打倒、除夜の鐘(その四)
バッティングセンターからバスが出発していく。
その頃、お寺の境内では、お坊さんの一人がストップウォッチを見ながら叫んでいた。
「タイム計測開始!」
海外のテレビクルーが椅子に座り、数人の小坊主さんたちから、肩や腕のマッサージを受け始めた。足湯も用意されている。
そして、予定の作業を終えると、小坊主さんたちは次々と、テレビクルーから離れていった。
全員が離れたところで、先ほどのお坊さんが叫ぶ。
「五十八秒!」
本日三回目の一分切りである。
小坊主さんたちだけでなく、他のお寺関係者、また、海外のテレビクルーからも歓声が上がった。
毎年お寺側が勝っているとはいえ、バッティングセンター側は確実に成長している。こちらが去年と同じままでは、勝つことは難しいだろう。相手はそんなに甘くはない。
だから、今年から『マッサージ部隊』を用意した。
お寺側の鐘つき要員は「三人」で、ここから人数を増やすことはできない。
だったら、この「三人」が最大級のパフォーマンスを発揮できるよう、除夜の鐘をつく間、順番に「マッサージ」するのだ。これは「ルール違反」ではないはず。
「もう一回いくぞ」
別のテレビクルーに協力してもらう。
またもや、小坊主さんたちがテレビクルーに群がった。そして、高速マッサージを開始。まるでF1のピット作業だ。
「五十六秒!」
さらにタイムを縮めてくる。
お寺側としては、この勝負に「何が何でも勝ちたい」というわけではない。
ただ、「相手が本気な以上、こちらも本気を出さなければ失礼」とは考えている。
本心を言えば、こちらが全力を尽くした上で、バッティングセンター側に勝って欲しいのだ。皆で勝ち取る喜びを、ぜひとも体験して欲しい。
そのようにお寺関係者の多くが考えていた。壁が高ければ高いほど、それを乗り越えた時の喜びは大きくなる。
だから、『マッサージ部隊』の他にも、『秘密兵器』を用意していた。
この時ちょうど、お寺に一人の男性がやって来る。
「ぎりぎりになって、すみません」
スポーツ用具メーカーの社員だ。
「『改良版』が完成しました」
持ってきたのは、特殊繊維の手袋だ。お寺の鐘をつくお坊さんたちが、この手袋をはめる。
一つ前のモデルには、まだ甘さがあった。「鐘を千回ついても大丈夫」という耐久性だったが、大みそかだけで、そんなに鐘をつくことはない。「過剰な性能」である。
だから、「二百回つければ十分」という耐久性に変えてもらった。その分、軽量化が図られている。
これこそ『秘密兵器』だ。王者に死角なし。
お坊さんの一人が大声で言う。
「もうすぐ『芋煮』と『山菜おこわ』ができますから、食べていってください」
お寺の境内に、おいしそうな香りが流れ始めた。
この時、人気のない場所に向かって、そそくさと動く影が一つ。
ウインドブレーカーを着た男性で、どこかに電話をかけ始めた。




