社会科見学
プロサッカーチームがまさかの大敗北した。
その知らせに、プロ野球チームの関係者たちはざわつく。
これは衝撃の事実だ。小学生の間で「サッカー」は大人気だと思っていたのに・・・・・・。
しかし、相手次第ではあり得る。
よほど手強い相手とぶつかったに違いない。
「相手は『ブライダルハウス』です!」
「は?」
プロ野球チームの関係者たちは耳を疑う。
「『ブライダルハウス』だと?」
結婚式や結婚披露宴などをサービスする施設だ。
そこにプロサッカーチームが大敗北するなんて、いったい何があったのか。
ことの発端は、子どもたちの習い事の多様化にある。
昨今は、さまざまな習い事を選べるようになった。個性を伸ばしやすい時代だ。
そんな中、『社会科見学』という習い事が登場した。
二週間に一回くらいの頻度で、いろんな工場やアミューズメント施設などを見学する、という習い事である。
毎回、いくつかの見学先から一つを選ぶ方式だ。
そのため、子どもたちの人気が、一つの見学先に集中することも珍しくない。
食べ物関係、おもちゃ関係、ゲーム関係、マンガ関係、動物園や遊園地のバックヤードツアーなどが、特に人気だ。プロサッカーチームなどスポーツ関係も人気がある。
ところが、その日は違ったらしい。
見学先は、『プロサッカーチーム』か『ブライダルハウス』か。
この二択において、子どもたちの人気が『ブライダルハウス』に集中したのだ。
たしかに、女の子たちには人気だろう。
しかし、男の子たちにまで人気だとは・・・・・・。
その習い事で、『プロサッカーチーム』が見学先になるのは三回目。一方で、『ブライダルハウス』は初めてだったらしい。
とはいえ、それでも『プロサッカーチーム』が、子どもたちの人気で、『ブライダルハウス』に負けるとは思えないのだが・・・・・・。
いったい何があったのか。プロ野球チームの関係者たちは首を傾げる。
この『社会科見学』には「おみやげ」がつくことも多く、その内容にかなりの差があったのだろうか?
調査の結果、真相がわかった。
女の子たちに人気。これはわかる。ほとんどの子がすぐに、『ブライダルハウス』を選んだらしい。
それを知った男の子たち、その一部がこう考えた。『プロサッカーチーム』の方に行っても、女の子はほとんどいないが、『ブライダルハウス』の方は逆。
(気になるあの子と仲良くなるには・・・・・・)
しかも、これは『社会科見学』だ。邪な気持ちからではない。自分の視野を広げるためという、正当な理由がある。
だったら、行くしかないだろ。この流れに乗っちゃうのだ。
そんな男の子たちが、他の男の子たちにも声をかける。「一緒に行こうぜ。視野を広げよう」と。
また、女の子たちから男の子たちに対して、「一緒に行こうよ」という誘いもあった。
こうして、男の子たちも『ブライダルハウス』に殺到する。
で、場所が場所だけに、その雰囲気もあって、カップルが何組か誕生したらしい。
「こいつは脅威だぞ」
真相を知って、プロ野球チームの関係者は青ざめた。
実は来月、その『社会科見学』があるのだ。同じ日には、『ブライダルハウス』がいる。最悪の相手とぶつかってしまった。
「何か思い切った手を打たないと」
こうして、連日の会議だ。子どもたちの人気をとるために、自分たちは何をすべきなのか。サービスの強化を急ぐ。
しかし、この時、恐るべき事態が進行していた。
子どもたちが噂し合う。
「『ブライダルハウス』に行ったら、好きな子と付き合えたんだって」
「そういう子、何人もいるらしいよ」
「じゃあ、そっちに行くしかないよね」
女の子たちの間でも、男の子たちの間でも、同じ噂が飛び交っていた。
次回、高校野球でルール改正!?