向こう見ずな彼女
こんばんは。
小説書くのが楽しいです。
学生の頃は漫画も描きました。青年期は写実的な絵画も描いて、独立美術で美術館に絵を展示してもらったこともあります。
それなのに今は、その全てがまぁまぁ面倒で、やはり手っ取り早く言葉を伝えられる文章を書くことにハマっております。
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正直、この時サナレスには日本文化や経済社会を知る手段は、本とテレビのニュース以外、何ほどの情報量もなかった。だから、自分が内在している塔子という魂が経験する全てに、驚きと矛盾を感じてしまう。
え。ここ!?
こんなところで?
東京で橙子が住む場所は、サナレスが常に使っていた執務用のデスクスペースほどもない小さな部屋だった。ワンDKというらしいが、おかしなことにトイレと風呂がくっついて、申し訳程度の調理場があった。
こんな小さなスペースに、用途の違う場を無茶苦茶に圧縮していいものかと考えてしまう。玄関なんて猫の額ほどのスペースしかないし、まず、廊下がないことにサナレスは驚いた。
『あんたさぁ、親に見せてここに住むって説明していた部屋と、違ってないか?』
安全性を考慮したオートロックシステムってのがあるはずだった。女性が1人でも安心なマンションの一室、そんな部屋だと橙子が彼女の両親に説明していたことは、サナレスの記憶に新しい。
ボロボロできしむ扉を閉めながら、橙子は自分の荷物を玄関に下ろした。
「バカね、あんな高額な物件に住んだら、東京でなんで生きていけないわよ。物価も高いし、学びたいことだっていっぱいあるんだからね」
『時間は有限』
「お金も有限」
だから知性こそが、人を豊かにする道を開く。
「毎月払わなければならない家賃は安いに越したことはないでしょう?」
『それはそうだが……、お前は女で、こんなでいいのか!?』
「そんな心配してくれるなら、何か物騒なことがあったら入れ替わってくれない? サナレス貴方は男なんだから、なんでも対処できるでしょ?」
橙子という女は、幼少期から把握しているけれど、人づかいが荒い。
『なんかあった時に、守れるかどうかなんてわからないから、心配しているのだ』
今の自分にできることと言ったら、せいぜい神の加護を与えるぐらいのことだろうか。
「神の加護って何よ。ーー頼りないわねぇ」
と橙子は笑って、少ない荷物を整理していった。
元々若い女性にしては洒落っ気がない彼女だった。
洋服は五着程度、下着もそれくらい。靴はたった2足だ。
「少ない方が、早く片付いていいわよ」
彼女は笑った。実に合理的だがーー。
『それでいいの?』
そんなんでいいのかという疑問に、彼女は大きく首肯した。
「いいの、やっと自由を手に入れたのよ。プレゼントとばかりに、身の回りに押し付けられたもの、ーーせっかく自由になったのに、不用品を側に置いておきたくないわ」
溌剌とした言葉に、サナレスは自分がなぜ彼女の元に生まれ変わったのか、全てを方程式のように理解してしまった。
人の暮らしは、どんなに安定していても、自由がなければ窮屈なんだ。
橙子の家は和歌山でもおそらくそこそこの名家だったと思う。だからサナレスが暮らしても、そう狭苦しいとは思わずに、庶民とはこんなものだと納得した。
でも彼女はそれを手放して、閉鎖された田舎を出て、東京という都心に出てきた。住まう場所は一変して閉鎖空間になってしまったが、そこは寝泊まりできればいい場所だと割り切っているらしい。
『家賃は?』
「五万円ちょっと」
『この物件には高いよな』
「アクセスはいいからね。時間は大事よ。駅近で進学先にアクセスが良くて、最低賃金を選んでる」
こいつ、女ということを差し引けば、合理的で実に頭が良かった。
サナレスが割と橙子という女性を認め始めた頃だった。
彼女はサナレスに突拍子もないことを言った。
「明日からホステスのバイトも始めるし、順調に夢への資金を貯められるよっ♪」
語尾に音符マークを聞き取って、サナレスは耳を疑った。
ホステスだって!!?
それってこっちの妓楼ってことだよな。
以前いた世界の基準でしか考えられないサナレスは、目を白黒させる。
この世のことわりについては、橙子を通じて学んできたが、ホステスが女を売る場所だというぐらい把握していたので、これには渋面になってしまった。
「心配しないで、体を売るんじゃないの。女を売るだけだから」
橙子の無邪気さが心配で、サナレスは頭を抱えた。
それって女が体を売らないと思ってても、男に理性がなかったら危ないことには違いがないんだよ……。ホステスの同伴なんて、もう……、撒き餌でしかない。
『ーーそこまでして、君って子はいったい何をしたい?』
大学への学費は親が側近で用意した。オートロックですむマンションと食費の仕送りだって不自由ない。この世界では田舎娘だが、いいとこの出ってやつだ。
「言ったでしょ? 私は自由に行きたいの。和歌山とか、田舎は嫌い。世界でどこが、私が一番住みたい場所なのか探したいし、旅したい。だから飛行機に乗るための勉強をする」
『ーー数学、苦手なのに?』
思わずつっこんでしまった。
この娘、全然理数科系の脳がない。
「数学、苦手でもね!飛べるし。 キャビンアテンダントっていう職業もあるんだからねっ!」
橙子はぷいと横を向いた。
「それに数学の素養がないとか言われても、それってサナレス、貴方と比べてでしょ? 私、高校の数学はそれなりに成績良かったんだから、そこまでこき下ろさなくてもいいと思うのだけれど……」
素養ないよ。
サナレスのジャッジは手厳しかった。でも喉元まで出た言葉は今は飲み込む。
「今からバイトの面接だからね」
え?
「だからホステスの面接なんだってば」
たかだか彼女の意識の中に生まれ変わったサナレスには、どうすることもできないことだ。
向こう見ずな彼女の意思に逆らう力はなく、選択肢はないので、サナレスは何も言わずに付き従った。
更新頻度は、書くのが好きなので高いです。
あと、読み手の気持ちとかも大事にします。
独りよがりの小説にはならないよう配慮する気持ちもあります。
ご理解、ご支援いただける方、お付き合いよろしくお願いします。
ちなみに相互フォロー的なことはしません。
読みたいんですけどね。読む時間ないです。
あと私は、奇人変人、天才と名を残した方々の歴史本を常に読んでいたいです。




