ビデオ判定中に
プロ野球の試合中に、判定の難しい場面があった。
セーフか、アウトか。得点にかかわる状況だ。
審判は少し迷ってから、「セーフ」を告げる。
が、すぐさま片方のチームから、「ビデオ判定」の要請があった。
両チーム無得点での、九回裏ツーアウト。ここで相手チームに得点が入れば、試合が終わってしまう。
試合の勝敗にかかわることなので、覆せるものなら覆したい。そう考えるのは当然だ。
審判たちが一旦、グラウンドの外に出ていく。これから別室で、「ビデオ判定」を行うのだ。セーフか、アウトか。映像を見ながら判定する。
この時、審判たちは考えていた。もしかしたら、いつもよりも時間がかかるかもしれない。そのくらい際どい場面だ。
審判たちの姿が消えると、バックスクリーンの大画面に、リプレイ映像が流れ始める。
そんな時だった。
グラウンドでいきなり、乱闘が始まったのである。
球場にいるお客さんたちのほとんどが、バックスクリーンに注目している最中だった。なので、乱闘の原因はわからない。
しかし、事実として、両チームの選手たちが殴り合っている。
いつもなら、審判が頃合いを見て、乱闘を止めるのだが・・・・・・。困ったことに、今は不在!
しかも、こんな時に限って、乱闘がエスカレートしていく。グラウンドのあちこちで、両チームの選手たちが入り乱れて戦っている。普段は使わないような、派手なプロレス技を使っていた。
次々と倒れていく選手たち。
仲間の仇を討とうと、他の選手たちはさらに力をこめる。
その上、コーチや監督も、この戦いに加わった。
そんな戦いを目にして、お客さんたちの一部が心の中で叫んだ。
(審判、早く戻ってきてくれー!)
しかし、今回の「ビデオ判定」は時間がかかっているようだ。
乱闘は続く。審判がいないためか、悪役レスラーのような反則攻撃まで飛び出した。
さらに多くの選手たちが倒れていく。
そして、三〇分が経過した。
審判たちがようやく、グラウンドに戻ってくる。
戻ってくるなり、審判たちは唖然とした。
グラウンドのあちこちでは、両チームの選手たちが倒れている。よく見ると、コーチや監督もまざっていた。
審判たちは動揺しながら、互いに顔を見合わせる。自分たちがここにいない間に、いったい何があったのか。
とはいえ、まずは「ビデオ判定」の結果を伝えないと。
選手たちが倒れているグラウンドに向かって、審判の一人が叫んだ。
「アウトー!」
延長戦突入である。
次回は『二つの市にまたがる野球場』というお話です。