監督賞
プロ野球の世界では、試合で活躍した選手を、監督が個人的に「表彰」することがある。
いわゆる『監督賞』だ。
ただ言葉で表彰するだけでなく、監督から「高級品」をもらうことも珍しくない。
たとえば、ブランドものの「腕時計」とか、「かばん」とか。
過去には、釣りを趣味にしている選手が、「高級釣り用具」をもらったこともあったらしい。
で、この球団の監督も、『監督賞』を設定している。
そのため、こんな噂があった。
監督室の中には、『監督賞』用の「高級品」が常備されているらしい。
どんな物があるんだろう。若手選手たちは気になる。
先輩たちに聞いてみると、誰もが意味ありげな顔になって、
「『監督賞』に選んでもらえるよう、試合でがんばることだ」
若手選手たちが知りたいような、くわしいことを教えてくれない。はぐらかしてくる。
それでもめげずに、さらに聞きこみを続けた結果、あるベテラン選手が、
「これ、『監督賞』で獲得した腕時計だ」
と小声で教えてくれた。
ものすごく高そうな時計だ。試合で活躍して『監督賞』に選ばれると、こんな物をもらえるのか。
若手選手たちは張りきる。目の色を変えて、野球の練習に励んだ。
そんな時だ。ある噂が流れる。
人気がありすぎて現在入手困難になっている「新型ゲーム機」を、監督が「二つ」手に入れたらしい。
ゲーム好きの若手選手たちは思った。
これはチャンスだ。そのゲーム機、少なくとも一つは、『監督賞』のためのものに違いない。
それとなく探ってみると、監督が認めた。一つは監督自身が遊ぶためのものだが、もう一つは『監督賞』用のものだと。
「つまり、早い者勝ちだ」
監督からの挑発するような言葉で、若手選手たちの闘志に火がつく。次に『監督賞』に選ばれるのは自分だ!
数日後、そんな若手選手の一人が、試合で大活躍した。
そして、試合後だ。監督室に呼ばれる。
(やったね、『監督賞』だ♪)
新型ゲーム機のことを考えながら、部屋の中に入ると、監督がにこやかに告げてくる。
「そこにある物の中から、好きなのを取っていいからね」
そのあとで、こうつけ加えた。
「チャレンジできるのは九回」
監督室の一角には、クレーンゲームの筐体が置いてあった。
例の新型ゲーム機がある。非常に取りにくそうな場所だ。
高級腕時計もある。かなり取りにくそうな場所だ。
監督が笑顔で助言してくる。
「まずは手前の駄菓子とかを狙って、ゲームのコツをつかむのがおすすめだよ♪」
次回、審判の反逆。