打倒、除夜の鐘(その三)
そこで、お寺へ使者を送ることにした。ルールの協議をするのだ。
その結果、とりあえずお寺側は、「三人のお坊さん」で交代しながら、「一回ずつ丁寧に鐘をつく」ことを了承してくれた。
一方、バッティングセンター側は、「五つ」の打撃レーンを活用する。
はたして、今年の「大みそか」、先に「百八」の大台に到達するのはどちらなのか?
で、結果を先に書く。
勝ったのは、お寺だ。最初の年も含めるなら、四年連続の勝利である。
しかし、この年のバッティングセンターは、「百二本」のホームランを放っていた。
あと少しだ。わずかに届かなかっただけ。
バッティングセンターが負けたことで、次回もルールに変更はない。
そして、今年も「大みそか」がやって来る。
一年目、敗北。
二年目、敗北。
三年目、敗北。
四年目、敗北。
で、五年目の「大みそか」だ。
昼過ぎになると、打撃に自信のある者たちが、バッティングセンターに集まってくる。
事前にしっかりと練習するためだ。飛んでくるボールにバットを当てても、それが「ヒット」なら意味がない。カウントされるのは「ホームラン」のみだ。
なので、本番前に最後の練習をしておく。「今年こそ勝つぞ!」という気迫がみなぎっていた。
さらに今年は、海外のテレビ局が来ている。
日本の「大みそかの風習」として、母国に映像を届けるらしい。お寺の方にも、彼らの「別働隊」が待機している。
ホームランを「百八本」打つのが先か、鐘を「百八回」つくのが先か、という競争。
テレビ局のスタッフが通訳を連れて、挑戦者たちの意気込みを聞いて回っている。
また、海外のテレビ局以外に、国内のネット動画配信者たちも、このバッティングセンターに来ていた。『打倒、除夜の鐘』のイベントを生配信して、アクセス数を稼ぐのだ。
そんな中、まだ明るい時間帯だというのに、お寺の方から鐘の音が聞こえてくる。
この音の正体は、「海外のテレビ局に頼まれて、鐘をつく映像を撮らせているだけ」なのだが、バッティングセンター側は別の意味に受け取った。
「あっちもウォーミングアップを開始したぞ」
「今年は例年以上に本気だな」
こちらも負けてはいられない。さらに練習に気合いが入る。
とはいえ、そろそろ打撃レーンが一時的に閉鎖される。本番に向けて、ピッチングマシーンのメンテナンスを行うのだ。
もしも本番でマシーンが故障するようなことがあれば、バッティングセンター側の勝利は望めない。そういうことがないように万全を期す。マシーンの製造会社から、五人の技師に来てもらっていた。
「ここのバネ、かなりくたびれちゃっているから、新しいものと交換しておきましょう」
技師の言葉で、挑戦者たちの間に緊張が走った。
そんなことをすれば、ストレートの勢いが増す。練習の時以上の球が、本番では飛んでくるのだ。
「どうする? ストレートは捨てるか?」
「しかし、それだとタイムロスになるぞ」
「全員が一球めでホームラン、それが理想なんだが・・・・・・」
前もってスピードボールに目を慣らしておきたくても、ここのピッチングマシーンとは本番まで対戦できない。
どうしようか悩んでいると、バッティングセンターの前にバスが止まった。
「一番近くのバッティングセンターが協力してくれるそうです! スピードボールに慣れておきたい方は、このバスに乗ってください!」
バッティングセンターのスタッフが叫んだ。
すぐさま挑戦者たちの三割くらいが、バスに乗り込もうとする。
一方で、海外のテレビ局はどうしようか迷った。
すでにお寺にも「別働隊」を出している。さらに戦力を分散させる余裕はない。
すると、ネット動画配信者の数人が、協力を申し出る。
「あっちは私たちに任せて」
そう言って、バスに乗り込んだ。




