八本」のホームランを打てるのか。
先に達成した方の勝利となる。
なお、バッティングセンター側は「五つ」の打撃レーンを活用。
一人の打者が挑戦できるのは三球まで。その間にホームランを打たなければならない。「ホームラン」と書かれた的に直接、ボールを命中させるのだ。
複数の打撃レーンを同時に使う関係上、他のボールとぶつかって的に当たったとしても、それをホームランとは認めない。
この条件で、百八本のホームランだ。
去年、お寺が叩き出したタイムは、『二十九分五十八秒』。
このタイムよりも早くないと、バッティングセンター側に勝利はないだろう。
挑戦に参加する者たちはすでにくじ引きを終えて、打席に入る順番を決めていた。
五百人以上いるし、打撃に自信がある者も多いので、「全員が打席に立ったのに、ホームランが百八本に届かない!」ということはなさそうだ。
あとはタイムの問題。
少しずつ緊張が高まっていく。
午後十一時四十四分になった。
最初の挑戦者が、一番レーンに入る。
この人物だけは、バッティングセンターによる「招待選手」だ。
最初の挑戦者には、幸先良くホームランを打ってもらいたい。それで、あとに続く者たちを勢いづけてもらうのだ。
だから、「実力者」に来てもらった。
若いお坊さんである。
といっても、ただのお坊さんではない。「お坊さんたちによる『野球の日本代表メンバー』」の一人だ。
そして、最初の一球。
若いお坊さんがバットをふる。無駄を削ぎ落としていて、流れるようで、かつ、力強いスイングだ。
その打球が一直線に、「ホームラン」の的へと飛んでいく。
直後、歓声に包まれるバッティングセンター。
この時、除夜の鐘の一回めも鳴り響いていた。




