打倒、除夜の鐘(その五)
「『芋煮』だと・・・・・・」
お寺に送った密偵からの情報に、バッティングセンターにいる常連客たちはうめいた。
「しかも、『山菜おこわ』もあるなんて・・・・・・」
そろそろ、おなかがすいてきた。
お寺では無料でふるまっているらしい。
「・・・・・・俺たちも偵察に行くか?」
胃袋を使う偵察だ。お寺で『芋煮』と『山菜おこわ』を食べてから、バッティングセンターに戻ってくればいい。
しかし、理性が引き止める。
お寺でふるまわれている「食事」を口にしたら、いざ本番の打席に入った時、余計なことを考えないだろうか。少しでも迷いが生まれれば、ホームランを打てる可能性は下がる。
「駄目だ。お寺には行かない!」
常連客たちは踏みとどまった。
過去に一度でも、バッティングセンター側が勝っていたなら、ここでお寺に行っていたかもしれない。
しかし、まだ勝っていないのだ。ただの一度も。
だからこそ、自分自身に厳しくあるべき。欲しがりません、勝つまでは。
「今年勝って、来年食べに行けばいい」
その時だ。
「『潮汁』ができましたー」
「『鶏飯おにぎり』もありますよー」
バッティングセンターのスタッフが、食べ物を運んでくる。
常連客たちから歓声が上がった。笑顔でスタッフに駆け寄る。
一方その頃、別のバッティングセンターでは・・・・・・。
カメラに向かって、動画配信者の一人が言い放つ。
「ただの練習ではつまらない! これから『タイムアタック』だ! 打つぞ、『百七本』のホームラン!」
そんな挑戦動画の配信を開始する。
これはあくまでも「練習」なので、「本番」よりも「一本少なく」した。
はたして、どのくらいのタイムになるのか。
去年のお寺が、百八回の鐘をつくのに、『二十九分五十八秒』かかっている。
この練習では、『三〇分』を切りたいところだが・・・・・・。
最初の五人が打席に入る。
そして、男子小学生のバットから、一本めのホームランが飛び出した。幸先の良いスタートだ。
残りは百六本。




