おみやげ
世界中で伝染病が流行した。
そんな時に、ある国で野球の世界大会が開かれた。
各国の代表選手たちが、この国に集まってくる。
本来だったら、試合と試合の合間に、観光でもしてもらうのだが、今はそうもいかない。試合の時以外は基本的に、ホテルに「缶詰め」だ。
当たり前のことだが、どの国の代表選手たちも退屈しているらしい。
そこで、この国の野球協会は、各国の代表選手たちが宿泊しているホテルにそれぞれ、野球マンガを置くことにした。
マンガでも読んで、退屈さを紛らわせてもらおう。完結済みの野球マンガをいくつか、急いで各国の言葉に翻訳した。
今は世界中が大変な時だ。伝染病が流行しているので、ホテルに「缶詰め」になるのは仕方がない。そう思いながら各国の代表選手たちは、野球マンガを回し読みする。その一方で、世界大会を戦った。
そして、大会は無事に終了する。新たな世界チャンピオンが誕生した。
野球協会は胸をなで下ろす。大きなトラブルがなくて、本当に良かった。
試合の時以外はホテルに「缶詰め」という状況だったのに、選手たちはよく我慢してくれたと思う。
大変さを顔には出さずに、はつらつとしたプレーで、世界中の野球ファンを熱狂させてくれた。本当にありがとう。
さて、各ホテルに置いていた野球マンガを回収するか。
ところが、ホテルを回ってみて驚いた。
野球マンガのほとんどを、代表選手たちが持ち帰っていたのだ。母国にいる子どもたちへの「おみやげ」にしたらしい。
そんな中、ある野球マンガだけが一セット、どのホテルにも残っていた。
これだけが不人気だったのだろうか?
でも、どうして一セットだけ? どのマンガも三セットずつ置いていたのに・・・・・・。
表紙をめくってみて、あるものを見つける。一人の選手の直筆サインだ。
それで閃く。これって、もしかして・・・・・・。
今回の世界大会で、登録できる選手の数は「二十八人」だ。
そして、この野球マンガも「二十八巻」で完結している。
で、それぞれの巻に一人ずつ、代表選手のサインが書いてあるのだ。
これはうれしい「置きみやげ」だ。おそらく、各国の間でこっそり、「こうしよう」と申し合わせたのだろう。
野球協会はさっそく、この「置きみやげ」を全国各地の野球場に展示することにした。
この国の野球ファンへの、素敵な「おみやげ」である。
次回は『監督賞』というお話です。