ダイイングメッセージ
その日の午前中に、プロリーグの選手たちは球場のブルペンで、投手コーチが亡くなっているのを発見した。
すぐに球団スタッフを呼ぶ。さらには警察にも来てもらった。
投手コーチの死因は現在調査中だ。「毒物による死亡」という可能性を、警察は疑っているらしい。
もしそうなら、これは自殺? それとも殺人?
警察が球団関係者に聞き取り調査を行う。
そんな中、若い警官がベテラン警官に尋ねる。
「これって、ダイイングメッセージでしょうか?」
投手コーチの利き手が特殊な形に握られている。
この形、変化球の握りみたいだが・・・・・・。
ベテラン警官はその可能性を調査する。この握りで投げる変化球は何なのか。もしかしたら、これは殺人事件で、その犯人を知らせるダイイングメッセージなのかも。
カーブ、カットボール、シンカー、スライダー、チェンジアップ、ナックル、フォーク・・・・・・。
あらゆる変化球を調べてみるが、どれとも一致しない。
この握り、野球の変化球ではないのか?
これが本当にダイイングメッセージなら、もっとわかりやすくしてくれよ。そう思わなくもない。
結局、この事件は未解決に終わった。
そして、例の握りだが・・・・・・。
「ストライク、バッターアウト!」
打者のバットが空を切る。
このプロリーグでは現在、新たな魔球が席巻していた。
あの投手コーチがしていた握り、それから放たれる変化球だ。
通称『DMB』。「ダイイング・メッセージ・ボール」である。
死の直前に、あの投手コーチは考えた。
――犯人の名前なんか、どうでもいい。
――それよりも、自分がたった今思いついた「魔球」を、後世に残したい!
それで、その「魔球」の握りをしたまま息絶えたのだ。
そして、この投手コーチの思いは結実する。
このプロリーグでは現在、多くの投手が魔球『DMB』を使うようになっていた。
従来の変化球の常識を超えた、史上最も打ちにくい変化球である。
「ストライク、バッターアウト!」
犯人のバットも空を切っていた。
次回は「占い師」のお話です。