ギャンブル
マフィアの親分が二人、秘密の高級バーで酒を飲んでいた。
だが、あまり飲みすぎるわけにもいかない。明日は野球の試合がある。マフィア対マフィアの「草野球」だ。
で、二人の親分はどちらも監督。明日の試合についての最終確認をするために、この店を二人だけで訪れていた。子分たちは連れてきていない。
この店では、飲食以外のサービスも提供している。たとえば、客同士がカードゲームの勝負をする場合、「店のバーテンダーが『無料』で、ディーラー役を務める」サービスとか。
せっかくなので、親分二人も勝負することにした。
カードが配られる前に、片方が言い出す。
「何か賭けようぜ」
「いいぜ。何を賭ける?」
二人はしばらく相談して、何を賭けるのかを決めた。
これから試合が始まる。マフィア対マフィアの「草野球」だ。
片方のチームの監督は、ベンチ前に子分たちを集めると、
「試合前に言っておくことがある。今日はうちのチーム、【一イニング】につき【一アウト】で【攻守交代】だから」
昨夜のギャンブルで負けまくった。その結果が、これである。こっちのチームは、一人がアウトになった時点で、即座に【攻守交代】だ。
「つまり、【九イニング】で【九アウト】ってことですか?」
「そうだ。単純でいいだろ」
なお、相手チームは普通だ。【九イニング】で【二十七アウト】。
監督が予想していたとおり、子分たちの顔が引きつっている。いやぁ、すまん。
しかし、もう一つ伝えることがあった。
「あと、こっちは【一ストライク】で【一アウト】だから」
なお、相手チームは普通だ。【三ストライク】で【一アウト】。
なかなかのハンデだと思うが、それを顔には出さずに、
「良かったな、お前ら。今日の試合はスリリングなものになるぞ。存分に楽しめ」
マフィアの草野球だ。こんなこともある。
次回は「野球の世界大会」のお話です。