乱闘の行方
名将と呼ばれる監督は、この時点で気づいていた。
野球の試合中に乱闘が始まり、およそ一分が経過。
今のところ、両チームは互角のようだが、いずれ味方が劣勢になるだろう。
そのわずかな兆しを、監督は感じ取っていた。
(すぐに手を打つ必要があるな)
しかし、すでに味方のベンチは空っぽだ。戦力を使い切っている。
今ここで、新たに投入できる「予備戦力」なんて・・・・・・。
そこで監督は目が合った。
すぐ近くにいたのだ。球団のマスコットキャラクターが。
今は一人でも「戦力」が欲しい状況。
(口で言っても、ごねてきそうだな)
そう考えた監督は、マスコットキャラクターの背中に腕を回すと、
「よし、一緒に突撃するぞー!」
急に走り出す。強制的に道連れだ。
こうして、マスコットキャラクターも乱闘に参加するはめに。
まさかの展開に、球場は盛り上がる。
で、試合後だ。
全身ボロボロになったマスコットキャラクターのもとに、球団社長からのメッセージが届く。
――お客さんたちにうけていたから、次の乱闘の時にも頼むよ。
その夜、マスコットキャラクターはインターネットで検索した。この球場の近くにある「スポーツジム」や「ボクシングジム」を。
その一つに、翌日から通い始めた。
そして、一か月後だ。
ついに乱闘の機会が訪れる。
相手チームは奇しくも、前回と同じだ。
両チームのベンチから飛び出していく選手たち。
さらには、コーチたちも続く。
球場にいるお客さんたちは期待した。
一か月前と同じくあるかも。マスコットキャラクターの参戦。
ところが、その姿がどこにも見えないのだ。
(ひょっとして逃げた?)
ジムに通っていたのは何だったのか。
しかし、すぐにお客さんたちは目撃する。
マスコットキャラクターが突然、グラウンドに飛び出してきたのだ。
しかも、一人ではない。
そのうしろには、マスコットキャラクターのお面をつけた「屈強な男たち」が続いている。
この時のために、ジムでスカウトしてきた「仲間たち」だ。
味方チームの選手たちからは歓声が上がり、相手チームの選手たちには動揺が走る。
ところが、マスコットキャラクターが率いる男たちは、両チームの選手たちをボコボコにし始めた。
その強さは本物で、両チームをあっさり撃破。短時間で乱闘を終わらせることに成功する。
平和になったピッチャーマウンドで、勝利の余韻にひたるマスコットキャラクター。
同時刻、マスコットキャラクターのお面をつけた人物が一人、ベンチ裏の通路を歩いていた。ひそかにグラウンドから遠ざかっていく。
その正体は「監督」だ。
マスコットキャラクターがグラウンドに飛び出してきた時、「こいつは味方じゃない!」と即座に見抜いていた。
前回のことがある。今回のマスコットキャラクターの行動、前回の「乱闘強制参加」を恨んでのものに違いない。このままでは、囲んでボコボコにされてしまうかも。
そう考えた監督は、次の行動に出た。どさくさに紛れて、「屈強な男たち」の一人を不意打ちで倒すと、お面を強奪。
そのお面をかぶると、マスコットキャラクターの仲間のふりをして、戦場から脱出してきたのだ。
したがって無傷。
さすが「名将」である。
次回は『試着の画像』というお話です。




