ホームランのボールをキャッチしたら
快音と同時に、球場が歓声につつまれた。
「打ったー! これは大きいぞー!」
実況アナウンサーがさけんでいる。
白いボールは外野スタンドまでとどいた。
それをお客さんの一人がキャッチする。
そのお客さんはすぐさま、となりの席にいた男の子に、ホームランのボールをプレゼントした。
はしゃぐ男の子。
そこに近づいてくる影があった。
この球団のマスコットキャラクターである。
男の子の前まで来ると、サインペンをとり出した。
そして、「そのボールをよこせ♪」というジェスチャーをしてくる。
どうやら、ボールに自分のサインを書きたいらしい。
このマスコットキャラクターはイタズラ好きなので、男の子は少し迷った。
けれども、ホームランのボールをわたす。
すらすらすらと、サインを書くマスコットキャラクター。
そのあと、男の子にボールを返す。マスコットキャラクターは満足そうだ。
一方で、男の子は最初、ぎこちない顔をしていた。
しかし、まわりにいる人たちが口々に、
「よかったね~」
「こういうことって、めったにないよ~」
そう言われて、男の子は笑顔にもどった。
さらに試合はつづく。
なんと、次のバッターもホームランを打った。
それをお客さんの一人がキャッチする。
がらの悪い若者だ。髪型はモヒカンで、上半身はほとんど裸。トゲトゲのついた肩パッドをつけている。
しかも、かなりお酒に酔っているようだ。
次の瞬間、その若者とマスコットキャラクターの目があう。
「おい、ちょっと、こっちのホームランボールにも、てめーのサインを――」
若者が言うのを最後まで聞かずに、マスコットキャラクターは逃走する。
その逃げっぷりのよさに、他のお客さんたちは爆笑した。
次回は「球場ごはん」のお話です。