私にはお姉ちゃんしかいない
■登場人物
・新城 亞友奈
不幸な女子高生。アトピー性皮膚炎が原因で周囲から避けられている。加えて5年前に両親を交通事故で亡くしている。現在は叔父の家で暮らしているが叔父とその愛人から虐待されている。姉の楓を"お姉ちゃん"と呼び慕っている。
・新城 楓
完全無欠なOL。容姿端麗な上、仕事もできる。会社では出世街道を歩んでいる。妹の亞友奈を"あゆちゃん"と呼び溺愛している。ただ亞友奈に対して何か隠し事をしている。
「お、お姉ちゃん?ちょっと、痛いよ」
私はお姉ちゃんに抱きしめられている。お姉ちゃんの豊満な胸で正直苦しい。
「ごめんなさい。でもあゆちゃんがいけないのよ。あゆちゃんが可愛いから…久しぶりに会えて嬉しい」
お姉ちゃんは一体何を言っているのだろうか。
「お姉ちゃんは変だよ、私が可愛いなんてそんなことある訳ない。そんなこと他の人に言われたことないよ」
「そんなことない。すごく可愛いわ。他の人がどうかなんて関係ないの。世界一可愛いわ。あゆちゃんの全てを愛してる…」
「っつ…」
ストレートに褒められてしまってこそばゆい。だけどやっぱりお姉ちゃんはおかしい。
私の顔は肌荒れしておりガサガサだ。また、身体は関節部や背中など汗が溜まりやすい部分に湿疹がある。最近は落ち着いてきたが、アトピー性皮膚炎だと一目でわかるだろう。皆私のことを気持ち悪いと思うだろうし、私自身ですらそう思う。なのに、何故こんなにもお姉ちゃんは私を気にかけてくれるのだろうか。
「ねえ、お姉ちゃん、どうしてこんなに私に良くしてくれるの?私なんてお姉ちゃんみたいに可愛くもないし美人でもないのに」
お姉ちゃんは私と姉妹とは思えないぐらい容姿端麗だ。肩までかかるサラサラとした黒髪に、パッチリした二重まぶたの瞳。背も高くてスタイルもいい上に、出る所は出ていて女性的な魅力も兼ね備えている。まるで少年漫画の清楚なヒロインみたいだ。でもお姉ちゃんは自分の容姿にはそこまで興味がないようだ。
「あゆちゃん、貴方は私なんかより可愛いわ。いえ、むしろ世界一可愛いわ。それに貴方は私のたった1人の家族ですもの。気にかけるのは当然よ」
「う、うん」
お姉ちゃんの真っ直ぐ過ぎる言葉に私は何て言えばいいか分からなかった。
でも本当はお姉ちゃんに愛してもらって凄く嬉しい。両親が亡くなってから私を必要としてくれるのはお姉ちゃんだけだ。
私にはお姉ちゃんしかいない。
私は高校が終わった後、叔父さんとおばさんの家に帰らずに、一人暮らししているお姉ちゃんの住むマンションに泊まりにきていた。
そしてさっきからずっとお姉ちゃんに抱擁されていた。
「そう言えば、あゆちゃん夜ご飯は食べたからしら?」
しばらくしてお姉ちゃんが聞いてきた。
「えっと、食べたよ」
食欲がなかったので適当にスーパーで買ったおにぎりを食べた。
「それじゃあ、お風呂はもう入ったかしら?」
「え、あ…まだだけど」
「なら入っておいで。その間に布団を敷いておくわ。あと、寝間着はそこに置いておいたからそれを着てね」
「ありがとう」
洗面所に行くとお姉ちゃんが用意してくれたらしい新品のパジャマがあった。縫い目がなく肌に刺激が少ないタイプだ。これ結構いい値段したんじゃないだろうか?お姉ちゃんに感謝しつつ、服を脱ぎシャワーを浴びる。
特に理由はないが、自分用ではなくお姉ちゃんのシャンプーを借りてみる。いつも使っているものより少しだけ甘いお姉ちゃんの香りがした。
身体を洗い終わって温めのお湯に浸かる。
「あゆちゃん、お湯加減大丈夫だった?熱くなかったかしら」
お姉ちゃんが浴室の外から声を掛けてくれる。
「うん、ちょうど良かった。ありがと!」
私はお風呂で歯磨きをしながら答える。
お風呂から出て、リビングに戻ると私の入浴中に敷いたであろう布団の隣に座っているお姉ちゃんがいた。その光景を見てなんだかとてもドキドキしてしまった。
「ふぅ、さっぱりしたぁ」
「そう、よかったわ。私もお風呂入ってくるわね」
「うん」
およそ1時間後、お姉ちゃんが戻ってきた。
お姉ちゃんは私の隣に座って一息つく。リラックスしているのか表情が柔らかくなっている気がする。
「ねぇお姉ちゃん、膝枕して欲しいな」
「あら、甘えん坊さんね。いいわよ、おいで」
お姉ちゃんのふとももに頭を乗せる。お姉ちゃんの匂いが鼻腔をくすぐる。とても落ち着く。
「ねぇお姉ちゃん」
「なぁに?」
「その、耳かきしてくれませんか?」
「ふふっ、良いわよ」
お姉ちゃんは近くにあった救急箱から綿棒を取り出した。
「こっちの耳からやるわね」
「うん」
お姉ちゃんは私の耳をじーっと観察していたが、
やがて綿棒で入口近くの耳の壁を優しくなぞり始める。
「……んっ……」
気持ち良くて思わず声が漏れる。
次第にお姉ちゃんは奥の深い所へ入れてくる。
そしてある一点に当たると心地良い刺激が襲ってくる。
あ、ここ、痒かったんだよね…気持ち良い…
「…そこ、もっと強くして…」
私はお姉ちゃんに言葉足らずながらその地点への攻めの続行を求める。
だけどお姉ちゃんはしばらくすると耳の奥への耳かきを止めてしまう。
「ダメよ、あゆちゃん…耳かきのし過ぎはお耳を傷付けちゃう。あゆちゃん耳垢少ないし、やり過ぎは良くないわ」
「え〜、もっとやって、もっと!」
「めっっ!」
お姉ちゃんは私の我儘を跳ね除けた。
そして、私に少し顔を近づけて真剣な顔で話し始めた。
垂れてきた長い黒髪からは良い匂いがする。
「私はこの世界の何よりも貴方のことが大切なの。貴方を傷付けることなんて出来ないわ。どうか分かって…」
私はお姉ちゃんが普段見せない真剣な顔に少しドキッとした。あぁやっぱりお姉ちゃんは美人だなぁ。
「ん、しょうがないな、お姉ちゃん。分かったよ」
「ふふっ、ありがとうあゆちゃん。じゃあ反対側の耳もやっていくわね」
そうなのだ。結局のところ私はお姉ちゃんに逆らえない。私のことを第一に考えてくれているお姉ちゃんに逆らうことなんて出来ない。いや、したくない。
耳かきが終わった後は2人ともベットに腰掛けてお喋りをしていた。
ふと明日も学校だなぁと思って憂鬱になった。
「お姉ちゃん、私、学校楽しくない……」
「あゆちゃん?」
あ、つい変なこと言っちゃった。
友達がいないとか言ったら絶対お姉ちゃんは心配する。
お姉ちゃんに余計な負担はかけたくない。
「あ、えっと、最近授業についていくのが結構大変なんだ…」
咄嗟に誤魔化した。嘘は言っていない。実際に英語と数学は最近急に難しくなって今度の期末テストが心配だ。
「そうなの……そうだわ!それじゃ今度お姉ちゃんと一緒に勉強しない?」
「いいの?じゃあ、今週の土曜にどうかな?」
「ええ、分かったわ。今週の土曜日ね。前日の夜から泊まりに来る
かしら?」
「あ、えっと、金曜日の夜はちょっと…」
金曜日は叔父さんとおばさんから家事をするよう言われている。
家中の掃除、洗濯、生活必需品の買い出しなどだ。
大変だけど、居候させてもらってる身としてはしょうがない。
「そう…」
お姉ちゃんは残念そうだ。
「ごめんお姉ちゃん。でもありがとう。お姉ちゃんってほんと優しいね。それだけじゃなくて頭良くて美人とか、完璧過ぎるよ。妹の私は全然だけど」
テレビの女優なんかよりずっと美人だと思う。私と同じ姉妹とは思えない程だ。
「そんなことない!!あゆちゃんは可愛くて綺麗で素敵でお姫様みたいよ」
「そ、そこまで言わなくても。でもお世辞でも嬉しいな」
「本心よ。私はあゆちゃんのこと大好きですもの」
「っつ……」
そんなに褒められるとやっぱり照れてしまう。私は俯いて顔を見られないようにした。
「いっそ、結婚を前提とした恋人になりたいわ」
お姉ちゃんまた変な冗談を言ってる。
お姉ちゃんは品行方正だけど、意外とこういう冗談を言うのだ。個人的には女同士、更には姉妹で…その……いやらしいことするなんて意味わかんないけど。というか正直気持ち悪い。
「もう、何言ってるのお姉ちゃん」
私は呆れ顔で言葉を返す。
「あ…えっと…とにかく私が言いたいのはあゆちゃんは世界一可愛いってことよ。あゆちゃんはもっと自信を持って良いのよ」
普通なら揶揄われていると邪推すると思う。でも他でもないお姉ちゃんの言うことだ。お姉ちゃんなら本心から言ってくれていると信じられる。
「ありがとう。嬉しいよ」
「ふふっ」
お姉ちゃんは微笑んでくれた。私はお姉ちゃんの笑顔を見るのが好きなのだ。
その後は、お姉ちゃんが持ってきてくれた本を読んだり、一緒にテレビを見たりと、まったりとした時間を過ごした。
「そろそろ寝ましょうか。明日も学校でしょう?」
「そうだね、お姉ちゃんもお仕事だもんね…おやすみなさい、お姉ちゃん」
「おやすみなさい、あゆちゃん」
電気を消して目を瞑る。しばらくすると睡魔が襲ってきてそのまま眠りについた。
翌日、目が覚めるとお姉ちゃんは既に起きていて朝食を作ってくれていた。
「おはよう」
「あゆちゃん、起きたのね。よく眠れたかしら?」
「うん。ぐっすり寝られたよ」
「それは良かったわ。朝ごはん出来てるけど食べる?」
「食べる!あ、その前に顔洗ってくるね」
「ええ」
お姉ちゃんの作った料理はとても美味しい。ただそれだけではなく、私のアレルギーを考慮した上で身体に影響のないものを作ってくれる。
お腹が空いていたこともありすぐ完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様。食器は私が片付けるわね。あゆちゃんはその間に着替えてきてね」
「ううん、私も手伝うよ」
「あゆちゃんはゆっくりしていて良いのよ?」
「そういう訳にはいかないよ。それに私にも何かさせて欲しいな。お世話になりっぱなしじゃ申し訳ないし」
「わかったわ。それならお願いしようかしら」
二人で並んで洗い物をする。お姉ちゃんと一緒だと何だか安心するなぁ…
朝食の片付けが終わった後、私は歯磨きだけしてリビングのソファに寝転がった。学校へ行く準備をしないといけないのに、体が動かない。めんどくさいなぁ。
「あゆちゃん大丈夫?まだ眠たい?」
「そうじゃないよ、めんどくさいだけ」
「あらあら。じゃあお姉ちゃんが手伝うから早く支度しちゃいましょ?」
「うん」
お姉ちゃんと一緒に登校の準備をする。
私は寝間着と下着を脱いで裸になった。
そして、アトピー用の塗り薬を患部に塗っていく。
基本的に膝や肘などの関節部の症状が酷いが、背中も赤みがある。
背中は薬が上手く塗れないので、お姉ちゃんにやってもらっている。
「あゆちゃん、塗るわよ」
「ん……」
思わず声が漏れる。お姉ちゃんのスベスベな手の平が私のガサガサな背中を優しく這っていく。
私はこの手が大好きだった。
「お姉ちゃん、ありがとう。いつもごめんね」
「気にしないで。私は貴方のお姉ちゃんなんだから」
「うん……」
その後も髪を整えてもらったり制服を用意してもらったり、何から
何までお姉ちゃんに甘えてばかりで自分が情けなくなる。
「はい、これで全部終わったわね。忘れ物はないかしら?」
「多分ないと思う」
鞄の中に教科書などが入っていることを確認してから玄関へ向かう。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
ああ、学校嫌だなぁ。行きたくないよぉ。でもお姉ちゃんがいればどんな辛いことでも耐えられる気がする。
お姉ちゃんの家以外に落ち着く場所はない。
学校も叔父さんとおばさんの家もすごく息苦しい。
小学校と中学校の時は、クラスメイトからバイ菌扱いして揶揄われたり、無視されたりしてイジメられていた。しかし、高校生にもなれば皆イジメをするリスクを理解するのかそういうことは無くなった。ただ遠巻きに気持ち悪がられるだけだ。
昼休み、私は一人で黙々ご飯を食べている。
ちょっと離れたところにいる他の生徒たちがクスクス笑っている。私のことを嘲笑っているのかと思うと胸が痛む。いや、実際は私のことなんて誰も話してないんだろうけど、そう疑心暗鬼してしまう日々だ。
はぁ、最悪だ……もう学校行きたくない……
叔父さんとおばさんの家に帰ると、幸いにも誰もいなかった。そうか、今日は2人とも遅いんだっけ。私は冷蔵庫にあるきゅうりやトマトを適当に出して水で洗う。
それから切らずに丸齧りする。
後は冷凍食品をレンジで温めて食べた。
その後はシャワーを浴びた。お風呂はおばさんに「お前は気持ち悪いから入るな」と言われているので入っていない。
シャワーを浴びてお姉ちゃんからもらった化粧水などを付けてから浴室、洗面所の掃除や洗濯などの家事をする。私は居候として住まわせてもらっている。私にできることと言ったら家事ぐらいしかない。
夜中、家事が全て終わると、もうくたくたなので自室の布団に倒れるように寝転がる。
5年前に両親が交通事故で亡くなった後、私とお姉ちゃんは叔父さんとおばさんに引き取られた。
最初は優しかった2人だったが、4年前にお姉ちゃんが就職して家を出て行ったことを境に態度が豹変した。躾と称して私を虐めるようになったのである。日常的に罵声を浴びせたり身体の目立たない箇所に暴力を振るったりするようになった。たまに家に訪れるお姉ちゃんには気付かれないよう密かに行われている。ずっと耐えてきたけど正直つらい。お姉ちゃんに打ち明けてしまおうかと思ったけどこれ以上心配はかけたくない。叔父さんとおばさんに顔を合わせる時間を減らすなどして自分1人でなんとかしている。
グルグルと考え事をしていると段々と眠くなってきた。
その時、ガチャッと玄関の方から音がした。そして中年の男女の騒がしい声が聞こえてきた。
叔父さんとおばさんの声だと分かった瞬間に意識が覚醒した。
恐らく今日は仕事の後合流して2人何処かで呑んできたのだろう。
こういう時2人は機嫌が悪いことが多い。私は布団の中に潜り息を殺す。
しばらくするとドタバタと足音が私の部屋に近づいてきた。
そして乱暴にドアが開かれる。
「おい亞友奈!起きろ!!」
叔父さんが怒鳴る。
「ちょっとあなた、こんな時間に大声で叫ばないでよ……近所迷惑じゃない」
おばさんが叔父さんを嗜める。
「うるせぇ!おい亞友奈!俺いつも言ってるよなぁ…身体掻いて吹いた粉はちゃんと掃除しておけってさぁ!台所のテーブルがお前の汚ねえ粉で汚れてんだよ」
「は、はい」
「はいじゃねぇんだよ!オラァッッッ!!」
叔父さんが私の腹部を蹴り付ける。痛い。苦しい。吐きそうだ。
「ちょ、ちょっと!!いくらなんでもやりすぎよ!あまり目立つ所にやらないでよね」
おばさんが止めに入るが叔父さんの怒りは収まらない。
「うるせえ!こいつはなぁ、この家にとって疫病神なんだぞ!こいつが来てからろくなことが起きねえ」
「それは言い過ぎじゃないかしら。この子は気持ち悪いけど、家事をやらせる分にはそこそこ役に立つわ」
「はは、ちげえねえ!」
2人はゲラゲラと下品に笑う。
「でも本当楓ちゃんが出ていっちゃったのは残念だわ」
「お前まだ言ってんのかよ」
楓というのはお姉ちゃんのことだ。
「だって楓ちゃんってばこの子と本当に姉妹とは思えないぐらい気立ての良い子だったもの」
「あーそうだな。あいつ可愛いし胸でかいよな」
「もー止めてよ、そういう目で見るの。一応親なのよ。あ、そう言えば、楓ちゃんに幾つか金持ちの御曹司との縁談用意してるの。あの子を上手く使えば玉の輿を手に入れることもできるわよ」
「なるほど」
2人がそんな下衆なことを話している間、私は身体を踏まれ続けていた。
しかし、しばらくすると私というオモチャに飽きたらしい。
「まぁ今日はこの辺で勘弁してやるわ。おい台所のテーブル掃除しとけよ」
「……」
「返事しろよ!」
「はい……申し訳ございませんでした……」
叔父さんとおばさんが去っていった後、私は部屋の隅で体育座りをして震えていた。身体中が痛くて泣きたい気分だった。
お姉ちゃんに会いたい……でもさっき叔父さんに付けられた痣を見られたらお姉ちゃんが心配するかもしれない。お姉ちゃんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。この痣が治るまでお姉ちゃんには会えない。私はお姉ちゃんから渡されたスマホのメッセージアプリを開いて、今度の土曜日お姉ちゃんの家へ行くことが出来なくなった旨を伝えた。
1週間後、そろそろ身体の痣が治ったのでお姉ちゃんの住むマンションへ行った。いつもは行く前に連絡を入れるが、今回はしなかった。
玄関でインターホンを鳴らすが反応がない。
どうやらお姉ちゃんは居ないようだが、合鍵があるので問題ない。
「お邪魔します」
お姉ちゃんの家に上がった。
とりあえずお姉ちゃんのベッドに横になってみた。いい匂いがする。お姉ちゃんの残り香だろうか。お姉ちゃんに包まれているような感覚になる。
時計を見ると、ちょうど18時だった。多分お姉ちゃんが帰ってくるにはまだ時間がある。いつも通り整頓された机にPCがポツンと置いてある。魔が差したのだろう。このとき私はお姉ちゃんの秘密を暴いてしまった。
「お姉ちゃんのPCなんか怪しいな。パスワードかかってるし。私の誕生日だったりして?えいっ!……え、うそ、開いちゃった」
デスクトップの壁紙は私の写真だった。お姉ちゃんは私を愛してくれているんだ。そう思うと嬉しかった。でもこんな写真撮ってもらったことあったっけ?
デスクトップに置いてあるフォルダを開くと私の画像がたくさんあった。お風呂に入っているところ、寝ている姿、料理をしているところ。お姉ちゃんはいつこの写真を撮ったんだろう?私は少し背筋が寒くなった。
ふと「案件」と書かれた仕事関連らしきフォルダが目に止まった。そのフォルダの中をどんどん開いていくと「AyuChan.txt」というファイルがあった。
これは見てはいけないと思いつつも好奇心を抑えきれずに私はそのテキストファイルを開いた。
-----------------------------------------------------------------------------------
・202x年1月15日
今日は久しぶりにあゆちゃんがお泊まりに来てくれた。
しかしここで1つ問題が発生。私の弱点である、雷が怖くて1人で寝られない、ということがついにあゆちゃんにバレてしまったのだ。
しかしあゆちゃんは優しいので『仕方ないねー』と言ってくれたのだ!しかも私のお願い(雷の夜は一緒に寝よ?)も聞いてくれると言うので今から期待でいっぱいなのだ!! だが、下心を知られてあゆちゃんに嫌われたくはない私は、あくまであゆちゃんの好意を享受しているだけであると言い聞かせている。
って、ふと気がつくとあゆちゃんが私の部屋にいるではないか!? まさかこれは夢ではないのか? ああっ♡可愛い♡可愛すぎるぞぉおおおおおおおっ♡
うむ、やはりあゆちゃんは世界一可愛いな!!!
・202x年2月3日
あゆちゃんを家に呼んで2人で節分をしたのだが、鬼は私が引き受けた。鬼の面を被り、角までつけてみたのだが、あゆちゃんは私に豆を投げることは出来ないと言った。優しい♪
そして夜になった。今夜も二人でベッドに入ったのだがあゆちゃんがなかなか寝ようとしない。どうやらまだ遊び足りないらしいのだ! なんということだ!これでは朝になってしまうじゃないか!
だが仕方ないので少し遊ぶことにした。
すると突然あゆちゃんがこんなことを言ってきたのだ!
「えへへ……わたしね、やっぱりお姉ちゃんのことが好き」
そう言って私に抱きついてきた。
私は一体何をしたらいいんだああ!!! いやまあ薄々分かっていたさ。いつかはこういう時が来るってことは。だけどいざ来てみると頭が混乱して全く冷静になれない!! はわわわわっ。
私はこの感情に何と名前をつければ良いか分からなかった……ただひとつ言えることは「大好き」だということだ。
もう何も考えられない。ただひたすらに愛しいだけだ。
・202x年2月4日
昨晩、私は遂に一線を超えてしまった。正直、あの時の記憶はあまり無いのだが、朝起きた時は隣であゆちゃんがスヤスヤ眠っていたのを見て全てを思い出したのである。
ああっ……!なんだい全て夢かいな!
・202x年6月11日
今日は雨だったので二人とも家にいた。特に何かするわけでもなくゴロゴロしていたが、たまに目が合うとお互い微笑み合っていた気がする。あ〜幸せだぁ〜♡
だが同時に不安でもあった。いつかあゆちゃんに彼氏が出来たら私から離れていってしまうのではないかと。そんなことを考えると途端に悲しくなってきたのである。だから勇気を出してあゆちゃんに直接聞いてみた。するとあゆちゃんも同じことを考えていたらしい。安心したのと同時に嬉しさがこみ上げてきて泣きそうになった。でもなんとか堪えることができたのはきっと私たちが血を分け合ったかけがえのない存在なのだから!!
・202x年8月7日
最近あゆちゃんの態度がおかしいのである。どこかよそよそしいというか冷たい感じを受けるのである。理由を聞くと何でもないとしか言わないのである。もしかしたら彼氏が出来たのかもしれない。
許せない、絶対に!!!
(以降しばらくは怒りに満ち溢れている様子が続く)
彼氏についてしつこくあゆちゃんに質問責めをしていたら、
「お姉ちゃんのバカっ!!」
とあゆちゃんに言われた。
これはどういうことだ?なぜあゆちゃんは急に怒ってしまったのだろうか?まさか私に内緒で彼氏ができたのではないのか!?くそぅ!羨ましいぃ!妬ましいぃ!悔しいぃ!
だが、ここで諦める訳にはいかない!!あゆちゃんの1番は私に決まっている。誰にも渡すものか! あゆちゃんのことが好きな人は私だけで良いんだ!!
202x年9月7日 追記
あゆちゃん彼氏出来た疑惑は私の勘違いだった。だが私はこのままではあゆちゃんを手に入れることは出来ないと悟った。どうすればいいんだ。そうだ、あゆちゃんには私しかいない、という状況を作ればいいんだ。あゆちゃんを徹底的に孤立させよう。そうしてもっと私に依存させるんだ。
・202x年10月24日
またもや私はあゆちゃんのことで悩んでいた。
あゆちゃんは本当に可愛いなぁ。抱きしめたいよぉ。あーゆうことやそーゆうことしたい!
あゆちゃんは私の大切な妹なのにどうしてこんなにも好きになってしまうのだろうか?
それは私たちがまだ小学生のころの話である。
ちなみに私が小学校高学年で、あゆちゃんが小学校低学年だった。
その頃のあゆちゃんは元気一杯でとても明るく活発な子で誰からも好かれており、誰よりも優しく思いやりがあるとても素晴らしい女の子だったのだ。勿論今も可愛いけど。逆に、私はと言うとあまり人と関わることをせずいつも一人でいることが多かった。友達が居ないどころか、むしろクラスの皆から嫌われているのでは?と思っていた。だがあゆちゃんだけは私に対して優しく接してくれたので、それが私の心の支えとなっていたのである。あゆちゃんのおかげで今の私が居ると言っても過言ではないだろう。あゆちゃんが居なかったら今頃どうなっていたか想像するだけでも恐ろしい。
・202x年11月11日
どうにかしてあゆちゃんのおっぱいに触れることは出来ないものだろうか?揉むにしても舐めるにしてもある意味犯罪なのである。となれば後はさりげなく触るしか方法は無いだろう。しかしそう簡単にはいかないのが現状である。何せ相手は自分の妹なのだから。
まず第一の問題としてどうやってバレずにやるかという点である。あゆちゃんはとても勘が良い。下手に行動すればすぐに感づかれてしまうこと間違いなしである。第二の問題としてはそもそもガッツリ触れる程おっぱいがでかいのかという問題である。私の見立てではA〜Bの間だと思っている。
まぁあくまでも私の目測なのだが。
だがそんなこと関係ない。あゆちゃんのおっぱいであれば例え何であっても構わない。だが実際に聞いてみないことには分からないこともある。ここは勇気を出してみるべきであろう。
「ねぇあゆちゃん」
「なにー?」
「あゆちゃんって、最近身体大きくなったよね」
「そうかな?」
「となると新しい下着そろそろ必要じゃない?」
「えっ?あ、そうかも。ちょっと胸がキツくって」
ここで私はさりげなく聞いた。
「そうなんだ。今のバストサイズは?」
「Cだよ」
なん……だと……?
・202x年12月13日
あゆちゃんが私の家に遊びに来てくれた。
久しぶりにあゆちゃん成分を摂取できました!嬉しい!
つい欲望を抑えきれなくなりそうだったけど、なんとかいつも通り「頼れるお姉ちゃん」を演じ切ることが出来て本当によかった。
ちなみに姉妹近親相姦モノのいやらしい本は全て隠し済みである。もちろん机の上には置いてないしベッドの下に置いてあったはずのものも全て片付けている。
念のため確認しておく必要があるがおそらく大丈夫だろう。
あゆちゃんは私と一緒に居るときとても無防備だ。今日も屈んだ時に胸が何度も見えてた。それに気づいたときは流石に理性が飛んでしまいそうになった。だけどそこはぐっと堪えて平静を保ったまま対応できた。
あゆちゃん、最近は特に人間関係が上手くいって無いみたいね。
学校には友達がいない。いえ、あの感じだと無視されてイジメられてるわね。
さらに叔父さんとおばさんの家ではまるで奴隷扱いね。この前家に寄ったときカメラを回収したけどなかなか良い表情してたわ、あゆちゃん。
この様子なら私に身も心も堕ちるのは時間の問題だわ。
あゆちゃんを手に入れたら週8でエッチしましょうかね。
毎日一緒に寝たり、お風呂入ったり、お出かけしたり、買い物行ったり、あゆちゃんと二人っきりで色々したい。お泊まりとかしたら夜通しずっとおしゃべりしましょ。あゆちゃんはどんな声で喘ぐんでしょう?考えるだけでゾクゾクする。
でも今は我慢よ楓!!もう少しの辛抱だから!!
-----------------------------------------------------------------------------------
怪文書を見て私は気持ち悪くなった。そして恐ろしくもなった。お姉ちゃんが私のことを性的に好きなんて知らなかったし、こんなにも歪んだ想いを抱いていたなんて知りたくなかった。
でも一番ショックだったのは、12月13日の記述。
私が叔父さんとおばさんやクラスメイトから虐げられていることを知っていて放置していたことだ。いや、むしろ自分の目的の為に利用しているのか……お姉ちゃんがそんな利己的な人だとは思わなかった。お姉ちゃんは私の理想の人でいつも優しかった……
と、私が勝手に思い込んでいただけだったのだ。
「お姉ちゃんはそんな人じゃ…………私を大事に想ってくれてる…ううぅ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああううぅ…」
急に身体中が酷い痒みに襲われた。痒みは掻いても掻いても収まらなかった。掻きむしり過ぎて皮膚が血だらけになったところでようやく痒みが落ち着いてきた。しかし、その後吐き気がして、慌てて化粧室へ向かった。涙も止まらなかった。お姉ちゃんの秘密を知ったことが悲しかったのか。それともお姉ちゃんに対して恐怖を感じたからなのか。それはわからないけどとにかく私は泣いた。泣き続けた。いつの間にか気を失っていたようだ。起きた時には既に外は真っ暗だった。スマホを確認するとお姉ちゃんからメッセージが届いていた。連絡を無視していると電話が来た。電話に出る勇気はなかった。お姉ちゃんと話したいという気持ちもあったが、今は話せる状態ではなかった。いつもの習慣で部屋をきれいに掃除した後、再度気絶する様に眠りに落ちた。
物音がして目が覚めると、PCの前にお姉ちゃんが立っていた。
「え……あゆちゃん……まさか……」
ディスプレイを見るお姉ちゃんの顔がみるみると青ざめていった。
「あ、あゆちゃん、ち、違うの!これは……その……」
お姉ちゃんは何か言い訳しようとしているが、言葉が出て来ない様子だ。
「お姉ちゃん、何かの間違いだよね?」
「えっと…これは何というか…何て書いてあった…?」
お姉ちゃんは探りを入れてきた。
「最初の方はお姉ちゃんと私の日々が綴ってあった。恥ずかしいけど嬉しかったよ」
「あゆちゃん…」
「でも途中から色々とおかしいことばかり書いてあった。妹を性的に好きなんて歪んでるよ!」
「そんな…私のこの気持ちはおかしくなんてないわ。私は貴方のことを本当に想ってるの」
「だったら!」
私は思わず叫んだ。
「私が叔父さんとおばさんに虐待されたり、学校で無視されてるの知ってたのに……どうして助けてくれなかったの!?」
「そ、それは…」
お姉ちゃんは言い淀む。
「日記に書いてあったけど、私が苦しんでお姉ちゃんに依存する方が都合がよかったんだよね?」
「ち、違うのよあゆちゃん?私はあゆちゃんのことを…」
そう言いながらお姉ちゃんがジリジリと近づいてくる。
「来るなぁっっ!」
瞬間、お姉ちゃんを突き飛ばし逃げる。
「あゆちゃん!?どこ行くの!」
お姉ちゃんが必死に私を引き留める。しかし私は振り切って家を飛び出した。後ろを振り返ることなくひたすら走り続けた。しばらくすると疲れて走れなくなったので一度立ち止まった。お姉ちゃんに見つかる前に急いで帰ろうと思い振り返ると鬼の形相で追いかけてくるお姉ちゃんが居た。
「どうして追いかけてくるの!?」
「あゆちゃんが逃げるからだもん!!」
お姉ちゃんは私に追いつき抱きついてきた。私は全力で抵抗したが、お姉ちゃんの力には敵わず抱きしめられてしまった。そしてそのまま路地裏に連れ込まれた。
「あゆちゃん、ごめんなさい。私が間違ってたわ。本当にごめんなさい……」
お姉ちゃんは私を抱き締めながらそう呟くと、そのまま私の唇を奪った。
「んっ、お姉ちゃん、止めてよ!!」
「嫌!!あゆちゃん、愛してるわ」
お姉ちゃんは再びキスしてきた。そしてそのまま私を押し倒した。
「お姉ちゃんやめてよ!しかもこんな場所で!」
と私は言うが、お姉ちゃんは聞く耳を持たず、私を押さえつけて再びキスをした。そして舌まで入れてきた。
「んぅー!おねえひゃん、いはいっへ(痛いって)!」
私は力いっぱい暴れたが、全く効かなかった。
「ああぁ、あゆちゃんの体やっぱり綺麗ね。それに可愛い。ずっと前からこうしたかったの」
お姉ちゃんは私に覆い被さり胸を揉み始めた。
「やめろぉ!!この変態!!!」
私は持てる力を振り絞って左ストレートをお姉ちゃんの顔面に食らわせた。
「ぐふぁ!!」
お姉ちゃんは勢いよく吹き飛んだ。鼻血が出ていた。
「あ、あゆちゃん、どうして殴るの?私、貴方のお姉ちゃんよ?」
お姉ちゃんは起き上がってこちらに歩いてきた。
「近寄るな!来ないで!!もうお前は私の姉じゃない!!今日限りで絶縁だからな!!」
かつてお姉ちゃんだった人間に向かって叫んだ。そして私は走って逃げた。背後から叫び声が聞こえてきたが、私は振り返らなかった。
◆
高校卒業後、私は叔父さんとおばさんの家を出ました。そして地元中小企業の事務員として働き始めました。現在は2年目です。給料は安いし上司は厳しいし業務は多いけど、日々自分の出来ることが増えていってやりがいを感じられる職場です。同僚とも無難に付き合えています。最近は友人も出来てきました。でもまだ親友と呼べる人は居ません。皆良い人たちなのですがどこか距離を感じるのです。
そんな良くも悪くもない感じですが、成人してからはアトピーの方も大分落ち着いてきて、空いている時間を身体のケア以外に回せるようになりました。やっと私の人生が始まったのです。
あと、最近彼氏が出来たんです。ゲームセンターで知り合った5歳年上の方で、とてもかっこいいです。
私が色々プレゼントしたら、いつもありがとうと言ってくれて凄く優しい人なんですよ。彼と付き合ってまだ2ヶ月程しか経っていないのでデートは数えるほどしかしていないのだけど、彼は会う度に私に愛してると言ってくれます。私も彼を心の底から愛しているつもりです。
ただ一つ気になることがあります。それはここ最近彼の態度が少し冷たい気がすることです。他の女性と連絡を取っているのではないかと疑ってしまいます。
私の思い過ごしかもしれないけど不安は拭えません。
やっぱりスキンシップが足りないのでしょうか?
恥ずかしくてまだ手を繋ぐ程度しかしていません。彼の方から色々……キ、キス…とかして来てくれるのを待っているのですが、女だからと言って今時そんな受け身の態度じゃダメですよね?
よし、次のデートは頑張って積極的に行動しよう!出来る限り…
そんな決意を固めた私でした。
ある日のこと、お風呂から出た後スマホを確認すると、彼からメッセージが届いていました。
会って話をしたい、とのことだったのでこんな夜更けになんだろうと不思議に思いながらも会いに行きました。待ち合わせ場所は近所の小さな公園で、その中にあるベンチに彼が座っていました。
「ごめんなさい、遅くなって」
「あ、うん。いきなりだけど実は俺さ、今ちょっとピンチなんだよね……」
深刻な顔で話す彼に私は困惑しました。
「一体どうしたの?何があったのかちゃんと話して?」
彼は私に全てを打ち明けてくれました。
どうやら彼の母親が癌になってしまったらしいのです。治療費がかなりかかるらしく、お金が必要とのことでした。
なんとかかき集めたが、あと150万円程足りないようでした。
私はまだ社会人になったばかりですが幸いにも高校時代にバイトで貯めていた分もあったので、150万円はなんとか持っていました。そのお金を彼の口座へ振り込みました。彼はすごく喜んでくれました。母親の様子が良くなったら私を紹介したいと言ってくれました。
私が彼に150万円を振り込んだ後、彼との連絡がつかなくなりました。心配になって何度か電話をかけたりメッセージを送ったりしたのですが、なしのつぶてです。何かあったのではないかと思うと気が気ではありません。
1週間後、私の住むマンションの一室に黒いスーツを纏った強面の男性が複数人で訪れました。
「突然悪いね。お前さん〇〇の彼女?」
「そうですが、何でしょうか……?」
何か嫌な予感がしました。
「アイツ、ウチに金を返さないまま急に蒸発しやがったんだわ。で、お前さんはアイツの連帯保証人になってんだけどよォ、だからさぁお前さん払ってくれね?全部で550万と3千円ね」
「え、そんな!確かに彼の連帯保証人にはなりましたけど、そんなに借金があるなんて聞いて…」
や、やっぱりそうだったんだ…気付かないフリをしてたけど、私はただの金蔓だったんだ。そして、用がなくなったら借金を押しつけてポイ捨てか…
「しらばっくれんじゃねぇぞ!こっちはテメェの名前が書かれた借用書もあるんだよ!!とにかくよぉ、とりあえずウチの事務所で話しすんぞ?」
と胸ぐらを掴まれて脅されました。怖くて震えることしかできません。するとその時。
「貴方たち。その子から離れなさい」
お姉ちゃんが現れました。
「あぁん?誰だよアンタ?」
「新城 楓、彼女の姉です」
「そうかい。じゃあさっさとコイツに彼氏の借金返すよう言ってくれないかな」
と強面な人たちに凄まれてもお姉ちゃんは全く怯みません。むしろ冷静そのものです。
「ではこうしましょう。私が代わりにその借金を今すぐ払うから、彼女を連れて行くのを止めなさい。そして金輪際私たちに関わらないで下さい」
「へぇ、お前が代わりに払うだと?それ本当か?」
「もちろんです。私は有言実行する女です。ほら、これでいいでしょう?」
お姉ちゃんはバッグから札束の入った厚い封筒取り出し男性に投げました。
「あ、ああ。金を回収できれば俺たちは何でもいい」
彼らは札束を数えてお姉ちゃんといくつか書類のやりとりをした後、すぐに去っていきました。
その後、お姉ちゃんは私に向かって
「良かった、何もされてないみたいね。もう大丈夫だから。私はずっとあゆちゃんのことを見守ってるからね……じゃあね」
と言って立ち去ろうとしました。
「どうして…なんで、私なんか助けてくれたの!?あの時お姉ちゃんにひどいこと言ったのにっ……」
私は思わずお姉ちゃんに向かって声を上げました。そうです。私は心の片隅でずっと後悔していました。あのとき、「もうお前は私の姉じゃない」と言ったのはいくらなんでも言い過ぎでした。
「だってあゆちゃんは私の妹なんだもの」
お姉ちゃんは振り向いて、優しい表情を浮かべながら言いました。
それからこう付け加えました。
「今更許してほしいとは言わないけど、貴方が叔父さんとおばさんや学校のクラスメイトたちからずっとずっと苦しめられていたのに、守らなくてごめんなさい…」
お姉ちゃんはそう言い残して立ち去って行きます。
私はお姉ちゃんの背中へ、「ありがとう」と言いました。
とめどなく溢れる涙が止まるには少し時間が掛かりました。
数日後、ニュースで元彼の名前を見かけました。彼は結婚詐欺の常習犯のようでした。私は彼を恨んではいませんでした。ただ虚しかった、それだけです。
結局、私は誰かに愛してもらいたかっただけでした。
ただ、そんな自己中心的な気持ちでは何も掴めませんでした。
約550万を建て替えてもらった件について、返済スケジュールを相談するためにお姉ちゃんに会いに行くことにしました。お姉ちゃんは返さなくていいと言いそうだけどそれでは私の気が収まりません。少し勇気が必要でしたが、決意してお姉ちゃんの家へ向かいました。
新築の大きな一軒家の玄関前にて何度も深呼吸をして、呼び鈴を押します。そして、「お姉ちゃん、亞友奈です」と言いました。
すると呼び鈴から「いらっしゃい。玄関は開いてるからね」という声が聞こえました。中に入ると生活感が乏しいながらも手入れの行き届いたお洒落な空間が広がっていました。リビングにはテレビとソファ、机があって、ご飯を食べる場所らしきテーブルの上に2人分の料理がラップが掛けられて並んでいました。
キッチンの方ではお姉ちゃんが背中を向けて立っていて鍋をかき混ぜていました。
私は後ろに立って口を開きました。
「ねぇお姉ちゃん。お話があるの」
「何かしら?」
お姉ちゃんは食事の準備を中断して、くるりと振り返りました。
「あの時のこと、ううん、今までずっと愛してくれて本当に感謝しています。だから……あのね。私をお姉ちゃんの彼女にしてくれませんか?……私にはお姉ちゃんしかいない…の」
私は一体何を言っているのか。私は自分で自分に驚き呆れました。
550万をどう返済するか話に来たのに。
お姉ちゃんも驚いたような顔をした後に、
「あゆちゃん、それ本気で言ってるの?」と訊きました。
私はもうどうにでもなれと、勢いこくりと首肯します。
「嬉しい。こんなにあゆちゃんが積極的になってくれるなんて思わなかった。うん。付き合おう?」
お姉ちゃんは少し息を荒くしながら私に迫ってきました。
お姉ちゃんの手が私の肩に触れたとき
「やめっっ!」
私は咄嵯に抵抗してしまいました。
私は恐怖心から涙を流し始めました。その様子を見かねたお姉ちゃんは、
「ごめんね、分かってたわ。あゆちゃんが同情で言ってくれただけなのは。だけど私はそれでも構わないわ。むしろ嬉しかった。あゆちゃんが私のこと想ってくれて」と言いました。
「うぅ……ぐすん……」
私は嗚咽することしかできませんでした。お姉ちゃんの言うことは当たっているのです。確かにお姉ちゃんのことがやっぱり今も大好きですが、それは恋愛的な感情ではありません。私がみっともなく泣いていると、お姉ちゃんは言いました。
「大丈夫。安心して?今まで通りあゆちゃんの姉でいさせて?それがお互いにとって一番幸せだと思うの」
お姉ちゃんの悲しみを堪えた笑顔を見て、私の中で何かが吹っ切れました。
ああ、こんなにも私のことを想ってくれる人はこの人以外に居ない。私を受け入れてくれるのはこの人だけなのだと思いました。
「あの、少しだけなら恋人らしいこともしても…いいよ?…正直お姉ちゃんのことを恋愛対象としては見れないけど、お姉ちゃんのこと愛してるから、出来る限り応えたい」
私が俯きながらそう言ったら、お姉ちゃんは
「え、本当に……?」
と少し戸惑っていました。
「うん、だからお姉ちゃんのしたいこと、教えて下さい」
私が言うとお姉ちゃんは頬に手を当てながら恥ずかしそうな様子を見せました。
「名前で呼び合いたいなぁって思うのだけれど……どうかしら?」
お姉ちゃんが照れくさそうに言います。私は微笑んで
「分かったよ。楓」
と言いました。
「ありがとう、亞友奈」
楓は嬉しそうな表情で私の名前を呼びました。
こうして私たちは一応恋人同士になったのです。




