隠されていた秘密の扉
こんばんは。
この物語だけ読んでもわかるように、と考えて書いていましたが、ここでサナレスの過去にがっつり関係する内容に突入してしまいました。(ため息)
長編の中の一部なので、お許しいただきたい。
興味がある方は『破れた夢の先は、三角関係から始めます』
https://ncode.syosetu.com/n8247gl/
でご覧ください。
注意※その当時は、一回の分量や、読者の読みやすさなど、今以上に考えずに書いていましたので、読みにくいかもしれません。
※
『ここが城かーー? 本当に……?』
率直に問いともつかぬ低い声で呟いてしまったサナレスの横で、橙子は入館料を支払っている。
「お一人様ですね?」
「ーーええ」
アンボワーズ城では二人分の入館料を払ったのだけれど、受付の女性と橙子のやり取りを横目に、サナレスは自分が実体化できなくなっていることを客観的に知ることになった。
『二人なんだが』
サナレスはその事実を濁すように苦笑して、橙子に耳打ちしたが、橙子は「安くつくなら一人と認識される方がいいでしょ!」とたくましい。
彼女には当分は働かずとも生きていけるほどの財力を残したと思っていたのだが、橙子から節約の精神は抜けないらしい。
「それにしても。ここってもう城ってレベルじゃないーーよね?」
レオナルド・ダ・ビンチが生涯を閉じたという城は、日本においても中流家庭の家族が住む程度のサイズのこじんまりとした住まいだった。庭だけは広く、観光場所として多少なりと手入れされていたけれど、なんてことはないこんな城、わざわざ観光に来る者は少ないだろう。
小さな洋館という方が表現するにはふさわしく、橙子が中学校の時に遠足で行った、神戸の異人館のひとつだと言っても遜色ないらしい。
「私もさ、ダビンチの生涯って、一応調べたのよ。なんでサナレスは、タビンチに興味持ったの? ーーこんなうらびれたところで死んだ老人の、いったい何がサナレスをここに来させたいって思わせたわけ!?」
『ダビンチな。歴史上、かなりの天才だったとか……? 言い換えると、相当な変人だったらしいな』
「彼は家族もそうだけど、弟子のほとんど全てに見捨てられてるけど」
『そんなものだ……』
すでに入館料を払って入った館の中は、ダビンチが生涯を過ごした様子が手に取るようにわかるよう、脚色され尽くしている。脚色、という言葉がしっくりくる。タビンチはおそらく、このような暮らしはしていないと、サナレスは思っていた。
モナリザを描いたという場所が、模造品によって示されていても、サナレスは首を振った。
『ここじゃない』
サナレスは言った。
「なんかあなたがダビンチで、見てきたみたい」
橙子は返事した。
『それは違う。この場所ではいと私が言うには根拠がある。ここでもし、このモナリザという名画を描いていたとしたら、採光の位置がおかしいだけだ。彼なら、たぶんーー、もっと緻密にーー』
「だから、どうしてダビンチのこと、そんなわかっている風で話すのかがわかんない。友達見たい」
橙子が不審がるのは道理だった。
サナレスはこのうらびれた城とも言えない館に足を踏み入れた瞬間、ある人の残穢を感じている。
この、くの字型の小さくて貧しい、城ではないような建築物には見覚えがあった。そのくせ、サナレスがコンプレックスを覚えるほどに、呪力だけは満ちている。
「ちょっと! どこ行くのよ!!」
ダビンチが研究した内容を細やかに伝達する観光的な場所をすべて度外視して、サナレスはズカズカと上の階に登った。サナレスに嘘は必要ない。
「こっちって立ち入り禁止ぽい!」
焦って付いて来る橙子の気配を気にする余裕もないほど、サナレスは確認したいことがあった。
舗装されていない天井裏へ通じる、頭を打ちそうな閉鎖的な通路である小さな階段を登る。
「もう! サナレスっ!!」
やはりか。
観光者が行けないように封鎖された天井裏に、明らかに残穢があった。この地に繋いだ能力の楔だ。
ばん。
埃がたった。
観光用の建物として手を入れかけたような痕跡がある。けれど手を入れられない理由があるようだ。
あいつめ。
残穢ですら抜かりがない、とサナレスは眉をしかめた。
どこかにある。
サナレスは埃っぽい屋根裏に、身を縮めるようにしながら入っていった。そして仕事のようにテキパキと動き、束の間片足を付いて顎をつまみ、残穢が表す意味を探る。
何度か舌打ちしていたと思う。
そしておもむろに、サナレスは三階から一階まで駆け降りていた。
私が辿る残穢を残した人物は、高いところをバカにするような人物だった。それなのにこのような小高い丘に住んだ理由を問い詰めて見たかったけれど、‘彼‘が、落ち着く場所は地下だと思う。確信があった。
だって‘彼‘がサナレスが想像する通りの人物であれば、サナレスは彼のことを知り尽くしていた。
すっかり観光されるような城になっている。
橙子が立ち入り禁止だと呟いている通り、無茶をして地下に通じる道を探索して押し入れば、見つかると警察沙汰だった。
『どこが、あいつが私に残したメッセージになる?』と一階に降りたサナレスは視線を鋭くした。サナレスの姿が実体化していなかったことが、橙子にとっては幸いだと思う。サナレスとしては、流行る気持ちや感情を抑えて行動することはできなくなっいた。
サナレスは神経を研ぎ澄ます。
そして彼が世界的名画を描いたという場所の違和感について、サナレスは着眼した。
レオナルド・ダビンチ、彼が生涯を閉じたというこの小さな城に、彼は愛した女性を呼べていない。歴史上、彼は天涯孤独だったのだ。つまり、描いた場所も不明で、今置かれているモナリザは誰かが再現したレプリカだ。展示されている場所、それ自体全て観光用に作られた「場」に過ぎない。
古びた小さな館では、使用された場所だけは忠実に表現されていたけれど、絵を描いた場所と、研究物を転じるする場所だけは区分されていた。サナレスは研究を展示している場所には何の霊圧も感じてはいなかった。
だからあえて、直感で感じたところに足を運んだ。
サナレスは彼が本当にモナリザを描いた場所を、この館の中でイメージした。
わかる。
今やっと、この城に呼ばれた意味を理解できた。
サナレスは口には出さず、『ルカーー!!』と彼の名を呼び続けていた。
最後まで私を試すような真似をしていると抗議したかったけれど、クロ・リュセ城で彼がモナリザを描いた場所を特定したサナレスは、そこが彼がサナレスに対して残したメッセージだ。
そういえば、シリーズに入れるのを忘れていると、本日気がついた。
シリーズに含める設定とか、あったような気がしてきました。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




