表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/50

足元を見たとき

こんばんは。

完結に向かっておりますが、まだ少し書き足りないこともあり。


書きたいまま、本章は終わりを迎えます。

いつも終わりに向けて、勢いつくのですが、今回はそんな感じではないようです。


お付き合い頂いている方、評価や感想、誠に感謝!

書きたいことを書いていたい。

そんなお年頃ですので、感謝はひとしお!


       ※


 橙子はサナレスが去った現実世界で、したり顔でクロ・リュセ城に背を向けた。

 今頃あっちの世界で悔しがっているサナレスの姿が目に浮かぶようだった。彼と別れた寂しさを紛らしてくれるのならそれでいい。違う高揚感が増してきていた。

 別れても、別れていない。


 サナレスが今言いたそうな言葉が想像できて、身近に感じる。

 それが楽しい。

 それが寂しさを紛らわす最善の手段だった。


『誰が、ママはリンフィーナだって……!?』

 誰がーー。

 きっとサナレスは怒っていると思った。


 感情が動く時、おそらくはそれに関する記憶が、サナレスの中に刻み込まれる。

 

 サナレスは100歳を超える神だった。

 これからあと何百年生きるとも知れない神様なのだ。

 いくら天才と言われるサナレスだって、これから後何百年、下手すれば一千年の月日を生きた時に、彼がたまたま転生し、その先で橙子と暮らした時間など、とるに足らないものになってしまうかも知れない。


 だったら、サナレスの記憶に、いかに自分を定着させられるかは、橙子にとっては勝負だった。


 ムーブルージェという女が、サナレスの青年期を彩るように、一夜を共にして死んだように。橙子だって転生したサナレスの時間を、自分と過ごした時間として鮮烈に刻みたいと思ってしまった。


 子供だった橙子は、素直に彼に迫ることなんてできなかったけれど。

 大人になってサナレスの見た目を初めて見ることになったので、子供の橙子にはサナレスの存在なんて、ずっと想像でしかなかったのだけれど。


 夕日を見ながら、橙子はダ・ビンチが愛した街並みを見下ろし、降る坂道を歩いていた。


 振り返ると、自分の影は、サナレスと別れたクロ・リュセ城に未練がましく伸びている。


 でも袂を分った。

 もうサナレスは橙子と一緒にいない。


 噛み締める思いは、引き結んだ口元の横を、そっと頬を伝って落ちていく。

 振り返らないでおこうと思った。


 人に交わることを苦手とした橙子の側には、ずっとサナレスがいた。

 幼子の時は、ずっと抱きしめて眠る人形のように(布団の一端のように)、肌身離さず側に置いて、一緒に眠ると安心できた。


 物心ついた時は、一定の距離を置いて、自我を目覚めさせた上で一緒にいた。

 思春期になった頃は、心配させたくて、異性と自分の交友関係を自己主張したものだ。


 でも、誰にも代えることができない存在のサナレスと、さっき橙子は別れたのだ。


 一度涙腺が決壊すると、それは元に戻らなかった。

『誰がママはリンフィーナだって!?』

 少し眉間に皺をよせ、吐息混じりに行ってくるサナレスを想像する。

 別れた今も、鮮やかに蘇る。


 だから、泣くな私。

 うまく最後の時間を共に過ごした。


 これでご先祖様にも褒めてもらえるよね。

 そう。

 橙子はダ・ビンチを遠縁に持つ子孫だった。


 日本に渡った彼の弟子が、橙子の祖先と関連する。血のつながりはないけれど、橙子はいつか、ダビンチに会いにくることを誓っていた。


 日記のことも知っている。

 生前ダビンチが書きつづり、その大半が弟子とサナレスに対して記した彼の生涯であったこと、それに外伝があったことを、ここに来る前から知っていた。


 だから泣くなってば……。

 孤独だった。

 誰にも気付いてもらえずにいじめられた時より、恋人と別れた時より、ずっと今が孤独だった。そして橙子は、これから先ずっと孤独で、ひとりで生きていかなければならないことを憂いていた。


 橙子にとってサナレスは、身近にあって眠る布団のような存在で、癒しで、物心ついてからは理想の異性だったのだ。いつもサナレスならこう答えてくれる、と頭の中で虚像を崇拝していたようだ。


 これが皇子様。

 まぁ実際別世界の皇子様だったので、一緒にいることに諦めはついたのだけれど。

 今まで生きてきた人生の有り難みが強すぎて、この先をどう歩いて進めばいいのか、今は何もわからなかった。


 そんな意気消沈する橙子に対して、サナレスではない別の神様が吐息をついた。

「しゃあないやん」

 まるで橙子が俯く足元に、小石を転がしてくるように、自然に語りかけてきたのは、インド周辺の神、ガネーシャだった。


 



偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ