表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

いつかの夕焼け

こんばんは。

夏休みなので、またやらなければならないことを後回しにして、書いている。


でもいいですよね。

お付き合いくださる方に感謝します。

なんか勝手に書きたいこと書いてるので、そこはすみません。

        ※


 川沿いに点々とある観光者用の宿から、アンボワーズ城は見えていた。

 大きな城で、アンボワーズを代表する。だからその城が観光スポットになり、橙子とサナレスが宿泊したような宿が点在していた。


「クロ・リュセ城は、あれよ」と、自信満々に指差した橙子は、それが勘違いだったと知ると顔を真っ赤にして横を向いた。


『気にするな。敷地内にダビンチの銅像まで建てられていたら、誤解する人も多いだろう』

 観光スポットであるアンボワーズ城をひと通り見学した後、2人はそんな会話を交わした。


 とはいえサナレスは、最初からクロ・リュセ城がアンボワーズ城のように立派なはずがないと思っていたし、入館料を払うときにフランス語でも書いていたし、英語でも書いていた。


 ただこの世界の古城に興味があって、見てみたかっただけだ。

 それと、なぜだかクロ・リュセ城がある場所はサナレスにはわかっていて、そこに向かうのは未だ早いという感覚的な啓示がある。


「サナレス、あなた知ってたでしょ? もう、銅像まで作って飾って、紛らわしいんだって」

『いいじゃないか。結構楽しんだ。だが地方の貴族の城はやはり質素だな。観光案内のパンフレットで見たベルサイユ宮殿にも行ってみたいものだ』

 そう言ってサナレスは顔を上げ、直射日光に目を細めて自分の腕で影を作った。

『いい天気だな』


 サナレスはずっと呪術を使う際はなく、それなのに庶民からは太陽の神と呼ばれていた。かつては同じ神の氏族の間でも、光の皇子などと呼称された。


 おそらくは全知全能という言われたジウスを父に持ち、呪術の才がない金髪に生まれたがために、苦肉の策で名付けられた名だ。


『ーー天照大御神、ミトラス、ヘリオス(ソル)、アポロン(アポロ)、ルー、シャマシュ、エアモン・ラーだったか? この世界では、太陽神は何をするのだ?』

「サナレス、キマワリが抜けてるわ」

『一匹ぐらい抜けてもどうでもいい。何をする神なんだ?』

 橙子は彼女なりに考えていた。


「どうせWikipedia的な回答をしても、そんなのは知ってるんでしょ?」

『ああ。君にそれは期待していない』

 橙子は、不平不満を口にするのを諦めたように肩を撫で下ろす。


「庶民的に答えるわね。太陽神っていうのは、希望だと思うわ。ーー人ってさ、植物と同じで絶対に光なしでは生きられないから、ーー生きていく希望だと、私は思う」

『簡潔に、君の意見を教えてくれて、礼を言う』


 サナレスは苦笑した。

 偽りの神である自分は、別世界で、偽りの神として死ぬのがいいのかもしれない。

 神なんてもの、橙子が住むこっちの世界ほとんどが迷信でしかなく、成りを潜めている。今更、呪術も使えなければ、信仰心を得ることもない。


 太陽は、沈む。

 サナレスは思った。


「今度は、間違いなくこっちよ!」

 石畳の街道を急足で進む橙子の影は長くなった。

 クロ・リュセ城はアンボワーズ城を左手に見ながら、小高い丘を登っていく。

 日本の観光地とは違って、この路地の奥に何かあるとは思わせないほど、宣伝する看板はない。ネット環境も良くなく、橙子がアンボワーズとクロリュセ、城を取り違えたとしても仕方がない。


 石畳の側道を一歩一歩と登りながら、サナレスはふと後ろを振り返った。

 赤く染まる城下町がそこにある。

 家の壁と外壁が白いからこそ、太陽の色に染まる街並みがそこにあった。

 そして高低があるからこそ、一息登ったその地点から、街並みの一角を見ることができた。目にするその風景にアンボワーズ城は映らない。


 左手に見渡す、庶民の暮らし。

 そして右手下にそびえる、アンボワーズ城。


 たぶんダビンチは、両者を理解した。

 サナレスはふと、ルカを思い出した。

 伯爵家の異端児として生まれた親友のルカは、サナレスとは別のコンプレックスがあった。


 王族なのに呪術を使える素養がない金髪のサナレス。

 この国は呪術を廃した国。


 貴族なのに呪術の最高位を扱える素養があるルカ。

 この国は呪術を廃していた。


 だからサナレスは息ができる光が当たる場所を確保して、ルカは闇の法則で縛られていた。


『橙子、ちょっと待って』

 サナレスは閉館前になったので先を急いでいたけれど、サナレスは呼び止めた。

 橙子は首を傾げたけれど、振り返ってサナレスがいる地点まで坂道をかけてくる。


『見て』

「何を? とっても綺麗な夕焼けしかないけど」

『そう』

 サナレスはうなづいた。


 以前ルカと見た夕焼けを彷彿とさせるその景色は、サナレスがルカのいる「死」という虚無に近くなっている感覚を感じ取っていたのだが、サナレスは橙子にそれをうまく伝えることはできなかった。


 だから、ただ一緒に見ようと手招きした。

『私は、太陽でも夜でもなく、夕焼けが好きだな』

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ