早朝の野球場で
あるプロ野球選手が早朝、自主練をするために、本拠地の屋外球場に来ていた。
誰もいない球場、この雰囲気が好きだ。
いつもならすぐに準備運動をする。そして、ランニングだ。
しかし、今日は別の考えがあった。
(あれをやってみようかな)
ここは屋外球場だが、プロ野球の本拠地には、ドーム球場が少なくない。
そんなドーム球場のいくつかを、有名歌手やバンドグループが「ライブ」をして回ることがある。『ドームツアー』だ。『三大ドームツアー』とか、『五大ドームツアー』とか。
それを見にいくたびに思っていた。
――自分もやってみたい!
大勢のお客さんたちを球場に入れて、とまでは思わないものの、マウンドのあたりで歌ってみたいと、以前から考えていた。
今は早朝なので、周囲には誰もいない。この球場にいるのは、自分だけだ。
だったら、心置きなく・・・・・・。
さっそくマウンドに立つと、
「みんな、今日は僕の歌を聞きに集まってきてくれて嬉しいよ! たくさん楽しんでいってね!」
有名歌手になりきる。
で、カラオケでの持ち歌を口にした。
気分良く歌っていると、間奏に差しかかる。
そこで気づいた。
いつの間にか、他の選手が来ているのだ。ベンチの方から、こっちを見ている。
予想外のことに戸惑っていると、相手がマウンドに近づいてきた。
そして、告げてきたのは、
「ギターはどこから入ればいい?」
エアギターの構えを見せてくると、さらに続けて、
「俺も前から、こんなことをやってみたかったんだ」
こうして早朝、幻の「ライブ」が実現した。
次回は「裏技」のお話です。