異世界を渡って、目を覚ます
こんばんは。
そろそろこの章も最終章に近いです。
最近、のんべんだらりんと好きなことを、キャラクターがあるがまま書いています。
それって読者を意識しない作家ということで、ちょっとね。ちょっと次回くらいからは考えます。
ちょっとというのは趣味で描いてるんで、そんなもんで、ちょっと、としか言えないのが、すみません。
読んでくださる方には感謝しかないです。
※
「うんサナレス。私もあなたに会えてよかった。ーーだから、もうあなたを解放する。あなたとの約束を、私から解消する」
橙子は口にしたらいい言葉をきちんと認識していて、彼女の元に自縛されていたサナレスの魂は彼女が発した言葉と共に、一瞬で解放された。
「あなたの魂を消すぐらいなら、会えなくなっても私は平気」
『君らしからぬ言葉だなーー』
「私の言葉じゃないからね。日記に書いてあった。そんなふうに言って、死んだ女性がいたのね。それがリンフィーナ?」
『違うよ』
全部を今彼女に説明する気はないし、戻るのであれば、それほどの時間がなさそうだった。
『私のことはいい。君が今後、腹の中の子供と生きていけるだけのーー』
「それこそ、いいよ。サナレスってほんと過保護よね」
橙子は意地悪な顔で笑う。
「なんかサナレスってほんと、苦労性だわ……」
吐息までつかれてしまった。
「この日記、親友が記したものなのね」
『全て読む時間が欲しいがーー』
「ないとしても大丈夫よ。この日記、全て私が子供に、孫に引き継いであげる」
『?』
すでに言葉が声になって、橙子に届いているのかどうかさえ怪しい。そして橙子に自分の姿が見えているのかどうか、もうサナレスにはわからなかった。
ルカが残したのは、日記だけではない。
屋根裏にはこちらの人の目には触れないように書かれていた。巧妙に記された六芒星は、サナレスの世界に通じる扉を開く。今にもそこに吸い込まれそうだ。
「心配しないでいいよ、サナレス。多分この日記、サナレスは持っていけないと思うけれど、私が子々孫々に伝言してあげる」
今にもまた泣きそうだったのに、橙子は初めて顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
「だから、私はまた、あなたに会う。絶対にまた、未来で私は、あなたに会う」
もう、サナレスの姿は見えていないようだった。
虚空に漂う彼女の視線と笑顔は、自分の方を向いていなくても、切り取った絵のように美しくて、ーー愛しかった。
また、会う。
『また、会おう』
本当はそれが可能かどうかなんて、不確定要素が多い現状から、断言できることではないと言うのに、珍しく言ってしまう。
願いにも似た言霊を、ルカが教えてくれた。
だからサナレスも、科学的に何の根拠もなくとも、口にしたいことを言っていた。
『またいつか、未来で』
過去で手放してしまったものを、サナレスは忘れられなかった。
そして異世界で橙子と出会ったことも、きっと忘れられない。
兄様!
戻ってよ!!
でも元いた世界で置き去りにしている、サナレスが赤子から育ててきた、あの娘を今手放したら、きっとサナレスはもう、生きている意味すら見失う。
そしてきっと、完全に消えるのを感じていた。
『戻ろう』
彼女が伴侶に選ぶのが、たとえ自分ではない別の男であったとしても、望んでしまった。再び会うことと、彼女が幸せになることを見届けたい。
アセスという違う男と一緒にいる彼女の姿が、走馬灯のように脳裏に浮かぶ。
ちく、と胸の端が痛んだけれど、それすらまだ消えていない証だと思った。
『橙子』
おまえが、私とリンフィーナの子であったら、本当にいいのに。
伝えられなかった。
頼りない、ギャンブル好きの鼻の長い神に託すしかない。
あいつは西洋はあかんで。東洋だったら何とかするわ。
そんなことを言っていた。橙子がそれを覚えているかどうか。
私にはもうおまえを守ってやれる時間がーー。
どうしてこんなにも離れ難いのか。
サナレス自身にもわからなくて。
このまま橙子と一緒にいて、消えていもいいと思った決断が嘘ではないので、苦しかった。100年も生きてきたというのに、またこんなにも苦しい思いをするサナレスは、ルカが残した六芒星の中で立ちすくんでいた。
ムーブルージェの葬儀にすら出られなかった。
ルカの死に目にも会えなかった。
レイトリージェは自害し、感情を無くしたまま葬儀に顔を出した。
見えるものは身近な人の死ばかりで、正直もう橙子との別れを経験するなら、消えるという選択肢もあると思っていたのに。ルカが戻すための伝言を残し、橙子は笑顔で送り出した。
また、会おうーー。
二人の言葉が虚無に半身を突っ込んでしまったサナレスを、また生きる道に繋いでくれた。
サナレスは呼びたい名を呼んでいた。
「リンフィーナ! リンフィーナ!!」
死に近い絶望の底で、サナレスはただ自分だけを頼りにして命を繋ぐ存在に依存した。ただ頼りなく、妹として育てることだけが自分の存在意義だったのだけれど、どうしてか蒼い魅了眼に惹きつけられた。
『兄様、サナレス兄様、サナレス!!』
彼女に呼ばれることは命を燃やすことだった。まだ生きていていい、生きている価値があると感じる瞬間で、血肉が沸き、目力すら戻るようだ。
ばちん!
弾かれるようにサナレスは目を開けて、取り戻した生を確認するように、じっと周囲を確認した。
そういえば、シリーズに入れるのを忘れていると、本日気がついたと書いて数日。
シリーズに含める設定とか、あったような気がしてきましたが、入れられていない。
この怠惰な毎日。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




