打倒、除夜の鐘(その七)
一方、バッティングセンター。
別のバッティングセンターに行っていた者たちが、先ほど戻ってきた。
本番に向けての練習で、「タイムアタック」をしてきたらしい。百七本のホームランを打つのにかかった時間は、『二十九分』ジャスト!
この朗報に、これ以上ないほど士気が高まっている。あちこちで笑い声が途切れない。
用意した『潮汁』と『鶏飯おにぎり』は、ちょうど今なくなったばかりだ。
ぎりぎりで間に合った女の子は、満面の笑みを浮かべている。先にお寺へ寄ってきたそうで、両方のごはんを食べた結果、「どっちもおいしい♪」と感想を口にした。
この『潮汁』と『鶏飯おにぎり』は、海外のテレビクルーにも好評だ。
本番が始まるまでにはまだ時間があり、何か他に日本文化の話を聞きたいそうなので、
「日本では、こんな風にお餅をついて」
常連客の何人かが言葉とジェスチャーとで、『餅つき』を説明しようとする。
その途中でイタズラ心が芽生えてきて、
「『餅つき』の時、男の格好は『おすもうさん』。すもうレスラー。ふんどしー」
ウソを混ぜる。
「で、女性の格好は『ウサギ』」
これは、「満月の暗くなっている部分が、日本では『ウサギが餅つきをしている姿』に見えるから」。
「昔は『ウサギの着ぐるみ』が普通だったけど、今は『バニーガール』の方が多いかな」
堂々とウソをつく。
海外のテレビクルーはそれを信じた。よし、今度日本に来て取材するのは、『餅つき』にしよう。
そこで、バッティングセンターの入り口がざわついた。
巫女装束の女子大生が来たのだ。
いくら正月直前とはいえ、一般人のコスプレではないだろう。
つまり、この「巫女さん」は、
(「あっちのお寺の関係者」か?)
そんな考えが頭をよぎる。
こっちは練習での「タイムアタック」で、百七本のホームランを『二十九分』で打ったのだ。
あれで、お寺側は不安に思ったのかも。今年は負けるんじゃないか、と。
やって来た「巫女さん」に対して、バッティングセンターの店主が出る。
そして、手紙を受け取った。お寺の和尚さんからの手紙だ。
さっそく奥に引っ込んで、その手紙に目を通す店主。
そこに書いてあったのは・・・・・・。
油・断・大・敵
店主はすぐに理解した。これは、ありがたい忠告だ。
練習は練習。本番とは違う。
本番には、本番ならではのプレッシャーがあるのだ。そのため、余計に時間がかかる。いくら練習で『二十九分』のタイムを出したからといって、決して安全圏ではない。
「油断大敵」
そう口にしてから、店主は考え込む。
油断大敵ではあるものの、バッティングセンター内の士気が今、非常に高まっているのも確か。
「意外と、このままの勢いでいけちゃうかも・・・・・・」
よし、手紙の内容については黙っていよう。
そして、こちらも手紙を書いた。
謹・賀・新・年
その手紙を、「巫女さん」に渡す。
「それでは良いお年を」
「良いお年を」
巫女装束の女子大生が帰ったあとで、店主は常連客たちに囲まれた。
「何だったんだ?」
質問される。
「・・・・・・」
店主が黙っていると、
「あの巫女さん、何だったんだ?」
さらに大きな声で聞いてくる。
このまま黙っていると、変な憶測を招くかも。
すると、あり得る。
このバッティングセンター内で、
疑・心・暗・鬼
そんな事態になれば、勝てるものも勝てなくなる。
店主は素直に白状した。
「かくかくしかじかで」
お寺から届いたのは、「油断大敵」の手紙。
常連客たちは神妙な顔になって、
「なるほど」
「たしかに浮かれすぎていたかも」
「もう一度気合いを入れ直すぞ!」
そうなのだ。まだ自分たちは勝っていない。
一年目、敗北。
二年目、敗北。
三年目、敗北。
四年目、敗北。
そして五年目。今年こそ。
ここに集まった者たちの思いは一つだ。
「打倒、除夜の鐘!」




