占い師
ベテラン選手から、ある占い師のことを聞いた。
よく当たると評判らしい。
会ってみようと思ったのは、ちょっとした気まぐれからだった。
その占い師がいるのは、繁華街から少し離れた路地だという。
「間違えるなよ。小さい方だ」
そうベテラン選手が強調していた。
小さい方? 何のことを言っているのか、その時はわからなかった。
だが、現地に着いて納得する。
その路地には、占い師が二人いるのだ。
いや、本当に占い師なのか、最初は戸惑った。
イメージしていたのと少し違う。
服装や雰囲気は、二人とも占い師っぽい。あれで台の上にあるのが『水晶玉』だったら、何の問題もなかった。
ところが、それぞれの台の上にあるのは、『水晶玉』ではない。『ボウリングの玉』と『野球のボール』だ。
よく当たるのは「小さい方」ということだから、『野球のボール』を置いている方に向かう。
「占い師さんですよね?」
「そうですよ。お客さまですよね? どうぞ、おかけください」
台の前にあるパイプ椅子に座った。
料金は前払いだという。当たり前か。占いの結果次第では、「ごねる客」もいるのだろう。
「それ、『野球のボール』ですよね?」
「そうですよ」
「普通は『水晶玉』を使いませんか?」
「そんな占い師もいますね。ですけど、私はそれとは違うタイプの占い師なので」
なんでも、占い師にはそれぞれ、「使う道具との相性」があるのだとか。
「『水晶玉』と相性がいい占い師もいれば、『野球のボール』と相性がいい占い師もいます。私の知っている範囲だと、『ボウリングの玉』を使う変な占い師もいるらしいですよ」
隣の占い師が咳払いをするのが聞こえてくる。
せっかく来たのだし、料金も法外ではないようだ。占ってもらうことにする。
プロ野球選手であることを告げてから、
「今年のチームの順位を占ってください」
「順位ですね」
そこで占い師の手が『野球のボール』に軽く当たった。
ボールは転がり、台の外へと落ちる。慌てて拾う占い師。
「すみません。今のは事故です。新しいボールに交換して占い直しますので、少しお待ちを」
今のは本当に事故なのかもしれないが、こんな状況でボールが落ちるなんて不吉すぎる。
野球にたとえるなら、簡単な外野フライを落として失点するようなもの・・・・・・。
何となく嫌な予感がしたので、
「あの、やっぱり占ってもらう内容を変えたいのですが」
「どうぞどうぞ。今なら変更可能です」
「それでは、えーと、そうだな・・・・・・ありきたりかもしれませんが、恋愛運をお願いします」
すると、占い師は『野球のボール』に手をかざしてから、
「見えます、見えます。ほほう、なるほど」
そして、厳かに告げてくる。
「そうですね、あなたがプロ野球の一軍で活躍しているのでしたら、『目の前にいるお嬢さん』とか、私的にはよろしいんじゃないかと」
「・・・・・・やっぱり別の占いにします」
明日の天気を占ってもらった。
「晴れですけど、あなたの頭上だけ台風になれって気分です」
翌日、空は晴れ渡った。
で、その年、チームは最下位に沈んだ。
次回、早朝の野球場で・・・。