金策
馬たちが疾走する。
ここは競馬場だ。
夏の真っ盛り、ゴール目がけて馬たちが疾走している。
激しい競り合いになっていた。どの馬が一着になるのか、まだわからない。
叫ぶ実況。客席は大盛り上がりだ。
三頭が並走している。
本命馬の『フルイケカエルダイバー』と、対抗馬の『ソコノケスズメキッズ』。
そして、もう一頭は『カキクエオカネストライク』だ。
三頭は横並びのまま、ゴールラインを駆け抜けていく。
写真判定の結果、このレースに勝利したのは――
「『カキクエオカネストライク』!」
人気の二頭を抑えて、まさかの万馬券だ。賭けたお金が、百倍以上になって戻ってくる。
こんなの、当たるはずがない。競馬ファンの多くが、外れ馬券を投げ捨てる。
そんな中、万馬券を手にしている男がいた。
すぐさま換金に向かう。
ざわつく周囲。こいつ、またもや当てやがった。これで何レースめだよ。
しかし、男の表情は険しい。満足している顔ではなかった。
この男には夢がある。まだ、その道の途中だ。
男は換金を済ませると、馬券販売の窓口に向かう。
「あら、また当てたの」
男はうなずくと、次のレースに全額を投じる。今回の万馬券で獲得した分もすべてだ。温存はしない。
この男には夢がある。そのためには、どうしても大金が必要なのだ。
最近の夏は猛暑続き。高校野球の暑さ対策が今年も話題になっている。
この男、競馬も好きだが野球も好きだ。
それで考えた。
競馬で荒稼ぎして、自前のドーム球場を建てる。もちろん冷房完備だ。それを高校球児たちに無料で使わせたい。
しかし、この計画を実現するためには、ものすごい大金が必要になる。
(少なくとも、あと三回は万馬券を当てないとな)
この男には夢がある。
その実現のために、こんなところで立ち止まってはいられない。
次回は「優勝セール」のお話です。