打倒、除夜の鐘(その一)
十二月三十一日。「大みそか」だ。
午後になると、このバッティングセンターに大勢の人たちが集まってくる。
彼らの多くは常連客だ。
なぜ、このバッティングセンターに集まってくるのか。
本日、ここで「ある挑戦」が行われる。この町でそれは、「年末の風物詩」だ。
もう少しくわしく説明しよう。
まず、「大みそか」と言えば、「除夜の鐘」だ。
年をまたいで、お寺が鐘をつく。地域によって違いはあるが、このバッティングセンターに一番近いお寺では、「除夜の鐘」を「百八回」つくことになっている。
で、さかのぼること六年前だ。このバッティングセンターの店主が、大みそかに除夜の鐘を聞きながら考えた。
あのお寺は大きくて、参拝するお客さんの数が多い。
特に年末年始は、徹夜でお参りするお客さんが結構いる。除夜の鐘を聞きながらお参りして、初日の出までどこかで時間をつぶすのだ。
そんなお客さんたちを狙って、この近辺のお店では、十二月三十一日から一月一日にかけて、「深夜営業」をするところがある。
(うちはどうしようかな)
これまでは毎年、バッティングセンターを「お休み」にしていたけれど、「深夜営業」をしてみようかな。
とはいえ、飲食店のように、大みそからしい限定メニューや、正月らしい限定メニューを用意できるわけじゃない。
バッティングセンターにお客さんが来てくれるか不安なので、
(何かイベントをしようかな)
この間もずっと、除夜の鐘が鳴り続けている。まだ百八回には届いていない。
そこで店主は閃いた。
そうだ。こっちも「百八」だ。「百八本のホームランを打つ」というのは、どうだろう。
このバッティングセンターには、ここに当たったら「ホームラン」という的を設置している。
それを狙うのだ。お客さんたちに一人一打席ずつ挑戦してもらって、「百八」という数を目指す。
除夜の鐘をヒントにしたので、挑戦開始の時刻は、除夜の鐘に合わせることにした。
そして、その思いつきから、およそ一年。いよいよ最初の「大みそか」が訪れる。
店主はテンションが上がっていた。このバッティングセンター開業以来初の、「深夜営業」である。
常連のお客さんたちへの告知は、前もって済ませていた。
――除夜の鐘と一緒に、ホームランを打とう!
そんなポスターを、バッティングセンターのあちこちに貼っておいたのだ。
で、「百八本」のホームランが出た時点で終了である。
ただし、ホームランは一人一本ずつしか認めない。一人で複数本を打つのは駄目だ。
したがって、最低でも「百八人」が必要になる。予想だと「二百人くらい」は集まりそうだけど、はたして・・・・・・。
すると、夜の十時頃から人が集まってくる。十一時半には、あっさり三百人を突破していた。
そして、除夜の鐘と同時に挑戦開始だ。
お客さんたちが一人ずつ打席に入る。ホームランを打とうとがんばった。
で、午前一時を過ぎた頃だ。ついに百八本めのホームランが飛び出す。
当たり前だが、すでに除夜の鐘は終わっていた。大幅に遅れての「完了」である。
そのあと、『豚汁』や『甘酒』をふるまっていると、こんな意見が常連客から出た。
「次は除夜の鐘と勝負したい!」
どちらが先に「完了」するかという勝負である。




