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言葉を尽くしたら

こんばんは。

仕事で行政文書を書くことがあり、言葉を尽くすことを要求されるお仕事。


いや、私の言葉を尽くすってのは、気持ちを乗せるってことなんだけどと反論したいのだけれど、小説もやはり言葉に魂を乗せる、それも技術なのだと精進しなければならないと思いました。


サラリーマン管理職、毎日学ぶことが多いですが、気分転換に小説書いています。

         ※


 なぜそうも確信を得たとばかりに踏ん反りかえっているのかーー。

 サナレスは、大人になってずっと自己表現ができるようになった橙子を微笑ましく思いながらも、彼女の極端さに驚いていた。


 唐突さも、激しさも、過去の女性関係で学こともあったけれど、極端さによる曲解に導き出す能力は、橙子が群を抜いている。


「これでわかったでしょ?」

『何を?』

「リンフィーナが私のママ。あなたは私のパパ」


 サナレスは頭を抱えた。

 パパってーー。

『ーーごめん。わからない』

 そういう未来があったらいいな、とサナレスとて考えないわけではなかったけれど、リンフィーナはおそらく、自分を選ばない。


『日記から事実だけを抽出した見解だけ、話してくれると嬉しい』

 サナレスが苦笑すると、橙子は日記を胸に抱いていた。

「これ見てわからない?」

『私は君ほど勘が働かない』

「そっかーー」

 橙子は残念そうに吐息をついて、完全にサナレスを難儀な堅物扱いをしてくる。勝手に恋愛音痴だとレッテルを貼ってこられているようで、サナレスはこんなにも時間がない状況で恋愛話かと吐息をつく。


「じゃあサナレスに聞くけど、ルカの日記からあなたがわかったことは?」

『私の他にも、記憶を持ったまま異世界を行き来する者がいたこと』

「それ以外に?」

『その者は、私のおそらくはかつての親友で、私がここに来る日付を予測してーー』

 待っていたこと。

 この考えは事実ではないので、サナレスは言葉を飲んだ。

『予測できていたということだ。確率的に偶然とは考え難い』


「じゃぁサナレス、確率以上に人と人を結びつけるものってなんだと思うの!?」

『偶然を引き寄せる? セレンディピティのこと言ってるのか』

「そう! 万有引力の発見も、ペニシリンの発見も偶然だった。「Action(行動)」「Awareness(気づき)」「Acceptance(受容)」は、セレンディピティの3要素だけど、その中で最も必要なのは「Action」よね。だったら行動する動機って、何?」

『興味・熱意』

「わかってるじゃない。それって好きってことでしょ!」


 橙子の言いたいことの概要はすでに理解していたけれど、ここでかなり彼女の思考は飛んでいた、サナレスは無理矢理に結びついた思考回路に自分の言葉を奪われていた。


「好きが、人を行動させる。好きが、人の偶然を必然にする。それってさ、簡単に言えば運命でしょ?」

 やはり、そうきたか。

 サナレスは吐息をついた。


『ーー百歩譲って、君の言う通りだったとして、どうして君のママがリンフィーナで、私がパパだと?』

 ルカの日記では、一言もそういった類のことに触れていない。遺伝子の話は皆無だった。

 それなのに橙子は、そんなこともわからないのかと眉間に皺を寄せてサナレスを睨んできた。


「えっとさ、サナレスはこの世に滞在する限界時間があると言ってたよね」

『ああ』

「多分、それが今日なんだよね」

『ーーああ』

 正しくは昨日でもう、限界値に達していた。サナレスは時間を噛み締めていた。


「その時点でこの日記書いた人、サナレスに戻る道を示しているよね?」

 ーー。

 そのからくりに橙子が気がついているなんて思わず、サナレスは少し驚いた。


「私だって気づいてるよ」

 橙子は口を尖らせる。


「でね。今日サナレスが存在できる最後の日に、この日記書いた人はサナレスを生かそうとした。それってさーー。サナレスが戻った先にいるのは誰なの? リンフィーナって人なんでしょ?」

『それは、ーーそうだが』

「でね、この日記書いたルカって人がさ、サナレスと会うことだけを目的にしたなら、サナレスが元の世界に帰る方法を示唆しなかったと思うし、もしこの世界にとってルカが科学的に発展的なことを伝えたいなら、サナレスを帰さない。じゃあさーー」

 橙子は彼女が小学生であった頃のくせのまま、前髪を顔に垂らして、上目遣いでじっとりと見てくる。これが田舎の同年代の子供に受け入れてもらえなかった彼女の悪癖なのだが、その様子は変わらない。


「じゃあさ、サナレスがこっちからあっちに帰ることが、この世界にとっても重大って思った方が良くてさ、だってこの人死んでるし」

 確かにルカは無駄なことに時間を費やす男ではない。サナレスをあちらの世界に戻す方法を記しているなら、彼のその行動には何らかの意味がある。

「死んでるのにそうしたし、私をこの場に立ち合わせたの」


 ーーだから、と彼女は言った。

「たぶん私は、あなたがあっちに戻った異世界での出来事と、なにか関係がある。だからママはリンフィーナ!! それ以外の女、あっちの世界にはもういないんでしょ? サナレスがストーカー並みに固執した女、もう死んでるんだよね!!?」


 ストーカーって。

 やっぱり。

 彼女の論述は、どこかで彼女自身の主観によって強引に結論に達するようだった。


『それは君の意見としてーー』

 いったん受け止めようとしたサナレスに、橙子は酒でも煽っているような勢いで、サナレスの胸ぐらに彼女の拳を当ててきた。


 どんーー。

 突然の接触だった。

 もう透けてしまって消え入りそうなサナレスだったが、彼女の魂の接触は、サナレスを少し後ろに押しやるほどに強い。

 橙子は拳をサナレスの胸に握りしめたまま、俯いて顔を伏せていた。


「サナレス……」

 表情が見えない橙子の声は震えていた。


「サナレス、私は難しいことはわからない。でもこの日記を書いた人はあなたの大切な人で、大切な人がサナレスを今日あっちの世界に帰さないといけないと思っていて、ーーその方法がサナレスに伝わっていることだけ、雰囲気で察した」

『うん……』

 サナレスは俯いたままの橙子の頭を撫でる。

 子供が泣いている。根暗で、集団に馴染めなかった橙子をずっと見てきたサナレスは、橙子が泣いている姿は、子供が泣いている姿のように目に映った。


『大丈夫だ。私はここにいる』

 昔から慰める言葉は、橙子に届こうと届かなかろうと、そばにいることで伝えてきた。


「うん。でもねサナレス」

 橙子はサナレスの胸に顔を埋めたまま、強く言った。


「私は一人で生きていくよ。あなたがいなくても、絶対にこの世を生きてやる」

 聞かされたのは彼女の決意だった。


「たとえば私が今話したことがさ、サナレスが考える根拠が足りない話だったとしてもね、私には、この世界で一人でさ……、理由を持って生きていく、ーー支えである話なんだよ」


 サナレスは全てを理解した。

 だから、もうこれ以上、彼女を語らせる必要はないと思った。


 ひたすら彼女の頭を撫でる。

 彼女の主張が正しいとか正しくないとか、そんな話は必要なかった。それはサナレスが元いた場所に帰ってみて初めて、わかることだと思ったからだ。


 君は正しいかもしれない。正しくないかもしれない。

 でも今サナレスが言えることは、できることは、限られていた。


 橙子をずっと見守ってきた立場から言いたいことはたくさんあった。

 自分がいなくなっても大丈夫なように、色々と手を回していたし、彼女を手放すことにサナレスも痛みを感じていること。とても心配していること。彼女を安心させたい。様々な感情を言葉にしたかったけれど、できなかった。


 別れるという事実は、変わらない。

 だから集約した。

 彼女の人としての尊厳を、愛おしさを、言葉で尽くすとしたら、端的だった。


『橙子、君と出会えてよかった』

そういえば、シリーズに入れるのを忘れていると、本日気がついたと書いて数日。


シリーズに含める設定とか、あったような気がしてきましたが、入れられていない。

この怠惰な毎日。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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