試着の画像
女子野球の投手が家でのんびりしていると、同じチームの捕手からスマホにメッセージが届いた。
今ちょうど買い物中らしい。
試着してみた画像が、いくつか送られてきた。どれにしようか迷っているという。
(そんなの、自分で決めてよ)
野球関連のことなら、口出しするのも、やぶさかではない。
しかし、プライベートなことなら、「本人が決める」のが一番だろう。
そう思いながら画像を見ると、試着しているのはどれも、「捕手のプロテクター」だった。
最近はいろいろな種類が出ているようだ。「日本の戦国鎧」風、「西洋の騎士甲冑」風、「未来のアンドロイド」風、そして、「天使」風に「悪魔」風など。他にも、マンガやゲームのキャラクターをイメージしたものがあった。
――どれがいいと思う?
捕手がスマホの向こう側から聞いてくる。
(買い物に行くなら、声をかけて欲しかったな)
ここ最近、私は「今年の水着を買いに行こう行こう♪」と言っていたのだ。
なのに、それは完全に無視されたわけで・・・・・・。
そこでピンとくる。
なぜ、私を誘わなかったのか。その理由だ。
(あいつ、男と一緒だな!)
送られてきた試着の画像を、私はじっくり見る。男の影がないかを探した。
どの画像も自撮りではない。誰かに撮ってもらっている。
(店員さんという可能性もあるが・・・・・・)
そこで私は違和感を覚えた。
(どうして、この画像だけ・・・・・・)
送られてきた画像はどれも、「捕手のプロテクター」だ。
そのほとんどが、いわゆる「かわいい系」だ。「ふわふわ」とか「もこもこ」とか、そういう単語が似合うようなプロテクターばかり。「日本の戦国鎧」風や「西洋の騎士甲冑」風であっても、色使いだったり、デザインだったりで、「かわいい系」に寄せてある。
そんな中に一つだけ、地味な黒いプロテクターが混ざっている。昔ながらのデザインで、かわいい感じとは無縁だ。
(どうして、これが混ざっているんだろう)
他のプロテクターと、傾向が違いすぎるような・・・・・・。
そこで再びピンとくる。捕手の真意に気づいた。
(なるほど。そういうことか)
野球において、投手と捕手は「夫婦の関係」にたとえられることがある。「以心伝心」が理想だ。
捕手が今期待しているのはおそらく、
(この黒いプロテクターにしなさい、と私が主張することか)
捕手も本心では、これを選びたいのだろう。
しかし、男と一緒だ。自分の「かわいさアピール」もしたい。
なので、策を使った。
――うちのチームのエースが、「絶対にこれ!」って。私は他のがいいんだけど。でも、エースの機嫌を損ねたくないし・・・・・・。
そう言いわけするための策だ。男に「かわいさアピール」をしつつ、自分が一番欲しいプロテクターも手に入れる。
(エースを踏み台にするとは、いい度胸だ)
さて、どうするか。
(・・・・・・)
仕方がない。彼女はチームの正捕手だ。あの配球センスは天性のもの。
(二番手捕手と組めば、私の『防御率』は確実に悪化するだろうし・・・・・・)
うん。ここは助け合いの精神が大切だ。
スマホにメッセージを入力しながら、強く念じる。
(貸し一つな! この分は「試合中に」ではなく、「試合外」で返せよ!)
翌日、彼女から「おみやげ」をもらった。
スクール水着っぽいデザインの「アンダーシャツ」だった。
次回は「台風」のお話です。




